魔女の手記。

【魔女の手記】


 明日、私はここで処刑される。

 いわゆるこの国でいう魔女狩りという儀式によってだ。

 だからその前に残したいと思う。

 私の見て来たその全てをここに残したいと思う。


 そう、これは魔女と呼ばれた人間の残す最後の言葉だ。


 ──魔女。


 その名の下に今までどれほどの者達が犠牲になって来たのだろう?

 かくいう私もその一人だ。

 明日、私はここでその生に終わりを告げる。

 そんな私達魔女とはいずれもこの国に不幸をもたらした者達ばかりだ。


 それは身に覚えのない不幸。


 ある者は街に火の海をもたらし。

 またある者は甚大な嵐をもたらし。

 そしてまたある者は天からいかづちをもたらしたと。


 黒髪の異端者。


 それが魔女の条件だ。

 それ以外に必要なものはない。

 この世界の不都合の集合体、それが魔女だ。


 魔女は人の手によって作られる。


 女、子供、男もそこには関係ない。

 これは生贄だ。

 信仰に異を唱えた者達へのみせしめ。

 人外の脅威の為に捧げられた哀れな生贄。

 魔女という名は、その者達に黒き髪と共に与えられる。

 漆黒に染められた黒髪は異端の印なのだ。


 私の髪は生まれもっての黒髪だ。


 人々はそんな私を見てこう叫ぶ。

 魔女だと。

 先日この街に来たばかりの渡巫女、それが私だ。

 私は人の魂と繋がる事が出来る。

 その力は私の生まれた国では何も珍しいものではない。

 この体を依代に神の声を聞く事も出来る。

 

 それはまやかしなどではない。


 私は人々に心意を伝える。

 生きる者達に未来と希望を与える為に。

 だが、ここの人々はそれを良しとはしない。

 私を見る目は畏れに怯え。

 私を本物の魔女だとさげずんだ。


 そう私は異端の魔女だ。


 人はいずれ死ぬ。

 魔女と呼ばれる私もそれに変わりはない。

 何故なら私も同じ人間だからだ。


 私は静かにそれを受け入れよう。


 抵抗はしない。

 する筈もない。

 それが彼等にとっての安らぎの形なのだから。


 人間とはとても強欲で臆病な生き物だ。

 

 見知らぬものを受け入れず。

 崩れる事を恐れ。

 自ら歩み寄る事すら望まない。

 人間は孤独を望んだりはしない。


 そこには正義という名の法がある。


 大衆が作り上げた正義という旗は掲げられる。

 その正義が誰かの手によって作られた旗とも知らず。

 しかし、その正義を持って大衆は救われるのだ。


 法によって裁かれる悪の権化。


 そしてひとときの安寧は手に入れられる。

 正義の法に裁かれし私達は魔物と同じだ。

 いや、魔物すらにもなれない存在、魔女なのだ。


 ならば、私はそれを受け入れよう。


 今はただ。

 この者達の安らぎを死して祈って。

 

 願わくば。

 いつかこの言葉が未来の誰かに届くと願って──

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