第14話

 指定したラウンド○ンには最寄りの駅から電車で二駅ほど移動すれば到着する。現地集合にしているので、九重は余裕を持って乗車。


 現在は童貞関連の仕事を受託しているわけではないので、九重は高校の時とは違い大学には普通に通っている。


 今、電車の窓から眺める景色も通学時に見慣れたはずなのだが、なぜか鮮明に見える。いつもは気にもしなかった耳鼻科の看板やひっそりと鳥居を構える神社などが目に入る。


 ガタンゴトン。


 線路を通過する音響が心なしか心臓の鼓動を速めている気さえする。


 やけに冷たく感じるつり革を握りしめ、ユラユラと身体を揺られながら、無事に目的の駅に着いた。


 ここから徒歩十分弱。


 九重は腕時計で自分が遅れていないことを確認し、歩みを進める。


 無意識に歩くペースが速くなっていたのか、約束の五分前ではなく十分前にたどり着く。


(早く来すぎたな)


 そんな九重の心配も、物陰からの呼びかけによって杞憂に終わった。


「遅い」


「いや、俺ぁちゃんと十分前に――」


 九重は言葉をうまく続けられなかった。思考が宙を舞う。


「な、なによ……そんなにじろじろ見ないでくれる?」


 甘酸っぱくて美しい声が耳朶を撫でる。


「別にそんな珍しい服装でもないでしょ? 普通に運動しに来ただけだし」


 困り眉で絹衣は前髪をくねくねといじる。


 白を基調としたシャツの上に薄手のカーディガンを羽織り、デニムパンツを合わせた、カジュアルだが女の子っぽさも漂うコーデ。彼女のスタイルの良さが際立っている。


 九重は「あー」とか「んー」とか適当に口に出してみる。なかなか頭の中がまとまらない。それほどまでに絹衣の私服姿は衝撃的だった。


(ここはやはり服を褒めた方がいいのか……数多のラブコメを思い出せ)


 不安定な心を隠すように、頭を掻く。


「あの、あれだな……それいいな。その羽織ってるヤツ……えと、ガーディアンだっけ?」


「はいゼロ点。あなた、童貞だけじゃ守り足りないのかしら?」


「ヤメテ! 揚げ足取らないで!」


 おおげさに両手で顔を隠す九重。


 対する絹衣は嘆息した。


「はぁ……。もういいから、早く中に入りましょう」


 九重のことを少しも気にかけず、絹衣はスタスタと屋内へ入場していった。九重もあわてて後を追った。

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