第30話

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「いいか。魔界ジオラマの中じゃ。お前がどこに逃げ隠れよとも、この俺のスマホにお前の位置情報が来るんだよ。まぁ、どっちにしてもここからの至近距離からの惑星落下(メティオ・ストライク)を身体に喰らったら新幹線に惹かれちまうようなもんだろうから、肉体何てミンチだろうしな」


 ほっほっ

 

 魔人がせわしなく股間を弄る。いや、正確には今自分の熱くなっている何かをだ。

「特大の射精できそうだぜ!!」

 睨みつける魔人の眼差し。

 黄金色に輝く、深紅の瞳孔。

「彼女から聞いたが、お前ら魔術師は人間を助けなきゃならねぇんだってな。なんつーか偽善者のくせによ!!ならば俺の惑星落下(メティオ・ストライク)を避けたら迫りくる車を助けることは出来ねぇじゃねえか。それもどうすることも出来ねぇ、今のオメェの状況だ」


 けぇけっけっけっ!!

「ああ!!この射精感は彼女に捧げる恍惚境地(エクスタシー)よ!!」

 僕には見える。

 奴の心が。

 完全に勝利を獲得した戦士。

 敵の首の付け根に刃を当てて引いた時、相手は血潮を噴き上げて斃れるだろう。正しくその『引き』が訪れようとしている。

 まるで鮮血に興奮する古代インカ帝国の司祭(プリースト)のトランス状態が比嘉鉄夫を包んでいる。

「これで終わりよ!!魔術師」

 弄る指の動きが止まった。

「テメェの悪あがきは、遅(おせ)ぇんだよ。いちいち言葉をルーンに書くと緑の光がでるとかなんざこの俺絶対的恍惚境地(エクスタシー)が発現するこの俺の力にくらべればなぁああああ!!」

 

 うおぉおおおおおぉおぅうう!!

 

 奇声を上げる魔人。

「来たぜ!!全身を包み込むような脳イキの超強烈エクスタシーぃい!!」

 魔人の身体が震える。震えて空間が揺れ、曲がって動くのが見えた。強力な磁場が発言している。

 見れば空間から裂け目が見えた。

 まるで唇が縦に開いたような、いや美しい貝が開いている。


 ――そうか、

 僕は冷徹に空間を見た。


 ――こいつは、全ての生命が子宮からこの世界へ生まれ落ちる時の入り口。


 つまり『聖なる唇(ヴァギナ)』


 僕は何故か笑いたくなった。

 魔人と言えども母なるものからは解放されないという事に。そして奴には僕の最後のあがきが見えたに違いない。

 だが、今はそれにかける。

 僕のありったけの『神秘力(マナ)』を


「覚悟しやがれ!!魔術師」

 比嘉鉄夫の背後で巨大な唇が黄金色に輝く。

 

「心配するな!!肉は拾ってやるぜ!!」

 黄金色の唇から巨大な岩石が出て来た。

 ぬっと出て来たその形は見事にそそり返った男根だった。

「そこら辺の野犬がな!!死ねやぁああ!!」

 その声と共に巨大な男根が僕へとすごい速さで迫り来た。

 僕の頬にもまた車のライトが当たる。

 交わる世界の中に僕は立つ。

 だが既に魔術は完成している。

 後は発現するだけ。


 聞こえるか?

 

 ぎぃ…

 ぎぃぎぃ…

 ひぃひぃひぃ…

 蠢く者たちの声無き叫び声が。


 僕には聞こえていたんだ。

 この世界に召喚されし者達の声が。


 比嘉鉄夫の絶叫の向こうで蠢く暗闇の住人たちが既にこの空間、そうラビリンスに蠢いているのを僕は知っているんだ。


 蠢け!!

 召喚されし者達。


 魑魅魍魎。


 あの男根を絡めとり砕けさせよ!!

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