陰キャとバカにされている俺だが実は有名バンドのボーカルだった

赤狐

第1話

 俺の名前は若月秋。特別な優劣のない平凡な高校2年生だ。好きな物はラノベやアニメ。打ち明ける友達もいないし、友達がいても共通の話題では絶対に出ない。


学校では、キモオタと言われバカにされている。

 そんな、俺だが本当の正体は有名4人組バンド「ブルー」のメンバーの1人だ。俺はボーカルを担当している。CDの売上は毎回ランキング1位を取るほどの実力派バンドだ。学校で俺の正体を知っている人はいない。


 ベットから立ち上がり、畳んである制服に着替えた。ベッドを綺麗にしたあと、パジャマを洗濯機に入れ朝ごはんの準備をした。冷蔵庫の中身を見たら空っぽだった。机に奇跡的に置いてあったパンを焼いて食べることにした。

朝ごはんを食べならがニュースを見るのが俺の日課だ。ゆっくりとパンを食べていると時刻はもうそろ、登校時間になろうとしていた。久しぶりの学校に憂鬱感を感じるがその反面、楽しみではある。食器を洗面器に入れたあと、学校に向かった。


8時10分頃になると生徒がぞろぞろと歩いてきた。その光景を見たあとはスマホをポケットから取り出しTwitterのトレンドなどを見漁った。


 数分間、歩き現在時刻は8時25分。あれこれしているうちに学校に到着した。自分の下駄箱を見つけ靴を履き替えた。


 久しぶりの教室に着くと数人は反応をしてくれていたがそれ以外の人は反応も見向きもしなかった。俺は教室での立ち位置を気にしていない方だが歓迎がなしなのは少し寂しい。近くの人に自分の席を聞くと窓際の席らしい。その場を去った後は何故か視線を感じた。

 自分の席を確認することができたので俺は自分の席に腰を下ろした。すると、後ろから聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「久しぶりだね!秋!」


 俺に声をかけたのは幼馴染の間宮胡桃。子供の時から親同士仲が良く遊んでいた覚えがある。もちろん、

正体は知らない。バレそうになったことが1度あるがそれ以降は気をつけている。


「おはよ。久しぶりだな。胡桃とは夏休み前以来だったか?」


「そうだね!今日からまた、よろしくね!」


元気に返事した胡桃を見て変わった所はないと安心した。学校生活はどうだろう?気になった俺は聞いてみよう。


「何か変わったことはないか?」


「いつも通りだよ!ところで秋くん。何か忘れてはないかね?」


「え?」


急にそんなことを言われた俺は腑抜けた声を出してしまった。胡桃は俺の声を聞いてふふっと笑っていた。


「お土産買ってきたでしょうね?」


「あ!ごめん。買ってきてない…」


「なんだよ〜楽しみにしてたのにぃー」


 胡桃と学校には旅行に行ってくると伝えていた。お土産を期待させてすまないと心で謝った。

 それに、いきなり聞かれた俺は一瞬、狼狽えてしまった。どうにか誤魔化せることは出来たが怪しかったか?

 胡桃と久しぶりに話していると同じ教室の男子からある話題が聞こえてきた。


「ブルーの新曲聞いたか?!」


「聞いたぜ!めっちゃかっこいいよな!」


 坊主頭の2人組が興奮して盛り上がっていた。周りの違うグループの人からも度々、「ブルー」の話が出てきた。「ブルー」は有名だと改めて実感できた。


「ブルー」は、若い年齢層を狙ったバンドだ。もちろん大人にも有名だが人気度は若い人がいちばん多い。


 教室の端っこの集団からとある話題が聞こえてきた。その集団はスクールカーストの頂点の陽キャ集団だった。その話題とは「ブルー」のことだった。

 スクールカーストの頂点に立っている女子の中に1人だけ「ブルー」の大ファンがいた。興奮して何かを話していた。俺は耳をすまして聞いていた。


「見て!ブルーのグッズ全部買っちゃった!」


 そんな会話が聞こえると俺も反応せざる負えない。ふと、陽キャ集団の方に目をやると、最悪なタイミングで顔を見合わせてしまい、気づかれると思ったがそうでもなかった。小声だが、何か言っているのを微かに聞こえた。


「うわ、今あの陰キャと目が合った。最悪だわ〜」

「かわいそ〜。目が腐っちゃうよ」

「もしかして、狙ってんじゃない?!」

「うわぁ〜。気持ちわる〜」


 やはり気づかれていたらしく、そんな会話が聞こえた。普段の俺の格好は長い髪に眼鏡。いかにも、陰キャのような格好だ。それとは反対にバンドの姿は眼鏡を外し、髪を上げて結んでいる。

 普段の俺とはだいぶギャップがあるらしくバンドメンバーからも気づかれないことが多々ある。



 俺の悪口を笑いながらひそひそと話している陽キャ女子の集団の奥には一緒のグループに入っているであろう陽キャ男子が鋭い眼光をこちらに向けてきて、俺は咄嗟に目を逸らした。


