シナリオ14


「穴掘りは嫌いじゃないぜ。なにせ、俺はコエダメ名人の称号まで持っている!」


「「「おおっ~メイジン」」」と周囲のゴブリンまでもが驚嘆の声を上げた。


 メイジンはモンスター語でも『名人』で通じるらしい。

 しかし、ピコピコが翻訳したように『ヤオヤ』は、本当に『穴掘り』もしくは『肥溜』という意味なのだろうか。アグリのゲーム勘は(バッドルートのフラグだ)としきりに警鐘を鳴らしていたが。

 ヤーサイは『農民』という意味で間違いないので、ヤオヤも農業関連用語で合っているような気はするが……。


(いやいや、絶対この選択肢は地雷だろ!)


『仕方がありません。プレイヤーの選択です』


(イヤな予感しかしないって!)


『そこはあなたの力量次第でしょう』


(レベル一のアバターにそんな無茶言うなよ!)


 ピコピコと(脳内で)言い合いをしていると、ゴブリンチーフは懐からゴソゴソと何かを取り出した。


「コレを持ってヨーカンへ行くゴブ。きっとコッペの望む世界が得られるゴブ」


「えっ、ナニコレ?」


 基本、礼儀正しいアグリが礼を失してしまうのも無理はなかった。

 ゴブリンチーフから手渡されたアイテムは、一枚のチラシ広告だった。それと全く同じものを『村の倉庫』で見かけたばかり。

 かといって、ゴブリンチーフからはアグリを罠にめようといった様子は一切感じられない。


「ご優待券? 無料ご招待って意味? ナニコレ?」


 チラシ広告には切り離して使う『ご優待券』がついていた。

 しかし、それ以外の詳細はモンスター語で記されていて、全く理解できない。

 アグリが呆然としていると、ドスドスと地響きを伴った足音が近づいて来た。

 身の丈3mはありそうな人型モンスター、『オーガ』だった。


「グォー、おまえらうるさいぞ! お昼寝の邪魔だ! 静かに仕事しろ! サボリは時給から差っ引くからな!」


 そんなオーガの登場で、アグリを取り巻いていたゴブリンは散り散りになって逃げ出した。

 アグリも一緒に逃げ出したかったが、巨大なオーガに圧倒されて完全に虚を突かれてしまった。

 結局、古井戸に残されたのは、アグリ、ゴブリンチーフ、同志の番兵ゴブリンだけとなった。


「グォ! なんだコイツ! なぜヤーサイがここにいる!」


(だから言ったじゃん! あの選択肢、地雷だって!)


『ここはあなたが得意とする手八丁口八丁で切り抜けてください』


(無理だろ!)


 アグリがたじろいでいると、ゴブリンチーフが代わりに答えてくれた。

「センム! こいつはゴブ」と。


「グォー、なんだと?」


 そして、オーガの巨大な二つの目が、ギロリとアグリへと向けられた。

 否、厳密には、アグリが手にしていた洋館のチラシ広告『ご優待券』を注視していた。


「グォー、ありえん。なぜヨーカンの存在をヤーサイが知っている」


「きっとセンムがお考えになられたチラシ広告の効果ゴブ!」と今度は番兵ゴブリン。


「これで村の生活もウハウハゴブ!」とゴブリンチーフも続いた。


 ゴブリンがアグリを擁護した、というより露骨なだろう。

 アグリがゴブリンの立場でも同様のことをする。


「グホッ? これで俺の株も上がったか?」とちょっとご機嫌な様子のセンム。


「来季のジョームの昇格さえもあり得るゴブ!」「一生、お供するゴブ!」


 オーガ(センム)をはやし立てるゴブリンたち。

 対して、アグリはオロオロと戸惑っていた。


(俺はどうしたらいいの?)


 するとオーガが野太い指先で、古井戸の向こう――村の北部を指し示す。


「グォ、まもなく次のショーが始まる! 早くヨーカンへ行け!」


 アグリは洋館のチラシ広告、『ご優待券』を手に入れた。


  ☁


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