異世界2.0。このご時世、モンスターだって悩みを抱える時代です。

兎禾

プロローグ。

【第一話】 始まりのはじまり。

ある日、駆け出し冒険者さん達の集う集落の近くにある森の中からこの物語ははじまります。そんな森の中で一番高い大木にもたれ本を読んでいるのは一匹のしろうさぎさん。彼女は人間でもなければモンスターでもないただの動物さんで、この物語の主人公です。


 手の中で風に吹かれペラペラとめくれる紙。


 夢うつつ。彼女は今にも夢の世界に落ちそうになりながらうとうととしていると、近くの草むらが急に揺れてビクッと体を震わせその目を大きく見開きます。


「あっ、ごめんなさい。驚かせるつもりはなかったんです」


 草むらから出て来たのは一匹のスライムさん。急な出来事に一瞬驚いたしろうさぎさんでしたが、すぐに気を取り直すと言いました。


「あ、いえ、スライムさん、私は全然大丈夫です」

「それなら良かったです」


 彼女の言葉に一時いっとき笑顔を見せたスライムさんでしたが、すぐにその表情を曇らせると一つ大きな溜息を吐きました。


「……はぁ」


 そんなスライムさんの姿を見てしろうさぎさんは尋ねます。


「あ、あのぉ、スライムさん? なんかとっても顔色がすぐれないようですけど……何か悩みごとですか?」


「悩み、ごと? う、うーん。『悩みごと』っていうのがどういうものなのかボクよくわからないけど……実はね、ちょっと……って、え!? 聞いてくれますか?」


「え、あ、はい。私なんかでよろしければ」

「や、やったぁ、ありがとう!! しろうさぎさん、それでね──」


 そして、スライムさんの話を親身になって聞くしろうさぎさん。


 そう、彼女のこの何気ない一つの行為がきっかけで。

 この世界に『悩みごと』は再び生まれる事になったのでした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る