シナリオ45


「正面口から逃げるぞ!」


 アグリはエルフ娘を肩に担いだまま、教会のホールを走り抜ける。


「人族の匂いがするブヒ!」「うまそうな匂いガウ!」「観客に人族が紛れ込んでいるゴブか!」「センムを呼ぶゴブ!」と騒ぎ立てるモンスターもいたが、大半はお酒で酔っぱらっていたため、アグリに気付く様子はない。

 あっという間に、正面口まで辿り着くことが出来た。

 しかし……、


「あっ、開かない!」


 扉は固く閉ざされ開かない。

 洋館に入る時も厳重に施錠されていたが、出る時も鍵が必要なのか。

 いずれにしても、この洋館の警備は異常が過ぎる。


(どうする? 引き返す? それとも窓を打ち破るか?)


 しかし、迷っている時間などなかった。


「こっちから旨そうな匂いがしてくるブヒ……」


 ボンテージオークだった。ブヒブヒと鼻を鳴らしながら近づいて来る。


(ヤバいっ……!)と、今来た通路を引き返すが、壁のようなボンテージオークの肉体に阻まれてしまう。


「おまえ……誰ブヒ?」


 アグリを見て舌なめずりするボンテージオーク。


(ひ、ひぃ~)


 しかし、狭い洋館に逃げ場などない。

 あっという間に、オーガ、ウェアウルフ、ヘルダックなどの上位モンスターが集まって来て、肉の壁を作ってしまった。


「おっ、ヤーサイがいるグォ」「おまけのエルフの方が美味そうガウ」「まさにカモネギ……グワグワ!」「ただ、量が足りないバウ」「肉付きが悪いグワ」


「ヤーサイはこのブヒ様が一番先に見つけたブヒ!」


 そして、こともあろうか、争いを始めたのだ。

 ただでさえ狭い村の教会なのに、身の丈2、3mもある脳筋モンスターたちが何匹も暴れたら大変なことになる。


「ちょっと待って!」「シャレにならないから!」「つ、潰される~」


 逃げ惑うアグリと、アグリを追いかけつつも争いを止めない脳筋モンスターたち。

 客席はおろか、ビンゴゲームのパネルやポールダンスのステージまでもがぐちゃぐちゃに……。


「おまえら何やってんだい! 私のステージがメチャクチャじゃないか!」


 そこに登場したのがラミア様。怒髪天どはつてんごとくお怒りの様子。


「ラミア様助けて~、俺、奴隷になりますっ!」


 脳筋モンスターに潰されて死ぬぐらいなら、ラミア様の奴隷の方がマシ。

 ボンテージオークのエサになるくらいなら、ラミア様の胸に抱かれて死にたい。

 この洋館の中で一番、『かしこさ』のパラメーターが高そうなラミア様ならば、哀れなアグリを助けてくれるに違いない。


 しかし、ラミア様はSだった。それも頭にがつくほどの……。


 アグリの体をその長いしっぽで絡め捕り、お子様体型のエルフ娘をポイっと投げ捨てる。


「さすがに私でも食欲と肉欲に火が付いたオークは抑えきれないわ。なかなか手に入らない活きの良い人族。せっかくだから、こいつは次のヤオヤショーの目玉として使わせてもらうよ」


「それは良いアイデアブヒ! 最後に逝き残った奴がヤーサイにありつけるブヒ!」


 しっぽを鞭にように叩きつけパシパシ音ならすラミア様。

 そして、豪快に装備を脱ぎ始めるボンテージオーク。

 すると、アソコには漢しか持たないアレが……。


「あの、ブヒ様? あなたも男の娘でしたか?」


「ブヒブヒ? 今頃、気づいたブヒ? 同属として嬉しいブヒ?」


「やめろ! 俺はノンケだ!」「ヤオヤショーじゃなくて、ヤ〇イショーだろ!」

「せめてラミア様で……」「ボンテージオークに初めてを奪われるなんてイヤッ」


「い~や~っ!」


  ☂


ピコピコ;アグリの心は破壊されました。


 その後、『リアルクエスト』の世界で、農夫アグリを見た者はいない。

 電子風俗のとあるお店で働いている姿を見かけた者がいるとかいないとか。


【GAME OVER】 理性崩壊エンド

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