 ──そんな中にこちらをじっと見てくる女子がいた。その女子は目を細め何かを集中して見ていた。それが俺だと気づいた瞬間、背中に冷や汗を感じどこか見るふりをした。


 陽キャに関わるとろくな事がない。

 そんなことを考えていると胡桃が肩を叩いてきた。


「ね!秋、ブルーの新曲聞いた?!」


「まだ、聞いてないよ」


「え!まだなの?!いい曲だよね〜!」


「そうなのか?」


「うん!秋も気に入ると思うから早く聞いてね!いい曲だから!」


「お、おう」


 俺は胡桃の勢いにちょっと押された。胡桃が言っている新曲とは長期休みしていた時に作った曲のことだ。この曲の作詞作曲は俺が担当した曲だから、真正面でいい曲と言われるのは恥ずかしい感じがする。

しかし、ここまで有名なバンドだからこそ問題も何かと多い。メンバー宛にファンレターや、差し入れなどが来る、他に意味のわからないものが送られてくる。

 バレンタインやクリスマスには、何が入っているのか分からない手作りチョコがいっぱい届いてくる。もちろん、嬉しいことだがやめてほしいのが正直な気持ちだ。


 胡桃との会話をしていると、学校の古臭いスピーカーから予鈴のチャイムがなり、立っていたクラスメイトが次々と、席に座った。そろそろ、先生が来る頃だろう。周りが静かになった。そんな中、陽キャ集団はまだ、うるさかった。


 予鈴がなり終わった数分後、扉が開かれ先生がやってきた。そこからは先生の話と今日の予定について話があった。

 朝のST を済ましてから、今日の1時間目の授業が始まった。休んでいた授業の分は、胡桃にノートを見させてもらい写した。


 新曲づくりの休みの日にはある程度、勉強をしたつもりだったが、授業内容はとても難しい。


 俺の通っている桐生学院は東京にある。一応、進学校で授業のペースもそれなりに早く、毎年9割の人が進学している。もちろん、バンド活動で忙しく授業に追いついていくのに精一杯だ。


 そんな、忙しい授業が終わり今は、昼休憩。

 久しぶりの、学校でのご飯に俺はワクワクを隠しきれない。一緒に食べる人がいないから胡桃を誘おう。


「胡桃。一緒にご飯食べよ」


「ごめん。今日友達と食べる約束したんだ。また、明日誘ってよ」


 そう言うと、彼女は急いでその友達のところに向かった。


 俺は1人寂しくコンビニで買った弁当を持って屋上に向かった。屋上には4つベンチがありいつもは奥のベンチに座って食べるのが俺の日課だ。今日は1人で食べるか。

 屋上の扉を開くと、そこには1人の女子がいた。見覚えがあると思ったらあの時、目が合った人だった。

 その女子を避けるようにいつものベンチとは違う遠くのベンチに座った。

 やはり、こちらを見ている。気にせず、ご飯を食べ始めた数分が経ったあとも、まだこちらを見ていた。

 俺は、我慢の限界で声をかけてしまった。


「なんですか?用があるなら言ってください」


 そう聞くと彼女は早足でこちらに駆け寄ってきて隣に座った。


 そして──


 彼女はいきなり手を伸ばし俺の前髪をあげた。


「やっぱり......」


 そう言って微笑んだ。


「あなた、ブルーのボーカルの獅子王天馬でしょ?」


 俺は一瞬何を言っているの分からなかったがふと、その言葉に意味が頭に浸透してきた。

 な、なぜバレた...?!バレるようなことはやってないし言ってもない。ここは、上手く誤魔化さないとやばいぞ。


「な、なんのことかな。人違いだよ……」


「人違いではありません。あなたが獅子王天馬ですよね?」


 最初はとぼけてこの場をやり過ごそうと思ったが以外にも圧が強く彼女の圧に俺は負けて本当の事を言ってしまった…女子の押しにはめっぽう弱い方だと自覚している。


「やっぱり!そうだと思ったんですよね!髪の質感とか似てるしなんで誰も気づかないのかって不思議に思ってますよ」


 何だこの女は...一体、俺のどこまでを知ってるんだ


「…いや普通は気づかないよ」


 冷静にそう答えた。


「そうなんですかね」


 彼女は何故か不思議な顔をして、なんで分かんないんだろうと言う顔をしていた。

 すると、何かを思いついたかのような顔をしてこちらを見てきた。


「あ、そうだ!自己紹介まだですよね。小鳥遊天音です!」


差し出された手に握手をするような形で握った。


「若月秋だ。よろしく」


「よろしくお願いします!天馬さん!」


「その名前で呼ぶな!」


「はい。秋さん!」


 これが小鳥遊天音との出会いだった。



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