第45話 再戦の宣言


 それからクドウによる特訓が始まった。

 クドウは立ち回りやら小ワザなどマニアックなテクニックを実践と共に詩葉に教えていて、ちゃんとした指導というものになっていたと思う。


 俺も最初の方は練習相手として相手をしてたが、クドウの指導が上手いのか、はたまた詩葉のセンスがあるのか時間が過ぎるたびに詩葉はメキメキと上達。

 いつしか俺は相手にならなくなった。


 そして時刻は日を跨ぎ、現在早朝4時。もうじき朝日が顔を出すぐらいにまで時間は経っている。


 もはや詩葉の相手にならないと戦力外通告された俺を他所にして、クドウと詩葉は二人の世界に入っていたため、暇だった俺はソファに寝転がりながらネット記事を漁っていた。


「……ったく、母親ならポテトサラダくらい作れだぁ? 簡単に言うがポテトサラダ一つ作るだけでどれくらいの労力と時間かかると思ってんだ」


 昔の記事だが、凄い目に止まってしまった。


 どうやら主婦がお惣菜コーナーで見知らぬクソジジイにそんな事言われたらしいが、こんなこと言うヤツは、どうせジャガイモの芽が毒であることも知らないんだろうな。


 特に気になったのが母親ならって部分だ。母親なら料理して当たり前っていう認識が深く根付いているのがよく分かる発言だよなー


 俺が誰にもぶつけれない愚痴をこぼしていると、詩葉と共にゲームをしていたクドウが突如コントローラーを落とし、膝から崩れ落ちた。


「……ば、バカな」

「おい、どうしたクドウ!!」


 心配するようにクドウに駆け寄ると、クドウは驚愕の表情を晒しながら身震いをしていた。


「……あ…ありのまま今起こった事を話すぜ!」


 若干、何かに怯えているような印象のクドウは、そう言って言葉を続けた。

 まるで何かの漫画に出てくるキャラのように。


「……おれは奴との試合に勝っていたと思ったらいつのまにか負けていた。な……何を言っているのかわからねーと思うが、おれも何をされたのかわからなかった……。

 頭がどうにかなりそうだった……。冗談だとか手加減しただとかそんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ」


 どうせクドウのことだ、何かのキャラの真似をしているんだろうが、それを知っている人がここにいないからさらっと流れる。

 ナギがいればツッコむんだろうがな。


「……俺はとんだモンスターを大乱闘に参戦させちまったようだ。これは育てていい才能なのか……?」


 ま、ともかく……これは詩葉が完全に仕上がったって認識でいいのか?

