怖い夢

 怖い夢を見た。

 昨日仕上げたはずの資料が、データごとフォルダから消え失せていた。

「嘘だろ!?」

 そう思って飛び起きた時、それが夢だと気づいた。

 これが明晰夢であったら最初から冷静でいられただろうに。残念ながら、そんな試しは一度も無かった。


 ある日、知らない村に迷い込む夢を見た。きっと夜遅くまで怖い話を漁り、地図から消えた村について調べていたからだろう。

 そんな反省をしながら村の奥へ進んでいく。すると、廃れた小屋に行き着いた。湿ってベトベトした泥付きの取っ手を掴み、軋んだ音を気にせず開ける。中は不思議と奥までよく見えて、そこには古びた玉手箱のようなものがあった。

 異様な存在感を放つ箱に、気がつけば手を触れていた。大切に抱えるように持ち、小屋を出た。

 すると、村の景色は入った時とは変わっていた。外も先程は何の印象も持たなかったのに、その時初めて暗いと感じた。

「早く持っていかなきゃ」

 怖いだとか、そう言ったことは全く考えずに目的地へと進む。目的地はよく分かっていなかったが、何となく頭の奥底で、行くべき場所の概念だけを思い続けている感じだ。

 昔から長距離だけは苦手だったのに、息苦しくもなく走り続けた。

 そこで初めて、明晰夢を見ていると理解したのだった。


 明晰夢は時間感覚も自在なようで、相当離れた場所にもすぐ辿り着いた。行き着いたのは神社のような建物だった。鳥居はない。

 突如、手元の箱が震え出す。何かが箱の中で暴れているようだった。急に怖くなって箱を落とすと、木箱のような縦の亀裂を作って割れた。

 中から現れたのは、黒くて丸い、鳥のような足の生えた生物だった。目や口のようなものも確認できない。ただ、黒くて丸い生物だった。

 恐怖と戸惑いで声もなく見つめていると、それは建物の中へ入っていった。


 次に気がついた時、近所の神社の鳥居の前で朝を迎えていた。

 夢遊病だったのだろうか、はたまたまだ夢の中か、その区別はついていなかった。

 頬をつねって痛かったので、おそらく現実である。明晰夢を見ていた影響か、実際の身体もここまで移動してきてしまったのだろう。

 

 しかし、疑問が一つある。

 起き上がった時、踏みしめた右足の感触がおかしかった。上げてみると、縦に割れた板の破片がめり込んでいた。

 どこからが夢だったのだろうか。明晰夢もそれ以来さっぱりのため、その疑問は未だ解けていない。



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る