込み上げる想いは涙に変わってキラリと光る。

 それから森へと戻った頃には雨も上がり薄らとですが青空も顔を覗かせ始めていました。再び席に着いたピクシーさんの元にやって来たのはリリパットちゃん。彼女は森のモンスターさん達を代表してピクシーさに一つの提案があると伝えます。


「──え? 案内人?」


「はい、そうです。森の案内人さんです」


「は? 私が?」


「はい。ピクシーさんがです」


「……何それ。意味わかんないんだけど……ねぇ、うさぎ」


 そう言って横を見たピクシーさんの目にはニコニコ顔のしろうさぎが映ります。


「良いんじゃない? 森の案内人さんピクシーさん。とっても似合ってると思う」

「……あんたまで。いや、いずれにしろよ、こっちにも心の準備ってもんがねぇ……」

「え? それ、ピクシーさんが言う? 私だって森の主就任、急だったよ」

「……いや、だから、それは……」


 どぎまぎするピクシーさんに向かってリリパットちゃんは言います。


「それじゃあ、ピクシーさん、切り株へどうぞ」

「は? リリパット、あんた話聞いてた? まだ私やるとは一言も──」


 ──パチパチパチパチ!!


 そんな言葉を遮って沸き起こる拍手。

 眼前に広がるモンスターさん達の笑顔。

 自然と生まれた自分の居場所に。

 抗う理由はどこにもなくて。

 瞳を閉じた先、込み上げる想いは涙に変わってキラリと光ります。

 

「ああ、もう、じゃあ、わかったわよ!! やってやるわよ、やれば良いんでしょ、案内人!!」

「おおおーー!!」


 そして切り株の上でふわふわと漂うピクシーさん。


「で、なんで、案内人!? 私は誰を何処に案内する!? 教えなさい、リリパット!!」


 リリパットちゃんは答えます。


「はい。ピクシーさんはこの森に住む私達をいつも笑顔に案内してくれるから、だから森の案内人さんです」

「……森のみんなを笑顔に導く……案内人?」

「はい、そうです!!」

「はい、そうです!! って、ちょっと……なんていうか、それって、なんか気取り過ぎじゃない?」

「……ダメ、ですか……?」


 そう言って下をうつむくとしょんぼりとしてしまったリリパットちゃん。

 そんな彼女の姿を見てピクシーさんは言います。


「……え、いや、別に嫌な訳じゃないわ。ただ、ちょっとそう思ったってだけよ。ちゃんとみんなの気持ちは伝わってるし、わ、私も嬉しいと思ってる。森の案内人さんピクシーさんね、良く考えたら可愛いらしいじゃない。だって、『さん』が一つに二つも入ってるのよ、うん、これはなかなか思いつかないネーミングセンスよね。気に入ったわ。私頑張るからさ、だからリリパット。そんな悲しい顔はしな……」


「ほら!! やっぱりピクシーさんは私達を直ぐに笑顔に案内してくれます!!」

「……んなっ!? リリパットあんた今、泣いてたんじゃ……」


「えへへ。泣いてません」


 満面の笑顔で答えるリリパットちゃん。


「……っの、よくも……私を騙したわね、んぬぬぬぬ……」

「でも、だからちゃんと本当の気持ち、聞けました!!」


「……んんんんん!! ……はぁ。負けたわ、私の負けよリリパット。あんたの勝ち。ったく、いつからそんな事するような娘になったのよ。少し前まではあんなに可愛いかったのに、一体誰に似たんだか……」

「うーん。それはきっと、ピクシーさんですかね」

「うわぁ……それはホント最悪な返しだわぁ……」


 それからこの日行われた二つ目の就任式典は三日三晩の雨もどこやら、今ではすっかり晴れた空の下森の案内人さんピクシーさんの挨拶でその幕を閉じます。


「森の主と森の案内人、それとみんなで、この森を世界で一番素敵な森にしていくわよ!!」

「おおおーーーー!!」


 ※


 ──そして就任式典が終わったその日の帰り道。


 彼女はそこで一人の人間の少女と出会います。

 それは黒髪に泥だらけになった紺色のワンピースを来た一人の少女。

 意識を失い倒れる少女を目の前に。

 彼女は自身の身の振り方について迷いながらも。

 遂には最後、この世界の理を歪める選択に手を伸ばしたのでした──


「……ったく、よりにもよってなんでこんな日に……でも、大丈夫よ。私が何とかしてあげるから……」

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