第1夜「悪の組織は今日も平和だよ」

悪の組織の夜花の本部の庭では今日も組織の構成員達が訓練をしている。

幹部達はその様子を三階の部屋から見下ろして見ている。

そして構成員達が訓練している庭の端を大きな洗濯物の入ったかごを持った長身の人が歩いて来た。

構成員達はその人に気づいて訓練を中断しその人に近づき話しかけた。


「月下(げっか)様!」

「我々も手伝います!洗濯物をお渡し下さい!」

「こんな重い物を月下様がお持ちする事はありません!我々が持って行きますから!」

「洗濯は世話役達の仕事でしょう?貴方がやることではありませんといつも言っていますよね?」


そう言いながらも構成員達は月下と呼ばれたまだ20才もいってないくらいの若い人から洗濯物が入ったかごを取り上げるように奪い取った。


「けど僕が好きでやっている事だよ?世話役達もこれだけならって渡してくれたし」

「貴方のその顔でお願いされたら仕方ないでしょう、、、むしろこれだけと言っただけマシですね」

「これから世話役達と洗濯物を干すんだけど、、、ダメかい?」

「ぐっ、、、はぁ、、、分かりましたがこれ(洗濯物が沢山入ったかご)はその干す所まで我々がお持ちしますからね?」

「ん~、、、良いの?結構重いよ?それに訓練の邪魔にならないかい?」

「うっ、、、だ、大丈夫です。いつもの事ですし」

「うん、いつもありがとう」

「いえ、月下様のためですからこれくらいは苦でもありませんよ」


そう言うと月下と呼ばれた人とかごを持った構成員が洗濯物を干す場所に歩いて行った。

残された構成員達は顔を赤くしながら息を吐いた。


「はぁ、月下様はいつもお美しくお優しい上に良い匂いがするなぁ」

「ああ、仕事をしている時とはまったく違うから初めて会ったときは驚くよな」

「けどあの顔でお願いされたら何でも叶えてやりたいって思うよな」

「わかる!」


かごを持った構成員が帰ってくるまで構成員達は月下の話をしていた。

それを注意するはずの者達が誰も居なかったので構成員達の訓練はかごを持った構成員が帰ってくるまで再開しなかった。

そう、三階で構成員達の訓練を見下ろして見ていた幹部達もいつの間にか居なくなっていたのだ。




洗濯物を干す場所まで来た洗濯物のかごを持った構成員はかごを降ろした。


「では月下様、私は訓練に戻ります」

「うん、ここまで運んでくれてありがとうね?訓練頑張って」

「は、はい!」


月下に微笑まれながらお礼を言われた構成員は顔を真っ赤にしながら訓練していた庭まで走りながら戻って行った。

月下は少し早く着いてしまったみたいで洗濯物を干す他の世話役達はまだ誰も居ない。


「ちょっと早く着いちゃったかな?みんなが来るまで少し待ってよう。

ん~、、、良い風、、、天気も良いし洗濯日和だね」


月下はふわふわと微笑みながらそう言った。

月下は名前の様にとても華やかで美しい月の精の様な容姿をしている。

肌は青く輝いている様な凄い色白で髪は肩までの長さの夜空の様に青みを帯びた黒色で長めの前髪を右目を隠す様にサイドアップにしている。

ただ右目は眼帯で隠されていて見えないが左目は夕日の様な綺麗な橙色だった。

顔立ちは微笑んでいるため暖かみのある華やかで綺麗なお兄さんのようだが微笑んでいなければ冷たいほど整いすぎて怜悧(れいり)に見えただろう。


「月下!」

「あ、ヒナくん!」

「今日も洗濯物か?」

「うん、、、みんなには反対されるけど僕がやりたいから、、、でもやっぱり迷惑かな?」

「そんなことねぇよ!オレは月下が洗濯物を楽しそうに干してるの見ると嬉しいぜ?

