未来人

@vantan6

未来人

時は西暦二〇六四年。世界の情勢は、IT化がさらに進み、ネットを通じて人と人との関わりがさらに濃くなっていた。しかし、その分IT技術を用いた犯罪などが増加しており、世界的に対策が行われていた。

 その世界に一人、ある青年がいた。彼の名前は井上洋助、十八歳、ごく普通の高校生である。彼は二〇〇年後の未来から来た正真正銘の未来人である。彼がいた二〇〇年後の未来は、海中都市やドローン住居などの未来都市化が進んでいた。また、宇宙では、月面コロニーが完成し、人が住み始めるなど、惑星移住が可能になるほど技術は進歩していた。その中で、最新技術を用いて作られたのがタイムマシンであり、洋助はそれに乗り現代にやって来た。目的としては、任務やミッションのような堅苦しいものはなく、タイムマシンの試運転と、あとは観光程度であった。

 現代に着き、洋助は初めに、全国の色んなところを見て回った。やはり、過去ということもあり、洋助がいた時代ほど技術は発達しておらず、文明も劣っていたが、そこまで不自由無く暮らすことができたため、洋助は満足していた。しかし、未来のことを教えることはできない決まりになっていたため、他の人と仲良くすることはできなかった。それでも、人思いで優しい性格を持っていた洋介は、今こうして自分が生きているのは、過去の人たちのおかげであったと思い、決まりを破らない範囲で人助けを始める。

 洋介の人助けは、容易であった。なぜなら、これから起こることが全て分かっていたからである。例えば、誰かが階段を踏み外して怪我をする、強盗や殺人などの犯罪、それから地震や台風などの自然災害などと、小さなことから大きなことまで把握していた。未来人ならではの特権であった。しかし、決まりにもあるように、これから起こることを教えることはできなかったので、洋介は誰の手も借りることはできず、自分一人で誰かを助けるしかなかった。なので、洋介はすごく悩み、どうすればみんなを助けることができるのか? 誰かを助けているとき、他の人を助けることはできないのか? などと考えた。洋介は、現代では仲間を作ることはできないため、一度未来に帰り、仲間を連れて戻ってくるなど考えたが、タイムマシンの技術はまだできたばかりであり、何度も往復することはできなかった。解決策が出ないままただただ時間だけが過ぎていき、洋介はその間ずっと悩み続けた。人助けのほうは、やらないよりはやり続けて、一人でも多くの人を助けられたらいいなと思い、続けていた。

 しばらくそんな日々が続いた。洋介は未だ解決策にたどり着くことなく、人助けを続けていた。そんな中、あるとき洋介は人助けに失敗した。はじめは何が起きているのか分からず混乱していた。冷静になり、落ち着いて考えてみると、これは自分のせいであると洋介は理解した。これまで自分がしてきた行いは、その人にとってはごく一部の小さな出来事であったかもしれない。しかし、未来を知っている自分が干渉したことにより、その時を境にその人の未来が変わってしまった。もしかしたら、その出来事がその人にとって人生のターニングポイントであったかもしれない。洋介は、今まで自分がしてきた人助けは、果たしてその人のためになったのか? 自分の行いは善であったのか? それとも悪であったのか? と悩んだ。洋介はまたもや壁にぶち当たり、どうすればいいか分からなくなり、自暴自棄になった。未来のことを知っているのに、それを活かすことができず、むしろ、その人の未来を奪ってしまったと、何もできない自分に嫌気がさしていた。そして洋介は、自分がこのままこの時代にいてはいけないと思い、未来に帰ることにした。

 未来に戻ると、そこには懐かしい未来都市の風景があった。しかし、洋介は何か違和感を感じた。それはすぐにはっきりした。以前と街並みが大きく変わっていたのである。洋介は何が起きているのか分からず、とりあえず家に帰ることにした。建物の配置なども変わっていたため、GPSを頼りに行ってみると、そこには別の建物が建っていた。近くにいた人に自分のことを聞いてみても、知っている人は誰一人としていなかった。なぜなら、洋介が過去に行った人助けにより未来が大きく変わってしまったからである。人助けにより助けた人の未来が少しだけ変わったとしても、何人も助けることで小さな変化が積み重なりこのような結果になってしまった。洋介の人助けは、その人にとって善であるか、悪であるかはその人にしか分からない。洋介はこのことを理解したとき、今の自分はどの時代にも存在していないということを自覚し、消えてしまった。

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