第44話 心神
〔ブランクラフト〕
この現代戦の主役たる人型航空機はそのおおよそのサイズによって以下のように分類されている。全ての機種が変形機構を有するわけではないが、有する場合の巡航形態での全長も記す。
【小型】人型:全高8m / 巡航:全長10m
【中型】人型:全高12m / 巡航:全長14m
【大型】人型:全高16m / 巡航:全長18m
サイズが大きくなるほどパワーは増す。
パワーが増せば様々な恩恵が得られる。
より重い武器、より電力消費の激しい武器──より強力な武器を装備できるようになる。
スピードも上昇する……が、それは時間をかけて充分に加速した場合の話で、瞬発的な動きでは重量増加によるスピード低下のほうが影響力が大きく、鈍重になる。
また敵の大きさを一定とした場合、自身が大きくなるほど己の攻撃は当てづらくなり、敵は攻撃を当てやすくなる。
などなど。
サイズは大きいことにも小さいことにも長所と短所の両方があり〝大きいほうが強い〟と一概には言えない……ただ。
中型の〘
大型の〘イーニー〙……月、ルナリア帝国軍の主力機。
開戦から世界各地の戦場で最も多く激突しており、そして後者が前者を圧倒している両者の違いは、サイズ差によるものより別の要因のほうが大きかった。それは──
核融合炉の有無。
核融合発電では現時点ではこれ以上ないほど高出力を得られる。また発電量も多く、無尽蔵でこそないがブランクラフトの一度の出撃では使いきれないほどあり、電池切れの心配もない。
制御コンピューター、センサー、推進器のプラズマジェットエンジン、四肢の人工筋肉、レーザーなどの電動武器……どれにも電気が要る。そんなブランクラフトに理想的な動力。
ただ1つ欠点があるとすれば、核融合炉は小さく作るのが難しい機械であり、現時点での最小モデルでさえ、小型~中型のブランクラフトには大きすぎて内蔵できないということ……そう。
小型の心神には核融合炉がなく。
大型のイーニーにはそれがある。
心神の動力はバッテリー。出力は低く、蓄電量も少ない。
そのため電力を消費する電動武器より、消費しない実弾火器のような武器を好む。武器にまで電気を食われると戦闘中に尽きて行動不能になる恐れがあるからだ。
対して──
これらの懸念を全て克服するために世界で初めて核融合炉を搭載したブランクラフトこそがイーニーなのであった。
アートレス社会の地球の技術力では作れなかったそれを、ジーンリッチ社会の月の技術者たちが開発した。
依然、心神より大きいことによる不利はある。
だが、それが問題にならぬほど有利さが勝る。
これでは勝てないと、地球連邦は月から亡命した天才科学者タケウチ・サカキに、イーニーと同じく核融合炉を搭載した大型ブランクラフトの開発を要請した。
ただ、それは。
今この瞬間に心神で、帝国軍に奪取されたスワロウの試作機と戦っている連邦軍の宇宙戦艦アクベンス飛行科のパイロットたちの安全には、なんら寄与しない話だった。
¶
「キェェェェ‼」
バババッ──イソガミ男爵の操縦する黒い機体スワロウが、人型形態の両足で芝生のついた土をまきあげながら広場を疾駆しながら、その手の
ズガァン‼
その弾丸は、炎を照りかえして赤く染まった本来は白い心神1機の左腕を、肘からもいだ。だが武器を持った右腕も、走るための両脚も、操縦しているパイロットも無事。
「チッ! 操縦席を外したでおじゃるか‼」
ここは真珠湾の基地周辺の町に点在する、住民の憩いの場である広場のひとつ。だが今そこに生身の人はおらず、帝国軍のスワロウ1機と、連邦軍の心神9機が交戦していた。
建物と道路がひしめく町はブランクラフトが立ちまわるには狭すぎるが、ここなら充分。周りの建物は炎上しているが、ここは可燃物は芝生のみで火の手は薄く、視界は開けていた。
煙の立ちこめる夜空の下、紅蓮の炎に囲まれた空間で、敵味方10機が駆けずりまわり、機を見て
バババッ‼
「ホワーッ‼」
次に撃ったのは心神の内1機だった。その弾はよけられたが、奇声を上げさせるくらいには
「こやつら!」
もし、その建物に取りのこされた、まだ生きている人がいたとしたら、今の攻撃によって死んでいるだろう。
こんな所で発砲すれば、地面に撃たない限りは流れ弾が周囲に飛んでいく。逃げおくれている人、タケウチ隊に立ちむかっている人、まだ近くにいる人々を殺傷する可能性がある。
敵である
それはいい。
自分たち帝国軍を放置していれば、より多くの人が死ぬのだ。自国民の犠牲を覚悟で攻撃してくるのも理解はできる。だが──
バババッ‼
バババッ‼
バババッ‼
「
心神たちの波状攻撃をかわす男爵の頬を、汗が伝った。
ブランクラフト同士の戦闘としては至近距離で、心神9機は
なのに誰も躊躇していない。
戦力外の生身の自国民はともかく、戦力である僚機まで諸共に撃つとは。敵にとって、そこまでして倒す価値が自分にあるのは確かだが──
(いや)
敵の動きを観察し、
9人とも互いの位置を把握して、僚機に当たらない弾道で射撃している。味方が多いほど息を合わせるのは難しく、かえって邪魔になりかねないというのに。
ひとりひとりの腕は男爵より劣る。
だがその連携の練度は見事と──
ズガァン‼
「あひぃッ⁉」
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