ちょ、俺、皇族の血引いてるってマジ?

たけなわうたげ

第1話

 皆さんは、現在、我が国パンジャーブ国が抱えている皇室問題をご存知だろうか。

 パンジャーブ皇帝の血筋は始祖の神の血を引いているとされ、1400年以上続く系譜である。

 時々例外もあるけれど、代々男系男子が皇帝を担っており、1000年くらい前までは文化のほとんどが皇室によって誕生したといっても過言ではない。100年ほど前は神と崇められていたらしい。今も皇室は存在していて、国際関係を良好にするために会食をしたり、何か災害などあれば国民のために祈ったりしているらしい。


 だが、そんなことは普通に暮らす俺みたいな高校生にはなんの関係のない話。

 と思っていた。




「ショウタよ。」

 週に二度ある合気道の稽古の後、汗だくの俺は、珍しく神妙な顔をした親父と向かい合って座っていた。

 親父は合気道の師範で、毎日この道場で門下生を教えている。俺は普段、稽古が終わったらさっさと先に帰るのだが、今日は、「残れ」と言われてここにいる。汗だくなのは、門下生がいなくなった途端ボコボコに投げられたからである。

「お前は、もうじきわしの息子ではなくなる。」

 ん?なんて?

「お前は未来の皇太子になるべく皇室の養子に入るのだ。」

 ん?何を言っているのかよくわからない。

「実は、わしらには13代前の皇帝の血が流れている。現在の皇帝には娘しかおらず、皇太子である皇帝の弟には息子が一人しかいないのは知ってるな?」

「あ、ああ」

 俺はかろうじて言葉を放った。

「我が国は男系男子しか認めてないから、このままだと絶える可能性がないこともないので、お前が養子として入ることになった。」

「え?あの、いろいろ初耳すぎなんですけど?」

「皇室はパンジャーブの歴史そのもの。途絶えさせるわけにはいかん。これは国難なのだ。お前の意志もあるだろうが、ここは、一国民として協力しなければならないとわしは思う。」

 ああ、これは絶対なのだ、と俺は思った。親父にはこういうところがある。変更不可。拒絶不可。こうと言ったらこう。

 普段はこんな横暴ではない。俺の意志を尊重する厳しくも優しい親父なのだが、礼儀や道徳に関してはとことん頑固になる。今回のもそれに似ているのだ。

「まぁわしとショウタが親子であることは未来永劫変わらない。そう簡単には会えなくなるかもしれないが、いつまでも愛しているぞ、息子よ。」

 俺はいろいろ言いたいことを整理するためにも、ひとまず一緒に家に帰った。



「おかえり!」

 家に帰ると妹のミズホが待っている。俺と妹の母親は5年ほど前に癌で亡くなっている。ミズホは小学五年生で、最近夕食を用意したりしてくれるようになった殊勝な妹だ。

 今日はゴーヤーチャンプルーだ。普通にうまい。

 食事の時は食べ物に感謝して静かに。の教えに従い、俺は考えを巡らせながら黙々と食べる。うまい。養子に行ったら、この家から出て行かないといけないのだろうか。ミズホの料理も食べられないのかな。

 そう思ったら、勝手に左の目から水が出た。

「お兄ちゃん…?泣いてる?」

「泣いてない。」



 食事が済むと、親父はミズホにさらっと俺を養子に出すと報告して、話をし始めた。

「全然知らんかったが、わしの家系は皇帝に繋がっとるらしい。」

 知らなかったんだ…。

「わしは親と疎遠になっている。確認したら本当らしい。といってもかなり前の皇帝だ。13代前の皇帝の側室が産んだ子ども、が俺たちのルーツらしい。理由はよくわからないが、皇帝が早くに亡くなって、即位もしなかった我々の祖先は宮家を抜けたらしい。だから記録にも残ってない。宮家を抜けるなんてのは、当時でもそんなになかったみたいだが。そして俺に至ると。

 宮家というのは皇族を系譜ごとにまとめたものの名称だったような気がする。俺はこれから行くところをあまりにも知らない。不安である。

「突然で驚いたと思うが、まだ完全に決まったわけではない。3ヶ月間の素行調査が行われて、課題を与えられたり、質疑が行われたりして、選ばれるかどうか判断されるらしい。ショウタはまだ候補に上がっただけだ。嫌なら断ることもできる。だがな、」

 親父は俺の顔を真剣に見つめた。

「何も知らずに断るな。やるからには、真摯に取り組むのが礼儀だ。」

 俺の隣では妹が難しい顔で何か考えていた。

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