第13話 週刊誌の宣言①


 北山(ほくざん)大学。

 愛知県名古屋市に位置している自称東海地方で一の私立大学である。


 僕達はそこの経営学部に所属しており、日々勉学に励んでいる……という事にしておきたい。


 私立というだけあって、金が十分にあるのかキチンと舗装された道に、大きな講堂、オシャレな食堂とキャンパス全体が小綺麗になっていた。


 ただいくつか文句を言いたいとするなら、キャンパス自体が山の上にあるため大きな坂を登らないといけないのと、駅から地味に歩くところだろう。


「ふーむ、ロクに勉強してない学生だというのに、こんなオシャレな食堂使っていいものなのかーーここに来るたびいつも思っちゃうよ」

「良いに決まってんだろ。一応俺らはバカ高い授業料払ってんだから」


 僕とレンは履修していた授業が早く終わったために、テラスが隣接されている全面ガラス張りの食堂に向かう一本道を小走りしていた。

 学食の席を確保するためだ。


 ここの大学は通っている生徒の人数と食堂の数、席の数が全く合っていないから直ぐに席が埋まってしまう。

 だからこうして、授業が早く終わった人から席を確保しないといけないのだ。


 ちなみに、クドウとホイミはこの時間、別の授業を取っているので、二人の席も取っておかないといけない。


 食堂に着き、急いで席を確保すると、食堂の中の隅の方で何やら人だかりが出来ているのを見つけた。


「はいーーらっしゃい!! 一部200円ですよ! 買ってきませんかーーっっ!?」


 何やら八百屋の如く、声高らかに商売をしている男。

 その男のせいでその周辺は、近所の商店街みたいにごちゃついていて、オシャレな食堂とは相反する空気を醸し出していた。


「あれは……トクダネ? 何やってんだアイツ」


 徳井(とくい) 種治(しゅーじ)。通称トクダネ。

 僕らと同じく経営学部の人間だ。学部ガイダンスや体育の授業で何度も顔を合わせた事で知り合いになった。

 まさかこんな所で会うとは。


 トクダネの周辺のごちゃつきが無くなったのを見計らって僕とレンはトクダネのところに行った。


「お、これはこれはお二人さん。昼飯かい?」

「うん。そうだけど……トクダネは何してるの?」

「ん? 何って、そりゃサークル活動や?」

「サークル活動? 何の?」


 何やら商売みたいなのをやってたから僕が知ってるサークル活動とは違う気がするけど。


「ワイが入ったのは、自作雑誌創作サークル『週刊BUN秋ばんしゅう』。主な活動は自分達で雑誌を作って売るって感じやな」

「週刊BUN秋って、なんか既視感あるけど」

「そりゃそうやろ。そうしたほうが売れるから」


 まぁ、確かに本物の方と間違って買ってしまったり、『なんだ、これは』と興味を示すことになる。

 上手いこと本物の方のネーミングブランドを利用したと言う事だろう。


「雑誌を作るねー これ売れてんのか? 学生が作るにはクオリティに限界あるだろ」

「ふふふ……おかげさまで大盛況や。全5000部刷ったが、もう残りはこの三冊やからな」

「えぇ!? めっちゃ売れてる」


 普通、学生が作ったものなんてたかが知れてるから売れ残るもんだと思ってたけど、完売する勢いなんて凄い。


「今月はかなりのネタを掴めたからなぁ。売上は期待通りや」

「なになに……『遂に掴んだ!! 大学に潜む不倫の鬼の尻尾』?」


 学生が作ったものしては、かなり際どい見出しだな。そんじょそこらの週刊誌と遜色ないタイトルだし。


「ネタバレやが、経済学部の川崎教授(48)の二度目の不倫が発覚したって記事になっとる」

「えぇ!? あの女好きの川崎教授(48)が!?」

「しかも相手が教育学部の東雲准教授(37)ときた。そのせいで、今、教育学部の生徒と経済学部の生徒の間では微妙な空気が流れてるらしいで」

「そりゃそうだろうね」


 教育の概念を教えるはずの教育学部で悪教育であるはずの不倫が起きたんだ、生徒達は気まずいに違いない。


「だが、あの堅物の東雲准教授にも女になる時があるのかと認知できた事で、一部の男子生徒の中じゃ妙な人気が出ているらしい」


 東雲准教授の次の相手がどうか生徒ではないことを祈るよ。

 そしてそのせいでまた『週刊BUN秋』のお世話にならないようにしてほしい。


「つーか、凄い調査力だな。いち、大学生達が不倫を掴むなんて。レベルが高い」

「なんや、知らんのか? ウチのサークルそっち方面じゃ結構有名なんやで。愛知の出版業界の登竜門なんて言われてるし。ここのサークルを出て、そのまま出版社に就職した先輩は何人もいるし」


 そうだったのか。だからこんなにも学生離れしてるんだ。それなら納得。


「確かトクダネは、ジャーナリスト志望だったよな」

「おうよ! 社会の闇も女の子の魅惑の場所も全部素っ裸にしてやんだ!!」

「ジャーナリストになる前に、犯罪者として取材されないようにね」


 トクダネは自分の将来の夢に近づくためにこのサークルに入ってるのか……えらい!


「でも、大丈夫なのか? 少しとはいえ金銭が関わってくるものだし、ある意味オフホワイトな代物を売ってるんだ。大学側に止められそうな気がするが」


 確かに、教育に悪いっちゃ悪いし、大学の評判云々で、学生課に止められそうだけど。


「心配あらへん、そこんところは既に対策済みや。大学のイベントとか行事の情報も広告がてら載せてるし、大学の評判も上がるようなトピックも十分盛りこんどる。

 しかもなんだかんだこの雑誌は、市からの評判良くてなー 大学側は止めるに止めれんのや」


 市からの支えがあるとは……。それはもし仮に止めたくても止めれないだろう。いちサークルがここまで力を持つなんて。

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