畑を荒らす者(1)

「へぇ、害獣駆除か。この依頼何度も見かけるけど、また出るんだ」


 掲示板にびっしりと張り出された依頼書のなかから、自分でも遂行できそうなものを探す。この街にはこれだけの困っている人々がいるという事だ。


「私、先週この街に来たばかりだけどさ、山や森から動物が降りてきたり、魔物が凶暴になったりするのはよくある事なの?」


「普通はないわね」


 ユリナは即答した。


 まわりで、ミリカと同じように掲示板を見ている生徒達からも同じ話題が聞こえてくる。森の様子がおかしいとか、魔物が強くなっているとか。


 この数日間、Aクラスの生徒達もその話題でそわそわしていたし、生徒会でも取り上げられた。だが、ギルドの仕事は依頼解決であって、探偵ではないのだ。


「今回は、原因を突き止めてほしいって書いてあるよ!これで調査できるね。原因が何なのか分かれば、東区の人達も安心してお仕事できるかもしれないよ!」


「そうね」


「よし!」と意気込んで、窓口で話を聞きに行こうとした時だった。


「あっ、リオ君」


 少し離れたところでリオが掲示板を眺めていた。目が合ったのに、気付かないふりをして行ってしまおうとする。逃すか。


「リオ君!!!!」


「な、ななな何だよ!!!近い!」


「あの依頼、一緒に行かない?害獣駆除だって」


「なんで俺が。お前ら2人で行けばいいだろ」


「何だよリオ、もう転入生と仲良くなったのか?」


「ち、違う!」


 昨日も見かけた2人のクラスメイトが一緒だった。黒髪の方がリオに絡み、茶髪で髪型がツンツンしている方は「どうも」とミリカに軽く挨拶した。


騎士ナイトは確か回復魔法を使えるんだったよね?私とユリナだけじゃ心許ないから、リオ君が来てくれると助かるんだけど?」


 ミリカが突進せんばかりにリオ達のほうへ行ったため、ユリナが少し遅れて歩いて来る。茶髪のツンツンしている方は同じようにユリナに目線だけで挨拶した。


「俺に興味があるだけだろ?この学園に人魚は数少ないからな。そういうのもううんざりだから、話しかけないでくれ」


 大声でリオの名を呼んだあたりから視線を感じる気はしていたが、一緒に行かないかと誘った途端、俄かにまわりがざわざわしだした。皆、遠巻きにリオを盗み見ている。なるほど。


「私はそういうつもりじゃないけど?」


「だとしても、一緒に行く理由なんか無いね。他の奴を誘えよ」


「行ってこいよリオ。いつまでも意地張ってないでさ」


 クラスメイト2人がリオの背中を押す。加勢してくれるのか、助かる。


「そうだぜ、生徒会のメンバーだろ?親交を深めるチャンスじゃねぇか」


「俺は別に親交なんか深めたいとか思ってねぇし」


「またまたー」「またまた~」「またまたぁ~」


 2人と一緒になってリオをからかう側に回ってみた。


「お前もノって来なくていいんだよ!」


「お前じゃないし!ミリカだもん!ミリカって呼んで?リオ君~」


「気持ち悪りぃな!しかもそのリオ君ってのやめろよ、ほんと気持ち悪りぃから!


「リオ君~」「リオ君~」


「お前らまでリオ君って呼ばなくていいんだよ!なに楽しそうにしてんだ。いじられ役は御免だからな!」


「じゃあ、何て呼んだらいいの?」


「名前なんてどうでもいいだろ。さっさと行ってくれよ、俺は協力なんてしないからな」


「いいから行っとけって」


「やだね」


 友人に説得されてもリオは頑なに行こうとはしなかった。こうなったら奥の手だ。


「今回の報酬の8割をリオ君の取り分としよう」


「!」


 もう面倒くさいので金で釣ろう。


「そんなに渡して、私の取り分はどうなるの」


「ユリナのぶんの報酬は私の自腹です!」


「それじゃ、あなたは報酬を貰えないどころかマイナスじゃない」


「いいのいいの!だって今回はどうしてもリオ君と組みたいんだもの」


「……何でそこまでして俺に構うんだよ」


 リオは何か得体の知れない物でも見るような疑心暗鬼の顔になっている。そこまで警戒しなくていいのにと思う。


「仲間と一緒に仕事をしたいって思うのは当然のことでしょ?まだ会ったばかりで、リオ君は私のこと仲間だと思ってくれてないかもしれないけど、話したり、一緒に何かやったりしなきゃ相手のこと分からないじゃん。私はリオのこと人魚じゃなくて、一人の人として見てるよ」


 ミリカの熱心な口説きを、クラスメイト2人は感心した様子で眺めていた。


 下心の無い真っ直ぐな好意にリオが戸惑う。


 2人は示し合わせ、彼の背中をとんっと押し出した。いいことしてやった感のある満足気な顔で見合わせる。


「ね、一緒に行ってみようよ。また生徒会メンバーで戦った時のために、訓練もしておきたいでしょ?」


「そ、それは……でも、俺は」


 急にミリカの前に出されたことで拒絶の勢いは失速したが、まだ渋っているようだった。


「まぁそれはともかく、私達についてくれば報酬の8割がリオの懐に入るわけだけど」


「!!」


「どう?行く気になった?どうよどうよ」


 リオの二の腕を肘でつつくと、真っ直ぐな青い瞳も金の力で揺れ動いた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る