第2話

「それで、そのストーカーを見つけて欲しいと?」

「はい……同じ大学の誰かだということは分かってるんです。今のところ被害はないですが、これ以上エスカレートしないとも限りませんし……」


なるほど、ストーカー被害か。

しかし、これをなぜシルフィに相談しようと思ったんだろう?


「警察には相談されたのですか?」

「はい、でも警察は何かあってからじゃないと動いてもらえませんので」

「むぅ……確かにそうですよね」

「以前、森田さんがお店で常連さんとお話しているのが聞こえてしまって、魔法が使えるエルフなら、ストーカーが誰かすぐにわかるんじゃないかって思ったんです」

「ああ、なるほど。そういう事でしたか……まあでも、シルフィは魔法使えないんですけどねぇ……って、お前聞いてんのか!」

シルフィはバウムクーヘンを口いっぱいに頬張りながら、

「ん? ふぉりかさ、ふぉれ、うまいぞ……モゴモゴ」と満面の笑みを浮かべている。

「そ、それは良かったです」

「口に物入れたまま喋んじゃねぇ!」

「んぐ……森田よ、お前は本当に小さな男だな? そんなんだから生まれて一度もつがいが出来ないんだぞ? そういうとこだぞ、そういうとこ」

「ぐっ⁉」


こ、こいつ、折笠さんの前で……!

折笠さんは申し訳なさそうな愛想笑いを浮かべている。

クッ……仕方ない、事実は事実。

人間、自分の恥部を受け止めながら大人になっていくんだ!


「オホン、それで……今のところは、夜道をつけられたり、いつも誰かに見られているような気がするんですね?」

「ええ、先日も帰り道で視線が気になって振り返ると、誰かが走り去っていったんです……気のせいかも知れませんが、似たような事が何度もあって……」

「それは気になりますね」

「ふむ、このバウムクーヘンとやらはまだあるのか?」


指をチュパチュパと舐めながらシルフィが訊ねる。


「えっと、すみません、それが最後で」

「そうか、まあ、これ程の食材となると希少なのであろうな、仕方あるまい。これは大変美味であった。褒めてやろう」

「王様か⁉ すみません折笠さん、気にしないでください」


俺はシルフィと睨み合う。


「あ、あの、宜しければ、また持って来ますけど……」

「何ぃ⁉ 本当か!」


シルフィが目を輝かせた。


「ちょ、折笠さん、甘やかさないでいいんで! どこまでもつけ上がるんですから!」

「ぬぬぬ……森田ぁ! 貴様、邪魔立てするとは良い度胸だ!」


俺とシルフィが掴み合っていると、

「あの、報酬ということでどうでしょうか?」と折笠さんが言った。


「「報酬?」」


「はい、そのストーカーが誰なのか、もしくはストーカーが実在するのか、それを調べていただくお礼としてです」

「いや、それは……」

「のったぁーーーっ!!!」


シルフィが俺の声をかき消した。


「任せろ折笠とやら! この大魔道士シルフィ・アイリスヴェルダに不可能は無い!」


「本当ですか⁉」

折笠さんが乙女のように両手を組む。


「これは契約だぞ? 謎を解いた暁には、バウムクーヘンを我に捧げるがよい!」

「はい! ちゃんと有名店のを買ってきます!」

「よし、では森田、諸々やっておけ」

 そう言ってシルフィはくるっと魔方陣に向き直った。


「おい! ふざけんなク○エルフ! 何で俺がやるんだよ!」

「ったく……この程度の事を解決できんとは、お前本当に我の下僕か?」

「二度と飯食わさねぇぞ」

「やれやれ、仕方ない。よし、森田、行くぞ」

「え? 何だよ急に」

「チッ……現場100回という言葉を知らんのか⁉ これだから無知勢は……」

「刑事ドラマ見過ぎだろ」


「折笠よ、悪いが、森田に犯行現場を教えてやってくれるか?」

「あ、はい!」


折笠さんに簡単な地図を書いてもらう。

シルフィの奴、本当にストーカーを探すつもりか?

面倒にならなきゃいんだが……。


俺は地図を書いたメモを受け取り、折笠さんをシルフィと一緒に玄関まで送った。


「じゃあ、シルフィさん、森田さん、どうかよろしくお願いします」

「任せておけ」

「また、ご連絡します」


折笠さんは丁寧に頭を下げ、そのまま帰って行った。


「おい、どうするつもりだ?」

「ふん、我の魔法をもってすれば、人捜しなど造作も無い」

「いや、だって……魔法使えねぇーだろ?」


シルフィがニヤリと笑う。


「これだからシロウトは……フッ、明日はスーパームーン、大気中のルナパワーが満ちる日……。我の魔力も少なからず戻るはず」

「ま、マジかよ? じゃあ、魔法使えんの?」

「使えるかも知れん」


「な、何だよ、その頼りない感じは……」

「確証は無い。だが、可能性はある。ま、例え魔法が使えなくとも、我にはこの『凄さアカシックレコード級』と言われた頭脳があるからなぁ!」


ケケケと高笑いするシルフィ。

こいつどこまで本気なんだ……。


「あ、そ。まあ折笠さんの手前、連れてってはやるけど、後は知らないぞ?」

「むぅ、ああ言えばこう言う奴め! 見てろ、ストーカーなど秒で捕まえてやる!」

「へぇ……じゃあ、お手並み拝見と行こうか?」


俺とシルフィは睨み合った後、フンと互いにそっぽを向いた。

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