鍵開けのギイ

「依頼達成ありがとうございます。報酬は明日振り込みますね」


 ギルドに依頼達成の報告を行ったギイ。

 職業は”盗賊”という事になっている。

 だが、パーティを組んでダンジョンに潜る・・ようなことはほとんどしていない。


 スキルを活かして、”鍵開け”の依頼を単独で受けている。

 ダンジョンから持ち帰った宝箱を開けてくれとか、相続した金庫が開かないので開けてくれだとか。あとは、とか・・・


 

 依頼をこなして小金を得た俺は、ひさしぶりに酒を買ってアジトに戻って来た。

 アジトに戻って来て入口の扉を開けようとして・・・中から人の気配を感じた。


 だが・・・この気配は・・・知っている人物の物だった。


 扉を開けて、声をかける。


「シスター・エリ。聖職者ともあろう女性が一人暮らしの男性の部屋に忍び込むのは感心しませんな」


 物調ずらをして文句を言うと、テーブルの前に座った法衣服の女性が立ちあがりもせずににっこり笑って言った。


「あら。私とあなたの間でそんな遠慮が必要なのかしら?」


 シスター・エリ。聖教会のシスターにして聖属性魔術の使い手である。時代の聖女の第一候補と目される有名人である。


 一度、ギルドを通して一緒に仕事をすることになったのだが、それ以降なにかと付きまとって来る。

 しかも、俺のことを下賎だの有害だの文句を言ってきてうざい。


 そのくせ、なんだかんだ言って面倒な仕事を押し付けてくるのだ。


「親しき中にも礼儀ありって言うでしょ?で、今回は何なんです?」


 テーブルに乗っている、シスターの柔らかそうな巨乳についつい目が行きそうになるのを必死で抑えながらぶっきらぼうに聞いた。

 どうせまた面倒な仕事を押し付けに来たんだろう?


