特別編「(お)パンツの日(0802)」


【星野夜空】


 いやはや、森香こいつは……もしかしてむっつりスケベなのではないかと思った瞬間だった。


 昨年、高校1年生の夏。


 普段通り学校へ登校し、授業を受け、委員会に行き、そして下校した俺たち二人に唐突に襲い掛かった大雨。


 ゲリラ豪雨というわけでもなく数時間にわたって降り続いた大雨はたまたま傘を持っていなかった俺たちをべちょべちょにするには事足りた。


「っはぁ、っはぁ、っはぁ……待って、待ってよぉ~~」


「えぇ、ちょっと濡れちゃうからっ! 早く!」


 はみ出んばかり――いや、この状況でそれを言うには実に的外れな気がする。


 そうだ、訂正しよう。


「だって……」


 水色の花柄のブラジャーが雨で濡れたワイシャツから透けていて、大きな胸が作り出す谷間には少しばかり雨だまりが出来ている————そんなあられもない幼馴染の格好が目の前にあれば逃げるように走るに決まっているだろ‼‼


 そんなの無理じゃないか‼‼


 だって、だって、だって。


 おっぱいが見えそうで見えない―—そんな生き地獄の様な景色を目の前に見せつけられては俺の意識が保てるかが分からない。


 何せ、俺には前科がある。


 俊介とかその辺の男友達はそれは前科にはならないと言っていたが、俺からしてみれば奴らの間隔は狂っているから―—もはや前科と言えよう。


 俺はもう、絶対不誠実なことはしたくはないのだ。


 好きな子に、幼馴染の森香にそんなことは断じてしたくはない。


 思わず、思わずだ。


 その魅力的な塊に手を差し伸べてしまいそうでやばいのだ。


 もみもみと、さらに一歩踏み外せばはむはむあむあむしてしまいそうで怖いんだ!


「……早く、早く走れって」


 しかし、そんなことを直接言えるわけもなく―—なんとか自制心を働かせながら、その揺れて、たゆんで、はみ出て、さらにはたぷたぷと水のようにフワフワしているおっぱいを目の前に、ぼそりと呟いた。


 もう、一体全体、自分が何を思っているのかすら分からないが——違う捉え方をするならば俺の様な男を思考停止させるくらいには破壊力があることは理解してほしい。


 まじで、断じて俺は変態ではないからな、な‼‼






「うあぁ~~~~ひとまず、避難ぅ~~!」


「うっわ、ひどいなこれは……」


「なんで急にふるんだよぉ! うぅ……」


「天気予報は晴れだったしな……これは、さすがにな……」



 そう言いながら玄関にあらかじめ準備してあったタオルで適当に身体を拭き、お互いに見せれる程度まで脱いでいると、すぐに母親が玄関へ下りてきた。


「あらら、急な雨で大変だったでしょぉ~~夜空ぁ」


「——っおばさん‼‼」


「あらぁ! 森香ちゃんっ、ひさしぶりぃ~~!」


「会いたかったよぉ‼‼」


「あぁ、ちょっとストップ! まってべちょべちょでしょお!」


「おばさん、隙あり‼‼」


「うおっと、危ない‼‼」


 ニコニコと笑いながら、拭いてもなおべちょべちょな体で抱き着こうとする森香をすんでのところであしらい、交わす母さん。


 そんな二人を遠めに見つめる俺。


 さすが、心が通じ合っているだけあって動きが読みやすいのか――――なんてのんきに考えてしまっている自分もいるのが少し怖い。


 ぶるぶると顔を振って、頭を正常に戻し俺は言った。


「あぁ、もう……先に入ってきてていいよ」


 すると、森香は抱き着こうとするのをやめてこちらに顔を向ける。そんな彼女と目が合い、今もなお透けている胸に視線が行きそうで慌てて逸らすと、ニヤリと妖艶な笑みを浮かべた。


「ど、どうしたんだよ……」


「あれれぇ、もしかして~~」


 まるで酔っぱらったかのようにフラフラと飛びつく彼女。あまりに急すぎて避けれなかった俺の胸にドカンと飛び乗った。


 すると、次の瞬間。


 まんざらでもない表情で、彼女が——いうはずのないようなことを言ってきたのだ。



「……一緒に入るぅ?」


「えっ!?」


「へへぇ~~、顔真っ赤だよぉ?」


「は、はっ——ちが、違うし‼‼」


「いいのぉ、入らないのぉ?」


「は、は、入るわけないだろ‼‼」


 俺が顔を熱くさせながら全力で否定すると——今度は、噴き出すように笑い出した。


「——はははっ、そんな、そんなわけないじゃん! 冗談だよ、冗談!」


「は——、えぇ」


 すぐに踵を返し、濡れた髪を揺らしながらお風呂場へ向かった彼女。


「じゃ、先に入ってくるね!」


「あ、ぁぁ……わ、かった」


「あ、でも——のぞいちゃ、駄目だよ?」


「分かってるよ‼‼」


 まるで見に来いと言っているような表情でお風呂場の引き戸を閉め、俺の純粋な心を刺激する。後ろの方でニヤニヤと眺めている母さんを無視し、俺はリビングへ向かった。


 

 ――――つもりだったのだが。



「あぁ、ほら、森香ちゃんに着替え持って行ってあげて」


「え、なんで俺が——」


「いいからぁ!」


「うわっ、ちょっ!」



 口でははっきり言う俺も強い押しには弱く、昔着ていた服を着替えにと母さんからズボンとシャツを渡され、風呂場前まで来てしまっていた。


 それにしても、どうしたものか。


 入っていいのか、それともここに置いたほうがいいのか。


 迷っていると……奥の方から鼻歌が聞こえる。

 そうか、それならつまり——彼女はもう湯船に浸かっているのだと思われる。




 そんな風に瞬時に判断し、俺は扉へ手を添え―—ガラガラと横に滑らせて、脱衣所へ入った瞬間。





 俺はその日、忘れもしない記憶に焼き付いたを見ることとなる。



「森香、着替え持ってきt―――――ぁ、ぁ、ぁ……あぁあぁああああ!?」


「……え?」


「ぱ、ぱ、ぱぱぱぱぱ、ぱん……っつ」


「ひゃああああああああああああ!?」


 咲き乱れる悲鳴。

 左右にまき散らされる水の雫。


 そして、率直に―—垂直に、はたまた直角に目に突き刺さる。


 






 それは紛れもない—————―綺麗な花柄浮かぶ、しかし、どこか子供らしい。


 水色に染め上げられたシンプルなパンツ、女の子の、はたまた幼馴染のパンツだった。



 なかなかどうして、不思議な感覚にぐっと体内時計が止まる。

 




 右頬に到来する衝撃と共に、走馬灯のように焼き付けられる彼女のパンツ。





 目から離れない、忘れるはずもない綺麗ながまさに至高。





 そんな風に思った俺はもはや、変態の末期なのかもしれないな。





 この前、友達におパンツ最高とか言っている彼女持ちがいたような気もしなくもない……。






<あとがき>



 というわけで、復活しました。

 まさかの間髪入れずに投稿できたことを誇りに思います。


 というわけで2021年8月2日、ついにパンツの日らしいので書いてみました。昨日はおっぱいの日らしいですが書けなかったので、そこはまじで土下座します。


 とはいえ、おすすめレビューで褒められて、たくさんのコメントも頂けてご満悦なふぁなおは自動車学校の卒研やら、家庭教師で新たな生徒も受け持つことになったので頑張ります。

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