第8話 今後の展望の宣言①


 「……という事なんだ」


 僕は詩葉の宣言の後の事を話し終えた。

 かなり長く喋ってしまったが、包み隠す事なく全部喋ったぞ?


 途中、一人であの時の事を思い出して、レン達がいるのを忘れるくらいのほほんとしていた時間があったが……この話を全部耳に通していたであろうレン達の反応はどうだろうか。


 僕がレン達の方を見ると、突然、外まで聞こえるような大声が飛んできた。


「死にやがれぇ!! このオーバーオール野郎!!」

「……無駄だよ。後ろにあるバナナの皮が見えないのか? 緑の恐竜もどき」

「うぎゃあぁーーっっ!! な、なんか飛んできたぞ!?」」


 なんとレン達は、いつの間にかテレビの前に陣取っており僕の事など一切お構いなしにマリ○ーをしていやがった。

 Nintend○の人気キャラ達の阿鼻叫喚が車のエンジン音と共に聞こえる。


「ちょっ!? お前らちゃんと聞いてたの!?」


 全く失礼しちゃう。僕がせっかく詩葉との物語エピソード5を話していたのに。

 スタンディングオベーションどころか他ごとするなんて。とんでもない奴らだ。


「ん? ちゃーんと聞いてたぞ。ホイミの断末魔ぐらい」

「それじゃねぇよ!!」

「おいおいマジでなんだよ、あの青甲羅。追尾性能ってマジか? 卑怯じゃねえか」


 ホイミはどうやら人生で初めてプレイしたマ○カーのアイテム性能にグチグチと文句を垂らしている。

 あぁ……こういうタイプの人間は、自分に攻撃されたわけでもないのに、ゲームのキャラが攻撃されるたび『痛い!』っていうんだろうな。


 ……ってそんなことどうでもいいんだ!!