それに月下が迷惑ならよく手伝ってるオレも迷惑だな」

「そんな!ヒナくんが迷惑なわけ無いよ!手伝ってくれるの嬉しいし」

「ならみんなもそうなんじゃねぇの?だから今日も楽しく干そうぜ?オレも手伝うからよ」

「うん、ありがとうヒナくん」


月下に話しかけてきたのはまだ青年にもなっていない少年だった。

180センチある長身の月下と並ぶと少年はかなり小さく見えるが151センチはあるのだ。


「お待たせして申し訳ありません月下様!」

「ヒナタ様もご一緒でしたか!」

「待って無いから謝らないで良いよ。今日はヒナくんも手伝ってくれるから早く終わるね」

「おう!重い物はオレに任せな!あんたらの綺麗な手に負担がかかったら大変だからな!」

「~っ!、、、あ、うっ、き、綺麗なんて」

「わ、私達の手は荒れて綺麗なんてモノでは無いです」

「ん?何言ってんだ?オレらのために頑張って働いてる綺麗な手じゃねぇか。

オレはあんたらのその手、好きだぜ?」

「あぅっ」

「っ、~っ!うぅっ」

「ウグッ」

「あぁっ」


洗濯物を干しに来た世話役達はヒナタの言葉に打ちのめされた。

ヒナタの言葉は世話役達がキュンキュンしている間に月下とヒナタは洗濯物を干す準備をしている。


「くっ、、、ヒナタ様は見た目は大人しく綺麗な方ですのに」

「ギャップが、ギャップが」

「あれはズルい!あんなこと言われたらキュン死にしちゃう!」

「ショタなのに、ショタなのに!」


世話役達をキュン死にさせた(死んでない)ヒナタは世話役が言った様に大人しそうな綺麗な子といった印象を受ける見目をしている。

明るく元気な笑顔が顔立ちとギャップを感じさせる。

髪は長くヒナタの性格の様な青空の様に青色の髪を旋毛(つむじ)のあたりでひとつ結びにしていてその髪に簪を指している。

目の色は炎の様な赤色をしていてそこから強い意思を感じる様な子だ。


≪緊急出動、緊急出動、コードネームを持つ幹部様方、門の前にお集まりをお願い致します≫


「え?緊急出動?何かあったのかな?」

「月下、行こうぜ。緊急って事は急ぎだろ?」

「うん、そうだね。みんなごめんね?ちょっと席を外すね?」

「いえ、月下様達の仕事は本来はそちらですのでこちらの事は私達にお任せしてください」

「うん、ありがとう。じゃあ行こうかヒナくん」

「おう!後は頼むな!」

「「「はい!お任せを!」」」 


月下とヒナタは“門”へと向かった。




門の前には月下とヒナタ以外7人の者達が集まっていて月下達二人が最後みたいだ。


「お、来たなお二人さん」

「ごめんね?待たせたかな?」

「わりぃな、急いで来たんだけどよ」


コードネーム『月下(げっか)』とコードネーム『ヒナタ』に話しかけてきたのは全身が真っ白な人でコードネーム『深紅月(しんくづき)』で儚げな顔立ちをしている。

髪は首まである白に近い銀色だ。

目の色は炎の様な赤色をしている。


「いや、俺達も今来た所だ。それより緊急出動の事だが」

「そういやぁ、何で緊急出動なんだぁ?恐怖と畏れは二日前に集めたばかりだろぉ?」

「その時は私が出動したんだけど、、、何か変な所あった?私ナニか間違った?」

「それともその前の私が間違ったのかしら?」

