第42話 車内DJの宣言


 たくさんの自然と触れ合い、楽しく過ごしたBBQ。特にこれといった事件など起きず、無事終えた僕らは帰路についていた。


 今はBBQ場を出発してから既に10分が経過したところ。行きはあんなに騒がしかった車内だが、遊んだ疲れがみんな出ているのか、帰りはわりかし静かだった。

 ちなみに運転手はホイミからユノに代わっている。最初は、以前クドウが言っていた事を思い出してみんなしてユノが運転することにビビっていたが、順調に走り出してからはそんな事気にしなくなった。


 一日の終わりを告げるように西日が窓から車内に差し込む中、ただ淡々とレンが流している車内音楽が聞こえる。


「ーーねえ、レン。ボクは自分の携帯の充電が少ないから車の音楽を助手席の君に一任したんだよ?」

「あぁ、分かってる、ユノ。ちゃんと任せられてるぞ?」

「じゃあなんで、流れてるのが一定速度で何かを切ってる音なの。というかこれなんの音!?」


 運転しているユノがそう文句を言っているが……確かに言われてみれば今流れてるこの曲、なに?

 ただひたすらトントントン……と軽微な音が聞こえる。何かを切ってる?

 包丁とまな板が擦り合っている音が確実に聞こえてるな。


「これはカレーを作るために、にんじんを切っているASMRだ」

「何その意味不明な音楽。いやそもそも音楽じゃないよね。ちゃんとボクのリクエスト通りにしてよ」

「なんだよ、ちゃんとお前のリクエスト通りだろ? みんながよく聞く曲。ほら、聞くだろ? この小刻みに、トントントントンって」

「確かに食卓ではよく聞くけども。車で聞く音じゃないでしょ」


 初めてだな、調理音を車で聞くの。

 つーか、にんじん切るASMRなんてものがあるんだ。そんな変なASMRあるとか、こうなったらなんでもありじゃないかと思ってしまう。


「おい、レン。こんなんじゃ、腹減るだろ。変えろよ」

「わーったよ。じゃあ、次は何がいい? タマネギ? じゃがいも? それともあんまお勧めしないが肉か?」

「まずは調理ASMRから離れろよ」


 うぅ……ホイミの言う通り、なんだが少しお腹が減ってきたかも。

 まさか聴覚で食欲を刺激してくるとは……普通は、視覚や嗅覚とかからくるものなのに。


「カレーの食材を切るのしかないの? その調子じゃ、カレーのルーかき混ぜる音ありそうね」

「お、詩葉。お目が高い。それが俺のプレイリストの一番のおすすめだ」

「アンタのプレイリストどうなってんのよ」


 レンのプレイリストがなんだか茶色くて香ばしいな。


「もうレンに任せてられん。代わりに他のやつが流そうぜ?」

「そうだね。軽くノリに乗れるやつとかがいいや。運転はかどるし」


 みんなと同じように疲れてるだろうユノがそう言ってる。

 運転してるユノの事も考えるなら確かに軽く疲労を吹っ飛ばすような曲とかいいのかもしれない。


「それじゃ俺が流すぜ。最初はーー」

「「「却下」」」

「みんなして即答かよ。R指定のライム並に早いじゃねぇか。まだ何も言ってないのに」

「だって、ハヤシダ。どうせ無駄に騒がしい曲流すでしょ?」

「全然騒がしくねぇよ? 今のとこ考えてんのは、AviciiにZedd、LMFAOとか……」

「曲流れてないのにそのラインナップだけで、耳が痛くなりそう。ノリに乗るにも加減があるでしょ」

「まだ午後17時だってのに、ここをEDMまみれのクラブにする気か」


 僕自身、若干睡魔に襲われてるから睡眠を防ぐなら最高の一手かもしれないが、別段テンションをアゲアゲにしたいわけじゃない。

 しかもこの中じゃ、はしゃぐのハヤシダだけだろ。


「うーん。ボクもみんなの意見に一致かなー さっきレンにも言ったようなリクエストに沿ったものが欲しい」

「じゃあ私が流すわ。て言ってもありきたりな曲しかないんだけど。割りかしみんなよく聞くというか、ノリに乗れるんじゃないかしら」


 そう言って詩葉は、自身のスマホを車のナビに繋げて曲を流した。

 少しすると、悲しげなイントロと共に女性の声が。


『それでーーもいぃぃい、それでーー』

「「「却下」」」

「ちょっと!? なんでよ!?」

「いや、HYの『3○6日』って。ごりっごりの失恋ソングじゃねぇか。どこがノリに乗れるだよ」

「ノリに乗るというよりも悲しみに包まれそうやな」

「もしかして詩葉疲れてる?」


 彼女にとって、ノリに乗るとはいったい?


