シナリオ47


「マ、マジか! ピコピコの聞き間違えだろ! この局面ではないって! 歴代名作RPGだって、ラスボス相手にパフ〇フとか、ギャグ系スキルとか、絶対、通じなかっただろ!」


『いえ……確かに踊りを選択されました……早く脱いでください……』


「絶対、死に確だって! ここまで苦労して死にたくないっ!」


『アバターがプレイヤーに反旗をひるがえしてどうするのですか……』


「おい、聞け! 名もなきプレイヤーよ! お前の選択は誤っている! 今ならまだ引き返せる! 俺の人生を救ってくれ!」


  ☂


ピコピコ:アバター『アグリ』はこのままでは死に確だと必死に訴えています。選択肢の変更を受諾しますか?


 受諾する。

「今回だけは特別なんだからね!」

【シナリオ48へ】


 受諾しない。

「さっさと踊りに行け! そして死んで来い!」

【このまま読み進む】

(*カッコ内のセリフは実際のプレイヤーのセリフとは異なる場合があります)


  ☂


「ひ、人でなし! プレイヤーの鬼! 鬼畜!」


 しかし、アバターはプレイヤーには逆らえない。

 アグリは『農夫のつなぎ』を颯爽さっそうと脱ぎ棄て、ふんどし一丁になった。


『まもなくのスキルレベルが上がります。運が良ければ、あのオーガさえも魅了し、生き延びることもあるでしょう。成功確率3%』


「3%って……俺、レベル一なんだからね! 運なんてどこにあるのさ!」


 ふんどし姿に「馴れた」と言っていたはずのエルフ娘も冷めていた。


「ロリコンヘンタイ農夫……正気? 私を逃がすためにそこまでする?」


 ヒーロー(アグリ)の最大の見せ場――ハリウッド映画『アル〇ゲドン』の飛行場のような感動的シーンであるはずなのに、ヒロイン(エルフ娘)の顔には、一切の感動も悲哀さえも見られない。

 まるで、イノシシに荒らされ、道路に散乱した生ごみを眺めるような表情をしていた。


「テキサス州サイズのいんせきを破壊するより、ムリゲーなんだからね!」


 このままではむくわれない。本当に無駄死にだ。

 だから、映画のような雰囲気だけでも作ってみた。


「俺はこれから死に、君の長い人生はこれからも続く……いつかきっと、君は僕のすべてを忘れて幸せになるのだろう……だけど……一つ約束して欲しい……白いふんどしをみかけたら……俺のことを思い出してくれないか?」


「ロリコンヘンタイ農夫……キモい……」


「これで君の心は永遠に俺のもの……君も俺のことを一生忘れることなんてできやしない。フハハハハハ……俺はプレイヤーなんかに負けないぞ!」


 雰囲気作りのついでに思いのたけもぶちまける。

 この感情が非道な選択肢を選んだプレイヤーまで届くことを祈って……。


「マジキモい……さっさと死んで来い!」


 エルフ娘のそんな身もふたもない言葉に促され、アグリは最終決戦に臨んだ。



『アバター嘆き節・三番』


 ふんどし~出た出た~もろだしだぁ~「「「ヨイヨイ」」」

 ラスボス戦でも~死に確イベントでも脱ぐ~

 あんまり~戦闘手段が~ひどいので~

 さぞや~アグリさん~見苦しかろ~「「「「「サァヨイヨイ」」」」」


(おおっ、いきなりゴブリンたちがノッて来た! スキルレベルの恩恵か?)


 あなたが~どうしてもって~選ぶのなら~「「「「「ヨイヨイ」」」」」

 どんなぁ~場所だって~脱ぎましょう~

 だけどね~ラスボスには利かないと思うのよ~

 ラスボスが~お笑いネタで倒せるなんてクソゲーなのよ~「「「「「サァヨイヨイ」」」」」


(オーガだけが笑ってない! マジギレしてる?)


 さぎょうぎ~ふんどし~おパンツさえも脱ぐ~「「「「「ヨイヨイ」」」」」

 するともう何もない~マッパなのよ~

 いくら囮役でも~ちょっとあんまりだよね~

 今回は子供だって見てるんだよね~自称二十歳だけど視線はとってもイタいのよ~「「「「「サァヨイヨイ」」」」」


(ヤバッ、俺、弱気になって来た……)


 子供の前でも~なんだって出来る自分が~少しずつ分からなくなってきた~「「「「「ヨイヨイ」」」」」

 アバター一つに~こころは二つ~

 ヘンタイと罵られ~よこしまな感情に身を焦がしながら~

 やっぱりいつかはプレイヤーを~ぶっ飛ばしたい~「「「「「はぁ~ごもっとも!」」」」」



(聞こえたか! 俺の心の叫びが!)


『アバターアグリ……あなたは最後まで立派にアバターとしての役割を全うしました。私がすべての目撃者となり、GM様へお伝えしましょう。あなたの誇り高き魂が心正しきプレイヤーへと引き継がれるように……』


(ありがとよ……ピコピコ)


 アグリが踊り終えると、眼前にはセンム(オーガ)が立っていた。


「グォー、お前ら遊ぶな! 踊るな! 働け!」


 散り散りになって逃げていくゴブリンたち。

 村のゲートには、ふんどし一丁のアグリと、憤怒の表情で棍棒こんぼうを握りしめるセンムだけが残された。

 きっとこれから子供たちを逃がした責任を取らされるのだろう。


 その前に、憂さ晴らしだろうか……。

 アグリの脳天へめがけて巨大な棍棒が振り下ろされる。


「ほらね、死に確だった……」


  ☂


ピコピコ:アグリは死にました。

【シナリオ4へ】

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