「えっと、その、ボクが作った畏れと恐怖を集める装置に何か、けっ、欠陥があったとか?」

「、、、。」


一番始めに話した男は幹部達のリーダーであるコードネーム『イバラ』で髪の毛がとても特徴的で凄く印象に残る。

その髪は腰まであるストレートで髪の毛がイバラで所々で紅い薔薇(ばら)が咲いているのだ。

ちなみに目の色は茶色だ。


次に話した男はコードネーム『スター』でこちらは目に特徴がある。

その目は銀色に輝く星が散りばめられている様な目をしている。

髪は首にかからないくらいの黒髪だ。


その次に話した女はコードネーム『パープル』で女性的な魅力溢れる人である。

髪は腰まである水色で三つ編みにして結んでいる。

目の色は透明感がある紫色をしている。


その次に話した女はコードネーム『桃姫(ももひめ)』で小さな身長で守ってあげたくなる様な見た目の女性である。

髪はユルフワで太ももまである金髪だ。

目の色は葉っぱの様な緑色をしている。


その次に話した男はコードネーム『ドクター』で少し気弱そうな人だ。

髪は首が隠れるくらいの茶色で両耳の上に椿の花が咲いている。

目の色は濡れた様な黒色をしている。


そして最後になにも話さず静かに話を聞いていた男はコードネーム『ラピス』でクールそうな子だ。

髪は肩甲骨の下くらいある紫に近い桃色で毛先は青色をしている。

目は紫みを帯びた濃い青色で宝石の瑠璃(ラピスラズリ)みたいな色をしていて龍眼(りゅうがん)の様に瞳孔が縦になっている。


ここに集まった者達がコードネームを持つ幹部達(一部は正式な幹部ではないが)である。


「いや、ドクターの装置に欠陥はなかった」

「なら、やっぱり私?」

「それも違うが二日前の出動で収穫した畏れが少し足らなくてな」

「それならやっぱり私のせいじゃない?」

「いや、パープルは仕事をちゃんとこなしたのだが、、、アイツらのせいでな」

「ああ、なるほど。パープルちゃんはちゃんと仕事していたものね?ただ、アイツらが来るのが早かっただけでね?」

「桃姫の言う通りだ。アイツら、、、龍麒麟(りゅうきりん)の奴らが予定より早く来すぎたのが原因だ」

「ああ、そうか。つまり龍麒麟の子達が来るのが早すぎて予定より畏れが集まらなかったんだね?」

「ああ、月下の言う通りだ。今月分が少し足りなくてな」

「ああ、そっか。今日は畏れを渡す日だっけ?」

「そうだ。なので今から足りない分を集めてきてもらいたいんだが」

「なら僕が行くよ」

「月下が?」

「うん、少し集めるのなら僕が一番適任じゃないかな?僕が出るだけで集まるだろ?」

「、、、すまないが頼めるか?」

「任せてくれ、期待には答えるよ」


月下は爽やかに笑い出動の準備をする。

イバラは少し申し訳ない顔をしながらもその様子を眺めている。


「申し訳ありませんイバラ様。本当なら私が行くのが筋なのだろうけど」

「パープルでは少しの時間では集められないからな」

「それは私達みんなにも言えるわよ?あ、ドクターくんは別だけどね?」

「確かに桃姫が言うように月下とドクター以外は少し時間をかけなければ畏れや恐怖を集めるのは難しい。それにドクターは仕事の時以外では気が弱いからな、、、月下が言うように月下が一番適任ではあるんだが」