「○リカーの事なんてほっといてよ。それでちゃんと僕の話聞いてたの?」

「まぁーな。詩葉とお前の今の関係性がそれなりに分かった気がするよ」


 ゲームの画面を一時停止にし、渋々しぶしぶレン達はもともと座っていたソファに座り直した。


「--それじゃあ念の為確認だ、お前と詩葉は現在付き合ってないんだな?」

「う、うん。確かそのはずだよ? それこそ詩葉は、僕が詩葉の事好きだなんて一片たりとも思ってないと思う」


 あの時の会話からも分かる通り僕の『好き』は詩葉にものの見事に受け流されたからな。全く伝わっていないと思って間違いないだろう。


「そんでもって、詩葉は未だナギの事が好き。それどころかメロメロにしてやると」

「うん。さっきの様子を見るとそうっぽいよね」


 はぁ〜ぁ、未だに思い出すとまたとろけてしまう。詩葉の投げキッス。

 あの攻撃には世の男全員が『こうかはばつぐんだ!』だろう。


「お前はよぉ、なんて羨ましい状況にいやがるんだ」

「……なぁ、ホイミ。人って、こんなにも悔しがれるものなんだな」

「あぁ、クドウ。俺も今の今まで気づかなかったわ。嫉妬をお金にできるなら今の俺、民間宇宙旅行行けるぐらいの大富豪になってる」

「……僕は、Z○Z○作れるぐらい。もしくはみんなにお金配れるくらい」

「それ結局、全部前澤さんじゃねぇか」


 そう言って軽くレンはツッコミを入れるが、前澤さんクラスの嫉妬の資産が溜まっているホイミとクドウは今まさにでも僕に襲いかかるぐらいに目がギラついていた。


 こうしてはいられない。早く話を進めよう。

 嫉妬に狂わされている獣達に襲われる前に。


「それで、冗談はこの辺にして。みんなに聞きたいのは『僕は今後どうすればいいと思う?』……って事なんだ」


 そして僕は話の本題に入る。

 それはつまり今の僕と詩葉の関係性を知った上での今後の行動、振る舞いだ。


 僕の言葉を聞いて、みんなはしばらく考える素振りを見せていたが、そんな中ホイミが我先に口を開いた。


「どうするもこうするも簡単じゃねぇか。ナギが告れば一件落着。楽に付き合える」

「話聞いてたの、ホイミ? 今それが叶わない状態なんだよ。僕が詩葉を好きっていっても信じてもらえないんだし」

「あ、そっか」

「全く……今まで何聞いてたの? 頭沸いてんの? 僕の代わりに今日の夕食の具材にでもなる? それとも“キラー”ぶつけてやろうか?」

「辛辣すぎるし、言い過ぎじゃねぇ!?」


 決めた。今日は僕の代わりに話を聞いていないホイミがレンの作る肉じゃがの素材になってもらおう。

 ホイミは巨大だから使える肉が多くて助かるな。


 僕が色々と考えていると、クドウが長らく考えていた事を出した。


「……彼女に惚れているってのを上手く伝えればいいのでは? あっちがメロメロにするって意気込んでるからメロメロになったフリをするとか」

「フリといっても僕もう既に詩葉にメロメロだよ? これ以上どうすればいいの?」

「……そんなの知らない。名古屋の中心で愛でも叫んでれば?」

「規模小さ!! 名古屋って……もっと範囲広くしてよ!」


 映画でさえ世界なんだからせめて日本ぐらいの広さにしときたい。


 というか僕の言葉が余分だったせいで、クドウの嫉妬がまた再燃したな。

 せっかく良さそうだった意見も雑に終えられてしまった。


「つーか、その前にそんな事したら一発お縄だろ」


 レンの言う通り、都市部の中心で急に愛を叫んだら不審者扱いで警察さんのお世話になってしまう。

 最近はすぐにネットにも広がるからな。怖い怖い。


 さて、失礼ながらここまでのホイミとクドウはお遊びの前座と言っても過言ではない。僕の本命であるレンは如何なものか……。

 頼むよ……レン様。僕に有効なアドバイスを。


 僕の必死の合図に気づいた悪友はこれ見よがしにため息をこぼし、言葉を進めた。


「……ったく、わーったよ。じゃ、ここで俺の意見を言わせてもらう。

 とりあえず、まずは前提の話からだ。俺はナギの事情を知ってはいても、今の詩葉の気持ちはそれなりに汲み取れる」

「汲み取れるって?」

「今まで自分に興味がなさげだった相手に惚れさせる宣言したらすぐに自分を好きだという返事が来て、好き同士などとほざいた。

 これはあまりにも都合が良過ぎると思うし、信じられないと思う。それに急に信じろと言われても抵抗あるだろ」


 確かにそれはちょっと思うかもしれない。

 客観的に見たらこの状況は凄く出来すぎてる感があるし、順序よく運んでいるから怪しい気もしなくもない。


 それに自分が長らく信じている事(僕が雫に気がある)の筋の通らない真反対の意味合いの事を言われれば抵抗したくもなるはずだ。


「だから勘違いしてる詩葉の考えを一概には否定出来ない。まぁ、状況が色々ぐちゃぐちゃになってるが。俺から言えるのは一つ。時間が解決してくれる、って話だ」

「時間が?」


 前提の話がすごく納得いくものだから凄い答えが聞けると思ったが……時間が解決してくれる?

 なんて期待外れの答えなんだ。誰でも思いつく答えではなかろうか。


「はぁ……レンに期待した僕がバカだったのか」

「勝手に相談をし始めたヤツがその態度なのはムカつくが……まぁ聞け、ナギよ」


 さっきの答えで僕からの評価が地に落ち、自称恋愛マスターへと格下げしたレンに僕が憐れみの目を向けていると、彼はなんとも落ち着いたように言葉を続けた。


「お前は何か焦ってないか? なぜそんなに状況を解消しようと急ぐ」

「いやだって……こんなの変じゃない?」

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