一方その頃─① 魔女子さんとスライムくん。

 一方その頃。


 この世界で最弱の森ではいつもと変わらぬ日常が流れていました。今日のお仕事を終えこの森で一番大きな木の下で本を読んでいたしろうさぎさんの元へ一人の小さな訪問者はやって来ます。


ぬしーー、見て見てーー」


 その可愛いらしい声に本を読むのを止め視線を向けるしろうさぎさん。


「あ、魔女子さん。どうしたんですか? 何を見れば……って、へ!? 何ですか、その生き物!?」

「じゃーーん。お化けスライムくんでーーす」


 そして彼女の隣りに居たのは綺麗な落ち葉で全身を包まれたスライムさん。


「あ、どうも、ぬし。ボクです、スライムです。わかりますか? わかりませんよね?」

「違う違う、スライムくんは今お化けなの!! だからいつものスライムくんじゃなくて、今は落ち葉のお化けのお化けスライムくん!!」

「そ、そうだったね。コホン。ぬし〜、お化けスライムだぞ〜」

「きゃーー、出たーー!! きゃはははは」


 目の前で大はしゃぎする魔女子さん達にしろうさぎさんも笑顔で答えます。


「ふふふ。それは、どうも初めまして。お化けスライムさん。私がこの森のぬしのしろうさぎです」


「……ええ、ぬしぃ、つまんな〜い。もっと驚いて欲しいのにぃ」

「え? あ、ご、ごめんなさい魔女子さん。えぇと、もっと驚く、驚く……」

「別にいいもん、無理して驚いてもらっても私嬉しくないもん」

「え、いや、だから、その、それは……」


 たじろぐしろうさぎさんを見て魔女子さんは何故か不敵な笑みを浮かべます。


「へ? 魔女子……さん?」

「ふふーん。ぬし、でも私は魔女だから? ぬしがそういう反応をする事もわかっているのです。だから私がぬしに本当に見て欲しいのは……」

「み、見て欲しいのは……?」

「これですっ!!」


 ──バッ!!


 そうして魔女子さんはお化けスライムさんの落ち葉マントを勢いよく剥がすと、その中から出て来たのはツヤツヤでピカピカになったスライムさんでした。


 ──ツヤツヤ〜、ピカピカ〜。


「うわ、眩しい!! って、え、ぇ、ええぇええ!? 一体どうしちゃったんですか、スライムさん!?」

「やった、驚いた驚いた!! きゃはははは」


「え、いや、そのぉ。この間、ピクシーさんにお前は火に弱過ぎるから水をもっと飲めと言われて……それで、言われた通り水をいっぱい飲んでいたらすごく体調が良くなって。それで、気づいたらもうこうなっていました」


「ええぇええ!? 水の効果そっち、ですか!?」


 調停者アナスタシアとくろうさぎさんのクロエがこの世界の『違和感』を探している頃。

 この森では元気いっぱいの魔女子さんの笑い声が響き渡り。

 その隣りには水をいっぱい飲んでツヤツヤでピカピカになったスライムくんが誕生していたのでした──

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る