「まぁ、確かに月下くんはまだ正式なうちの子では無いものね?少し申し訳ないわよね?」

「まぁ、、な」


イバラ、パープル、桃姫が話している間に月下の準備が終わったようで仕事の格好をした月下が話しかけてきた。


「イバラさん、パープルさん、桃姫ちゃん、ヒナくんにも見てもらったんだけど変じゃないかな?」

「ああ、大丈夫だ。顔もちゃんと隠れてる」

「大丈夫よ、月下ちゃん。どこも変じゃないわ」

「月下くんは今日もカッコいいよ」

「うん、ありがとう。それでね、作戦なんだけど今日は爆弾を使おうと思って」


今の月下の格好は右目は黒い眼帯で左目には機械の様な眼鏡で隠していて口元まで隠れる黒い服を着ていて顔は見えない。

服装はほとんど黒い服で黒い帽子や黒い手袋や黒いマントを着けている。

服は全体的にだぼっとしているモノなので体格が全然分からない格好をしている。

これは月下の元々の格好に左目に機械の様な眼鏡と口元が隠れる黒い服を着て黒い帽子と黒いマントを着けただけの格好だがそれだけで月下だと分からない様になっていた。

その格好の月下を三人は褒めながら月下の頭を撫でていた。


「なので工作員の子を一人連れて行くね?」

「ああ、それなら爆発能力を持つ者がいるからそいつを連れて行くといい」

「うん、ありがとうイバラさん」


しばらくするとイバラが言ってた工作員が来たので月下は“門”の前に立つ。


「それじゃあ仕事に行ってくるね?」

「ああ、コピー戦闘員は待機させているので必要な時は直ぐに呼び出してくれ」

「うん、行ってきます」

「ああ、行ってこい月下」


そうして月下は開いた“門”を潜る。




月下と工作員が門を潜るとある場所に出た。


「月下様、私はここでお待ちしています」

「うん、偽物の爆弾を用意して待っててくれる?僕は人を集めて来るから」

「はい、行ってらっしゃいませ」

「うん、行ってきます。それじゃあ、、、仕事を始めるか」


喋り方が急に変わった月下を見届けた工作員は一人残された廃墟の工場で呟いた。


「幹部の方々は仕事になると驚くほど性格が変わるけど月下様は格別だな、、、月下様は本当に正反対といっていい程に性格も口調も変わるからな、、、始めに見た時は心臓が止まるかと思うほど驚いたけど今でもその変わりようには驚くんだよな、、、ただギャップが凄すぎて始めと違う意味で心臓が痛くなるけど」


工作員は深く息を吐いてからまた話し出した。


「非道で俺様な“パートくん”がお優しくて綺麗で可愛らしい月下様だと今でも信じられないんだよなぁ」


そう言いながら工作員は偽物の爆弾を用意しながら月下、、、パートくんに捕まって絶望した顔をしている者達を集めて来るのを待った。



その後は偽物の爆弾を使う前に正義の組織の龍麒麟が来たので月下、、、パートくんはその前に集めた畏れを持って悪の組織の夜花(よばな)に帰った。

月下が帰って来た門の前には幹部達がみんなで待っていた。


「おう、帰ったぜ!、、、ただいま。みんなもしかしてずっと待っててくれたのかい?」

「月下、怪我は?」

「無いよラーくん。大丈夫だよ」


帰ってきた月下に始めに声をかけてきたのはラピスだった。

普段はクールで人に無関心なラピスが月下を心配して月下が仕事から帰ってくる度に声をかけるのはいつものことなのでみんな馴れている。


「イバラさん、これ」

「畏れか、ありがとな。疲れただろ?」

「ううん、何事もなく終わったから」

「月下、俺達も少し疲れたから休憩しようとしてた所なんだが一緒にどうだ?」

「シンさん達と?ならよろしく頼むよ」

「おう、なら早速いつもの所に行くぞ!ほら、ラピスは仕事してきた月下を労って運んでやれ」

「ふん、お前に言われなくても俺が月下を連れて行く」

「え?ちょっ!ラーくん!」


深紅月に休憩に誘われて頷いた月下をラピスが抱き上げた。

しかも抱き方がお姫様抱っこだったために月下は驚いたのだがラピスが大事そうにけれど絶対に離さない様に抱きしめたので月下は諦めて大人しく運ばれる事にした。


「ふふ、、、」

「月下?」

「いきなり笑ってごめんね?ラーくん。ただ、ふふ」

「ただ?」

「悪の組織なのにこんな事思うのは可笑しいと思うんだけどね?」

「、、、なんだ?」

「平和だなぁって、、、幸せだなぁって思って」

「そうか、、、、良かったな」

「うん」

「俺はお前が幸せなら何でも良い」

「ふふっ、ありがとうラーくん」


月下はラピスに最後まで抱かれながら運ばれた。

そして運ばれた部屋で幹部達と楽しく休憩をとり悪の組織とは思えない平和な一時を過ごした。

けれどこれは夜花の日常でもあるのだ。


悪の組織の夜花は今日も平和な1日を過ごす。





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