「もはやナギにまでバッシングされるなんて……それじゃ他のにするわ。えーと、どれにしよっかな……ナギに少しも見向きされなかった高一の時に聞いた曲達ならみんなノリにーー」


 なんだが罪悪感を感じる。

 僕のせいで詩葉の音楽センスを壊してしまった気がして。


「お前、ノリに乗るの意味分かってる? 今んとこ俺の調理ASMRより酷いぞ?」

「この調子だと、車内全体が憂鬱になりそうだ。チェンジで。代わりにナギ、任せたぞ?」


 ホイミに頼まれたが……これは重要な任務だぞ。今までの流れ的に下手な曲を出せば待ってるのは、みんなからのかなりのバッシング。

 とまぁ、今までのが異質だったからアレか。


「それじゃ、とりあえず『○nly my railgun』から」

「「「賛成」」」


 あ、普通に通った。


「しまった。この場の半数がオタクじゃねぇか」

「やられてもうたな。却下言う前に賛成意見言われたでいまさら却下言えへんくなっとる」

「先手必勝ってやつね。巧妙」


 なんか言われるかなぁと思ったけど、意外に通るもんだなぁ。さすが定番曲。


「……さすが、ナギ。センスある」

「いーね! 運転が捗るよ!! レールガンのレベルで飛ばすね!!」

「ナギにしてはやるじゃねぇか」


 ユノ、クドウ、ハヤシダの支持があって助かった。

 この三人以外からは若干、不服そうな表情が見られるけど……気にしない、気にしない。


「なんか、特定の人だけ無性にテンション上がってない?」

「俺の調理ASMRの時とは大違いだ」

「まさかアニソンをドライブ中に聞くことになるとは」


 ん? なんか今後ろの席の大男から聞き捨てならない言葉が聞こえたような。


「……ユノ。ここにアニソンって、言ってるやついるけど?」

「あぁ俺も聞いた」

「おっけ。もうすぐセブン近いから。放り出そっか。ボクだけじゃ手が足りないからみんな手伝って」

「「「りょーかい」」」

「なんなの、お前らのその即座の連携」


 ユノの提案に僕とクドウとハヤシダが呼応した。

 よーし、ホイミはかなり大柄、みんなで息を合わせないと出せないからな気張っていこう。


「あのね、ホイミ。アニソン舐めちゃいけないよ?」

「今活躍してるインディーズ出身のバンド全員、何かしらのアニメを担当してるんだよ? いわば登竜門」

「そのアニメに関わってなかったら知名度上がってなかったアーティストなんて何人もいる。ま、俺は今は興味ないけど」

「……アニソンバカにするのは、そのアーティスト全員敵に回すのと同じ。ホイミは、一人で世界を相手できるのか? ん? どうだ?」


 さて、アニソンを馬鹿にしたこのゴリラをどう調理してやろうか。

 ハヤシダの曲でアゲアゲになりながら、レンの流した調理ASMRの如く切り刻もうか。ついでに詩葉の失恋ソングも添えて。


「あらら、四方八方とはこのことね」

「おい、ホイミ。今更になってにんじん切る音が恋しくなったんじゃないのか?」

「あぁ。こんな風に一瞬で周りが敵意剥き出しになるくらいなら大人しくカレーのルーをかき混ぜる音聞いときゃよかった」


 午後17時……。

 昔の夕方TVアニメの時間と同様、この車内ではアニソンが響き渡ったのだ。

 あぁ昔が恋しいな。なんだって、この時間帯からアニメは消えたんだ。



○○○○○○



「「「CHAーLA! HEADーCHAーLA!! 何が起きーー」」」


 なんだかんだで、アニソンと言えど、ホイミやレンも知ってる曲は口ずさむじゃないか。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る