第36話

 都会から遠く離れた郊外。

 数年前に潰れ、廃墟となった大型ショッピングモールに九重は足を運んだ。

 髑髏は計画に支障が出ると、いつもここに身をひそめていた。変わりなければ、今日もここにいるはずだ。

 工事現場によくある柵を飛び越えて、中へと侵入する。

 外壁が黒々とした蔦に絡めとられていて、不気味であった。

 電気が通っていないだけでなく、月明かりすら雲に覆われた夜であるため、館内は非常に暗い。

 本当は童素を具現させて明かりを確保したいが、ここに髑髏がいるなら、おそらく監視や見回り役がそこらにいるはずだ。

 自分の位置を悟らせないためにも、九重は隠密行動を心掛けながら暗闇の中を進む。

 視覚に頼れない中、潜入すること五分。

 懐中電灯を持ったふたりの黒スーツの男が見回りをしているのを発見した。九重が来ていることにはもう気付かれていそうだ。

 九重は覚悟を決める。

(弱者さん、俺に力を……)

 昔、習った体術――もとい暗殺術を思い起こした。

 完全に気配を消して、悠々と黒スーツたちに接近していく。

 九重の到来に半信半疑なのか、気の抜けた談笑をしている黒スーツらは一切気づかない。

 ついには、難なくすれ違うことができた。

 苦も無く背後に回り込んだ九重は、中肉中背の方の黒スーツの肩をトントンと叩く。

 ギョッとした黒スーツはあわてて振り向くが、視界には誰も映らなかった。

 ビックリした、と告げようとした時には、すでに相方は背中から倒れ込んでいた。

「なっ、何が……ぐぁぁっ!?」

 そしてふたりとも意識が途絶えた。

 バチバチと電気が鳴る。九重が瞬時に黒スーツからスタンガンを奪ったのだ。

 そのまま懐中電灯と拳銃を一丁拝借した。

 一旦、部屋の陰に身をひそめ、九重はポケットからマッチを一本取り出した。

 静かに呟く。

「今日だけは……髑髏を倒すまでは昔の俺だ」

 スッ、とマッチを擦り、着火。

 揺らぐ炎を二秒見つめてから、床に捨て、再び足を進めた。

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