第7話 パワーレベリング

冷蔵庫でも経験値を得られる事がわかったので6階に向かう。


同じように玄関の鍵が開いてる部屋を探す。

そして廊下の1か所にまとめてから一気に投げ入れる。


7階に移動したときに美咲がポツリと呟く。


 「ここ、あのジジババの家だよ」


7階の一室を指さして言う。


 「お父さんに無理やり買わせた家だから、取り返したいってずっと思ってた」

「まぁもう住人はこの世に居ないんだから取り返したみたいなもんじゃない?」

 「・・・・・」

「鍵は閉まってるから、もしも中の家具とか捨てたいなら、どっか空いてる部屋からベランダの仕切り板を壊して行こうか?」

「祖父母のご遺体探ればカギは持ってると思うけど?」

 「もうここには住めないから、いいわ」




7階8階9階と同じことを繰り返す。

その間、美咲はまた陰気くさい顔をしていたが、レベルが上がったお知らせで少し顔を上げだした。


自分の顔を両手で パンッ と叩き一言呟いた。

 「ごめんね」

健斗は無言で美咲の頭を優しく撫でた。



上階になるほど落とした冷蔵庫はバウンドして巻き込み炸裂でゴブリンの数を減らす。

下を見ればもう20台ほどの冷蔵庫が無造作に転がっている。


「もうワンフロアーやったら終わろうか?」

 「10階でキリいいしー」


10階は空いてる家が2件しかなかったが、ベランダに出て仕切り板を壊して隣の家に侵入する事にした。

下の階でもそれをやれば良かったんだろうが、ちょっと罪悪感を覚えていた。

どのみち他人の家に不法侵入するのだから同じ事だと思うけど、と言われたからだが。

RPGゲームみたいに他人の家に勝手に入り、タンスとか無断で開けて小さなコインをパクるよりはましだろう。

いや、冷蔵庫持ち出す方がたちが悪いか。



ベランダから隣の家に侵入してると、まだ非難も被害も無い家族が数組いた。

外から聞こえる悲鳴に恐怖し、ドアを開けて様子を見ることも出来なかったらしい。

このマンション全体でまだまだ結構な数の潜伏者は居るんだろうと思う。


「もう普通のフニャヘラ美咲ちゃんに戻ったな」

 「なんやその変な称号は?」


住人たちに今の現状を二人で詳しく説明するが、すんなりと理解してくれる人は居ない。

信じないならもうそれ以上は言い様が無いよ?

好きにしてくれ。



廊下に5台の冷蔵庫を集めて順に投げ落とす。


3台目を投げる時、手前側は冷蔵庫が瓦礫の山になっていたので

「奥に投げるから力一杯目一杯ねー」

 「りょ~かい」

 「んじゃ~いくよー いっせ~ので、せ」


手を放すタイミングが合わず冷蔵庫と一緒に美咲が飛ばされてしまった。

 「ヒェェェェェー」

「バッ、美咲~」


慌ててアルミの柵の上に乗り一番上の手すりを美咲の方に蹴り、落ちていく美咲へとダイブする。


すぐに捕まえられたが、これからどうする?


一緒に落ちていく冷蔵庫に飛び乗って、跳躍でどこかの階に飛び込もう。


だが同じ速度で落ちていく冷蔵庫に飛び移れない。


美咲は何も言わずにしがみつくだけだった。

「何があっても最後まで目だけは開けとけ」

「ギリギリの刹那せつな、目を瞑ってる奴に奇跡は起きない」

「最後まで、助かる気持ちは捨てんなよ」


ヒューーー


そう言いながら、フッと1つのスキルが明確につ鮮明に頭の中に浮かぶ。



風纏かざまとい!」


大声で唱えると、健斗の身体に薄い水色の風がまとわりつく。

そして抱いてる美咲も巻き込んでふわりとその場で浮き、ゆっくりと落ちていく。

 

 「おぉぉぉぉぉー」

 「すんげぇ~健ちゃん!」

「惚れた?」

 「うんうん、惚れなおした♪」

さりげない、ふざけた言葉だが、妙に心がくすぐったい。

 


それより、スキルのおかげで助かったーっと胸を撫で下ろす。



ドンガラガッシャンシャン


冷蔵庫は下に届き、大きな音をあげて跳ね回る。

またゴブリン達を蹂躙していく。


あそこに落ちていたらどうなっていただろう?

身体が強化された今なら着地は出来るかもしれないが、その後すぐにゴブリンに襲われたら一溜りも無かっただろう。



 (ヒュン)

 

 「あれっ?」

「どした?」

 「ステータスオープン」

 

 「えっ?」

 「あははははははははは」


美咲が壊れた?


 「風纏!!!」


美咲の身体に薄黄緑色の風がまとわりつく。


「えぇぇぇぇぇぇ? なんで?」

 「ふふふ パクったった」


美咲が健斗の風纏の中に包まれて落ちていくうちに、スキルとして風纏を覚えたようだ。

行動発生系らしい覚え方だ。


空を飛ぶ奴に捕まってたら、飛行スキルも覚えるんだろうか。


「ど、どろぼー」

 「ふふふ、取ったもん勝ちや」


「ちょっと色がちゃうんやなー」

 「みさきいろー」


満面の笑みで嬉しそうにしている美咲が健斗の身体から離れていき浮いている。


天空から落ちてくるシータのように仰向けになり手足を広げる。


 「ヒャッハー!」

「パリピかよっ」



シータでは無かった。




なんとなくだが、このまとわりつく風をコントロール出来そうな気がした。

目を瞑り少し精神統一して下方に風が吹くイメージをすると、身体が上に浮き上がる。


「ヒャッホー」


まだつたないが上下左右前後に斜めに自由自在に移動できる素晴らしい空中移動系のスキルだった。


 「なんや、なんやー」


美咲が下で叫んでる。

空中から飛び込みをするように下に向かって行く。


美咲に追いつくと抱きかかえ、5階の廊下にゆっくりと降りる。


「これは練習しないとなー」

 「どうやんの?」

「そりゃー教えられんな」

 「ケチかっ」





5階の廊下で美咲が顔を真っ赤にしながら一生懸命 風纏のコントロールを修行中である。

自分がやった事を教えたが、こればっかりは感覚の問題なので練習するしかない。


もうお昼もとっくに回っているので健斗はそばで座って菓子パンをむさぼる。

乾いた口の中にミネラルウォーターを流し込む。


「おーい、ほどほどにして飯くえやー」

 「もうちょっと、なんとなくわかりかけてきた」


真面目なのか負けん気が強いのかわからんが、まぁ諦めの早い奴よりは好感が持てる。


 「おっ? ほ~れ~」

どうやら身に着けたようだ。


嬉しそうにずっと飛び回る美咲に向かって

「飯食ってからまたやれよ」

「美咲も十分中2だよ(笑)」


呼び捨てにしてしまったが、美咲は特に気にした様子もない。

まぁさっきも叫んだ時に呼び捨てだったから2回目だし。


 「あ~腹減ったーめっし食わせ~」


ラップのようなリズムで語りかけてくる美咲にビニールに入った菓子パンを渡す。

クロワッサンの間に生クリームと特性カスタードクリームが入った絶品だ。

神戸はとにかくパンが美味しい。




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