第1章''普通''の高校生

私は今非常に焦っている。今の時刻は21時36分。バイト帰りに歩いていると、後ろから同じリズムでついてくる人がいる。これは絶対に勘違いじゃない。何回も曲がったりしてみたけど、ずっとついてくる。怖い怖い怖い。


そうだ、この近くにコンビニあったはず!


走り出した瞬間に左手に痛みを感じた。


「キャ!!」

「静かにしろ」


男は小声でそう言った。

その瞬間耳にかかったと息が、生ぬるくて、気持ち悪くて、全身に緊張が走った。


「や、、離して、」


身体中は緊張して硬直しているのに、震えて力が入らない。

誰か、、助けて。


「おい、何してんの、おっさん。」


「ッッ!どけ!!」

「いたぃ!」


自分の背丈より大きい男に変出者は驚き、私の手を離してそのままどこかへ逃げていった。


その瞬間、身体中の力が抜け膝が崩れ落ちてしまった。


「大丈夫?こんな時間に何してるの。」


私はまだ震えが止まらなくて目線は地面で、声も出ない。


「ねえ、俺だよ、分かる?」


え?誰?

私が顔を上げると、そこには同じクラスの男の子がいた。


「原くん…」


その瞬間、知っている人がいるという安心感から涙が零れてきた。


「え、ちょっと、」

「…死ぬかと、、思った。」

「とりあえず、家まで送っていくから、泣き止んで?俺が泣かせたみたいでしょ。家の人には説明してあげるから。」


なんで今日は嫌味言わないのよ。余計に涙が出てくる。


「家どこ?」

「ここの道まっすぐ……」


少し気になった事を聞いてみよう。


「原くんは、怖くなかったの?私、殺されちゃうって思って、、死ぬかと思って、すごく怖かった。」


まだ涙声の私にそっぽを向いて


「…僕は、、」


原くんは何秒か考えた後に私の顔を見て


「僕は、死ぬのは怖くないよ。」


初めてちゃんと目が合った。真っ黒な瞳に、月の明かりが反射していて、宝石のようだった。


「え、それってどういう事……?」

「そのままの意味だよ。」


それから沈黙が続き、私の家に着いた。

そこからの記憶はほとんど無く、お母さんがすごい勢いで原くんにお礼を言っていたという事しか記憶にない。


その後もずっと原くんが言った言葉がずっと頭に残った状態で生活していた。なんとなく、影がある感じはしていたけど、あんな言葉が返ってくる事は想像できなかった。



あれから何日か過ぎたけど、なんとなく気まずくて目を合わせることが出来なかった。








「ふぅ…」


ガコンッ


「いちごミルクとか…甘いでしょ」

「えっ、原くん…?」

「僕も飲み物買いに来たんだよ。着いてきたとかじゃないよ。」

「うん、あ、前は家に送ってくれてありがとうね?」


心臓の鼓動が早くなるのが分かる。


「ん、全然。1人で帰すのも心配だったし。あれからは大丈夫?」

「うん。大丈夫。ありがとう。」


聞いてもいいかな。

もし聞いて、引かれたらどうしよう。

でも、なんか、引っかかる。教室の方に戻ろうとしてる原くんに声をかけてみる。


「原くん!!」

「なに?」


こっちに顔を向けて戻って来てくれる原くん。

何故かあの時から嫌味を言わないで優しい。


「あの時に言ってた事って。」

「言ってた事って?」

「死ぬのが、怖くないって。」


原くんは驚いた様に目を見開いた。


「…君、馬鹿なの?」


そう言って原くんは初めて口を大きく開けて笑った。


「なんで笑うの?私は真剣に聞いてるんだけど。」

「普通は、面と向かってそんなこと聞かないでしょ。」

「いや、普通は死ぬの怖いよ。」

「んー、普通ってなんだろうね。君にとっての普通と、僕にとっての普通は違うでしょ?」

「それは、そうだけど。」

「なんか、心配なの。それに、なんか、原くんいつもより優しい。何かあった?」

「いや、何かあったのは君の方だし、、あんな事あった君に嫌味言う気にはならないよ。」

「…………。」

「なんか、僕の事で悩んでる?それはごめんね。

全然気にしなくてもいいよ。」

「死にたい…とか思ってないよね?」

「…………。」




一瞬、原くんの瞳が揺れたのが見えた。

その瞬間私の心臓も揺れた。





  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る