「今回はね・・・ちょっと大きな仕事なの。お願い。手伝ってくれる?」

「報酬は?」

「あ・た・し」

「帰ってくれ」


 すると、頬を膨らませて真っ赤な顔になる。


「く・・・わかったわよ。金貨500枚用意するわ」

 俺は思わず、ヒュ~。と口笛を吹いた。

「500とは・・・大仕事だな。それで、何をすればいい?」

「絶対内緒の仕事よ」

「心得た」

 シスターは、口に人差し指を当てて言う。

「今回の仕事は・・・王城での仕事よ」




 今回の仕事は、第一王女であるエスカティーナ姫の呪いを解くことだった。

 姫は、もう1か月も高熱で寝込んでいる。

 どうやら、呪いによるものらしい。


 国中から魔法使いが集められ、呪いを解こうとしたができなかったらしい。

 そこで、聖教会へ依頼してきたそうだ。


 エスカティーナ姫は寝室のベッドの上で苦しそうにしていた。

 教会からは、シスター・エリ以外にも教皇や聖女も来て祈りをささげている。

 俺は、シスター・エリの従者という事にしているので背後でおとなしく控えていた。


 もう半日も祈りをささげているが、効果は見えない。

 それどころか、姫の首筋から顔にかけて黒い文様が浮かび上がって来た。


「く・・・これでもダメなの・・・」

 シスター・エリが悔しそうにつぶやく。


 その言葉に、俺は返した。

「なんだ・・・気が付いていないのか?」

「え?」

「あれは、呪いなんかじゃない・・・封印だよ」


 黒い文様・・・おそらくは全身を覆っているのだろう。

 それは、何らかの封印。


「封印?あなたなら・・何とか出来る?」


 振り返るシスター・エリ。そして、その表情は凍り付いた。

 シスターが見たのは、口角を上げて三日月のように口をゆがませて笑う表情。

 邪悪な・・・まるで、悪魔のような笑み。


「あぁ・・・これは、俺の分野だな・・・」




 俺は、ゆっくりと前に出る。

 腰に下げた短刀に手を添える。


 そして、鞘からそれを・・引き抜いた。

 鞘から出てきたのは、刃では無かった。


 それは・・・真っ黒な鍵の形をしていた。

 その鍵を、真っすぐにエスカティーナ姫に向ける。

 姫は、俺のことを薄く開いた眼で見つめていた。


「アクセス」


 俺のその言葉で、姫の体の表面を覆っている文様が空中に広がり、真っ黒なドーム状になった。

 脈を打つように、定期的に振動している。

 これが、姫にかけられた封印。


 俺のことが敵だとわかったのだろう。

 俺を拒否するように、ドーム状のバリアを形成してきた。

 だが・・・そんなものは何の意味もなさない。


 俺は、スキルを発動させるための詠唱を始める。


「我が道を阻むものよ、その戒めを解き我に道を示せ・・・・さもなくば・・・」

 手にした、”鍵”を振りかぶる。


「汝を破壊する」


 鍵を真っ黒なドームに突き刺した。


解錠ディスロック


 すると、ドーム状になった封印は鍵に吸い込まれるようにあっけなく消えて行った。

 姫様の体に浮かんでいた文様はすっかりなくなっている。



 これこそが、俺のスキル。

 俺の力は、この世のあらゆる鍵を開けることができる。

 鍵だけではない。

 あらゆる封印や戒めなど・・・すべての物を解き放つことができる。

 ユニークスキル”解錠”。

 シスター・エリによると過去に記録の無い、史上初めてのスキルだそうだ。



 封印が消えうせた後には、苦しそうな表情も消え安心したように安らかな寝息で眠る姫様。

 熱も、時期に下がるだろう。


「おい・・・あれ・・・」


 横を向いて寝ている姫の背中が盛り上がっていく。

 白い羽毛が見える・・・。


 それは、天使のような白い翼。


「亜人だったのか・・・」

「いや、先祖がえりと思われますわ」

 教皇と聖女の言葉。


 おそらくは、生まれた時にこの翼を隠すために封印を魔術師がかけたのであろう。

 子供の時にはよかったが、成人した時に封印が成長に追いつかなくなった。

 内部のエネルギーを抑えきれなくなり、健康に影響したのだろう。


 今まで、普通の人間だと思われてた姫から翼が生えたのだ。

 慌てふためく侍女たち。茫然とする教会関係者。


「じゃ、約束通り報酬よろしく」

 おれは、シスターに声をかけて部屋を退室した。

 面倒ごとはごめんだ。





 3日後、俺は酒場にシスター・エリを呼び出した。

 報酬を受け取るためだ。


「はい、約束の報酬よ」

 あわただしく入って来たシスターは金袋を押し付けてきた。

 急いでいるようだ。

「おう、サンキュ。どうした?急いでるみたいだが」


 すると、シスターは耳元に口を寄せてきて囁いた。


「内緒の話よ。姫様は体調が回復したんだけど行方不明になったの。それで、探し回っているのよ」

「へえ。大変だ」

「ちょっと・・・手伝ってよ!」

「それは、俺の仕事じゃないな。じゃ!」

「あ~~、けち~~!」


 俺は鍵開け専門。人探しは得意ではない。





 食料を買い込んで、アジトに戻って来た。

 するとまた、中から人の気配がする。


 また、シスターか・・・そう思って扉を開けた。

「いつも言ってるが、勝手に入るなって・・・」


 だが、そこにいたのはシスターでは無かった。



 俺のアジトに純白の翼を広げた金髪の天使がいた。



「あ、おかえりなさい!」

「え・・・え・・・・エスカティーナ姫!?どっからは・・入ったんすか!?」

「え・・・あそこからです」


 そう言って姫は天井を指さした。

 天井の天窓が開いていた。


「ど・・・どうして、ここにいるんです!?」

「ほら・・・私、こんな姿になってしまったので王位継承権が消滅してしまったんです。それで、この先どうしようかと考えたんですけど・・・」

「はい?」

「高熱でうなされているときに見たあなたを思い出したんです。私、命の恩人であるあなた様にお礼も言っていないので・・・」

「はぁ・・・」



「それで、あなたに恩返ししようと思って飛んできたんです。飛ぶのって大変なんですね。慣れるまで時間がかかりました」

「はぁ!?」


 俺は頭を抱えた。

 シスターが絡んだ仕事は、毎度のことだがろくでもない事になる。

 大事になる前に、帰ってもらうことにしよう。


「わかりましたから、まずは帰ってください」


 すると、姫様はにっこり笑って言った。


「いやです」

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