 ゲーム画面を見ると、詩葉が勝ったのがわかるし。


 しかし……マジでやりやがるとは。

 もちろん、クドウの実力はナギと遜色ない。詩葉がクドウに勝ったってことは、ナギに勝てる可能性も十分にあるってことだ。


 やっと……寝れる。


「よぉし、そうと決まればナギを叩き起こして早く戦いをーー」

「ーーまだよ。念には念を。完璧に仕上げてからいく。もうちょっとで空前の感覚が完璧に掴めそうなの」


 そう言って、詩葉は無言でコントローラーをカチャカチャと動かしてる。


 ほんの数時間前まで詩葉はゲーム初心者特有の喋りながらのゲームプレイングだったのに、今や口よりも手を動かし、一手一手に集中してるプレイングになっていた。


 コイツ、この数時間で何があったんだ……。


「あ、それとクドウ。地面に着地した直後に緊急回避するクセやめた方がいいわよ。狙いやすいから」

「……あ、はい」


 もはや師匠にダメ出しする関係とは、これはやり過ぎた感すらあるな。



○○○○○○



 そして時刻は……朝9時。ナギと俺の部屋。

 いつの間にか昇っている朝日に無言で挨拶をし、ソファにてくたびれているとナギが起床したのか自室からリビングにやってきた。


 つ、ついに……きてくれたか。


「あれ、みんなして早いね。それにクドウもいる」

「あぁ、お前を死ぬほど待ってたからな」

「そんなに僕が恋しかったの? 起きて早々レンに言われるとすごく気持ち悪いんだけど」


 今はどんな暴言を言われても何も感じないな。思考が機能を停止してるから。


「なんか、クドウとレンは特にくたびれてるけど……どうしたの?」

「……寝不足。とある女性がなかなか寝かせてくれなくて」

「ユノ、そんな激しいんだ。若さの特権だよね」

「いやー俺もクドウと同じく女が寝かせてくれなくてな」

「へぇ、なんかいいAVあったんだ」


 俺に女がいると疑わず、すぐにエロ動画と推測か。

 そう思われるのも苦だから早く彼女作ろっと。


「ーーナギ! スマブラしよっか!」

「お! いいね! 朝っぱらからゲームとか好きだよ? 僕は」


 詩葉の提案にすんなりと了承したナギ。

 ちなみにいまさら気づいたんだが、詩葉のやつなんで疲れてなさげなんだ。

 昨日の22時からオールして、トータル11時間ばかりゲームに没頭してたんだぞ? 普通疲れるだろ。

 それこそ練習相手になってたクドウでさえ絶賛死にかけだというのに。なにアイツ不死鳥?


 そして詩葉とナギの二人は、テレビの前に陣取り、俺とクドウはソファに座って二人の戦いを見守ることに。


「ナギは前の試合と同じでマ○オでいいの?」


 画面を見てみると、ナギは前回と同じくマ○オを選んでいた。

 詩葉にとっては、憎き相手だろう。


「……ほぉ、ナギめ。一応手加減してたんだな」

「ん、どう言う事だ?」

「……いや、ナギの持ちキャラはアレじゃないからな」


 持ちキャラというと一番得意なキャラってことだよな。なんだ、ちゃっかりアイツも一番得意なキャラは使わないっていう手加減はしてたんだなぁ。


「それじゃ私はもちろん、ピ○チで」

「ん? 詩葉、それってPROコン……?」


 詩葉の手元を見たナギは怪しむ顔を見せた。


「……ざわざわ……ざわざわ……」

「クドウ、何口ずさんでんだ?」

「……いや、今のナギにぴったりの効果音だから」


 するとナギは何かがおかしいと察知したのか、○リオをキャンセルし、再びキャラを選び直した。


「あれ、キャラ変えちゃうの?」

「うん。どうやら昨日と同じ感じじゃ、マズイと思ってね」


 コイツ、勘が鋭いな。

 ナギ自身、詩葉と俺達が特訓してたことは知らないはずなのに、詩葉のコントローラーを見ただけで危険を察知したとは。


 そして、マ○オの代わりにナギが選んだキャラは、ピンク色のピチピチスーツを身に纏った筋骨隆々の男ーーキャプテ○・ファルコ○だった。

 デフォルトから色を変えているため若干気色悪い色合いになっている。


「……あ、あれはナギ専用キャプテン!? まさかヤツを表舞台に出すなんて。コイツァ面白くなってきたじゃあないか」

「あの気色悪いのがナギの持ちキャラか?」

「……あぁ、経済学部ス○ブラ会で猛威を払ってる『ピンクい彗星』。ヤツを出すって事はナギも本気ってこと」


 大層な名前もらってるが、おれにはピンクの服着たムキムキの不審者にしか見えない。

 これからこの変態仮面が可憐なピー○姫を襲うとは……テレビなら一気に視聴率が落ちそうだ。


「さぁ、準備はいい? 詩葉!」

「ちょっと待て、ナギ! ーー詩葉やれ」


 早速試合を始めようとしたナギを止め、俺は詩葉に指示を出す。

 すると詩葉は俺を見て無言でうなづき、コントローラーを床に置いて、その場で立ち上がった。


「詩葉、何を?」

「……こ、これは……っ!?」


 そして詩葉は有無も言わず上の服を脱ぎ出し、上はキャミソール、下はホットパンツというなんともまぁ露出の激しい格好となった。


 実はクドウが来る前、少しばかり詩葉と作戦を練っていたのだ。その際、俺が提案したのがこれーー色仕掛け。

 勝つためには何でもすると言っていた詩葉はすぐに了承し、今こうして作戦を実行しているということだ。


 上は少しかがめば、ポロリといってしまいそうな詩葉の完全無欠ボディ、下は際どいパンチライン……これらを目にし、既にナギは鼻の下を伸ばしている。


 ふふ、効果はてきめんのようだな。



 ……次話、再戦の決着の宣言に続く。

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