森の小さな、悩みごと。

 ──そして今日も森ではしろうさぎさんとピクシーさんのお悩み相談が行われています。


「じゃあ、次のモンスター!! ……って、またあんたか……お悩みゴブリン」

「はい!! 今日も悩みを持って来ました!!」

「いや、まぁ、最初の頃に比べて元気になったのは良い事だけどさ……あんた今日で……」

「10回目です!!」

「……はぁ。よくもまぁそんなに悩みごとばかりあるわね」

「はい。全然無くなりません!! 吟味されざる生に生きる価値なし。です!!」


 そして笑顔でしろうさぎさんにお悩み相談をするゴブリンさん。そんなゴブリンさんに今日もしろうさぎさんはアドバイスを送ります。


「……えぇと、ですね、ゴブリンさん」

「はい!!」

「今日からは少し期間を空けて考えてみませんか?」

「え、期間を、開ける?」


 そうやってアドバイスを繰り返していく内にわかること。お悩み相談を受けているしろうさぎさん自身もその中で同じように新しい気づきに出会うと成長していきます。


「はい。そうです。これは私もイケなかったなって反省しているところなんですが、私達は少し早くに成果を求め過ぎちゃってるのかなぁって」

「は、はい……」

「ゴブリンさんが毎日とっても頑張っているのは私も知っています。だけど、ゴブリンさんにとって今必要なのはただ頑張ることじゃなくて、『努力すること』なのかなって……こうやって毎日毎日お悩み相談をするんじゃなくて、例えばこれからは何か『目標』を決めて、一週間なら一週間、同じ事をするんです」


「目標を決めて同じ事を、する?」


「はい。目標を決める。そうしないとなれるものにもなれないんじゃないかって思ったんです……これからは自分なりにただがむしゃらに頑張るんじゃなくて、目標達成を目指して努力することを『頑張る』みたいなイメージです。なりたい理想の自分になる。えぇと、だからそれを言葉にするなら……そう。理想を叶えるには対価を払わなければなりません。です」


「理想を叶えるには対価を払わなければなりません……?」


 教えてみることで学び、そしてわかることもある。その事をしろうさぎさんは強く実感すると自分の中で確かな答えとして身に付けて成長していきます。


「はい。やっぱり変わるってそういうものだと思うんです。一朝一夕で出来るならそんなに悩みませんもんね。だから、そこをちゃんと理解していなかった私のせいで振り回す感じになっちゃうんですけど……」


「いえ、わかりました!! それじゃあ僕、今日から速く走る為に腕の振り方を一週間意識して……じゃないな、駆けっこの速いゴブリンさんみたいに……えっと、だから……一秒間に10回腕を振れるように一週間意識して頑張ってみます!! 理想を叶えるには対価を払わなければなりません。で、吟味されざる生に生きる価値なし。をします!!」


「ほっ……。ゴブリンさんが素直で本当に良かったです。私のこの拙い説明でも一生懸命理解しようとしてくれて助かります。では、今日からそれでやってみましょう」

「はい!!」


 それからもモンスターさん達のお悩み相談を受けると今日のお悩み相談も無事に終了。その後は今日もそそくさとその場を後にするピクシーさんを見届けていると、しろうさぎさんの元に数匹のスライムさん達がやって来ました。


 ──ぷるんぷるん、ぷるんぷるん。


「あ、あの、しろうさぎさん」

「え? あ、スライムさんの皆さん、お疲れさまです」

「あ、はい、お疲れさまです。す、すみません……ちょっとだけお時間……良いですか……?」


 しろうさぎさんの目に映るスライムさん達の顔。それはとても神妙な赴ちをしていて、その事に気づくとただならぬその雰囲気にしろうさぎさんは若干の胸騒ぎを覚えます。


「はい。私は大丈夫ですが……何か……あったんですか?」

「……は、はい。えぇと、その……ボク達、見ちゃったんです……」

「見た? 見たって、何を……ですか?」

「……はい……気のせいかもしれないんですけど……もしかしたらこの森のみんなの悩みごと……になるっていうか……そんな瞬間をです……」

「……この森の、みんなの? それって一体……」

「……はい。実は……その……」


 そしてスライムさん達の口から告げられたこと。

 それは気のせいかもしれない悩みの種、まだ芽を出す前の森の小さな悩みごと。

 その言葉を聞いたしろうさぎさんは一瞬顔を険しく歪めると。

 冷静に一度自身の中でその言葉を飲み込み、静かにこう答えたのでした。


「……それは、私自身の目で確かめてみたいです……」

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