シナリオ42


 アグリは魔王軍に対する怒りを募らせながらも、次のショーでも与えられた仕事をキッチリシッカリやり遂げた。


 クエストを完璧に攻略することで無限に沸き上がる魔王軍への怒りも収まると信じていた、という言い分もあるが、生きるためならどのような汚れ仕事だっていとわないアグリの社畜魂がそのように行動させたと思われる。


 その一方で、ラミア様やボンテージオークからの評価はうなぎ上りだった。


「私の付き人になれば、将来、出世間違いなし。年収10万ガルズも夢じゃないわよ」


「このヨーカンで働けば、毎日美味しい食事が食べられるブヒ!」


(もう、ここで働こうかな……せめて年貢分の貯金が出来るまで……)


 だが、そんな美味しい仕事などブラックな組織にあるわけがない。

 そして、ここはゲーム世界。透明化、変化へんげ、スター状態、便利過ぎるアイテムには必ず制限がある。


(やべぇ、少しずつゴスロリ衣装が透けてきた! 変身セットの連続使用ってできるの?)


『変身アイテムの時間制限もありますが、アバターのMPも尽きかけているようです。直ちに変身を解除するか、精神力を回復させてください』


 視界上部にそんなテロップまで表示され、アグリの判断を焦らせる。

 アグリにはエルフ娘のような『アロマオイル』による回復手段は使えない。『おにぎり』の少ない回復量では変身を維持できない。


「なんだか……人族のおとこの匂いがして来たわね?」


「うまそうな匂いブヒ!」


(やべぇ、それって俺の匂いだろ! ふんどしが透けて見えて来た!)


 変身効果が薄れたことで、衣装に付着していた『アロマオイル・エルフの森の薫』の効果も弱まっているに違いない。


「アグリ、どこへ行くんだい? 次のヤオヤショーは五分後だよ」


「ちょっと……おトイレに……」


「トイレ? トイレでするなんてもったいないブヒ。ショーが始まってステージですればいいブヒ。コッペカワイイ、きっと大ウケブヒブヒ!」


「無理だから! 今の待遇じゃ、そこまで自分を捨てきれない!」


 アグリは『キャスト控室』から逃げ出した。


  ☂


「コッペ、なんて格好しているゴブ!」


 『執務室』に逃げ込んだアグリを出迎えたのは、ゴブリンレッドの呆れ声だった。

 エルフ娘はアグリのふんどし姿をの当たりにし、「ヘンタイが……ふんどし一丁……」とまたしてもフリーズ状態に陥った。


「仕方ないじゃん! 変身に時間制限があるなんて聞いてない! 取説か、タイマー表示くらいつけろよ!」


 しかし、悠長に会話している場合ではない。

 変身が解けた状態だと、この狭い洋館内部ではラミア様のピット器官やオークの嗅覚から逃れられない。(*ピット器官=赤外線を感知することが可能。一部の蛇が有するハンターとしての器官)


「レッド、脱税調査は終わったのか!」


「終わったゴブ。早くそのエルフを連れて逃げるゴブ」


 ゴブリンレッドとエルフ娘は、ただアグリの帰りを待っていたわけではない。

 この洋館のどこかに隠されているという『裏帳簿』を探していたのだ。


 いそいそとデフォルト装備『農夫のつなぎ』に着替えたアグリは、フリーズして動かないエルフ娘を左肩に乗せた。リアル農夫スキル『たわら担ぎ』で。


「レッドはどうする? 一緒に逃げるか?」


「一緒に姿をくらませたらマズいゴブ。同盟は絶対に内緒ゴブ!」


「だな!」


 アグリとゴブリンレッドは別れを惜しむように、互いの拳を突き合わせる。

 ゴブリンレッドは再び『ご優待券・使用済み』の仕分け作業に戻り、アグリは執務室を後にした。


  ☼


ピコピコ:脱出ルートを選択してください。


 ステージ横を通り、正面口から逃げる。

【シナリオ45へ】


 洋館のお勝手口(裏口)からコソコソと逃げる。

【シナリオ43へ】

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