2枚目気取りのメアリー・スー

@ko_gei

アニメ『ナイトナンバーアクセス』


『あわわわ!私達の活躍が入ったディスク!?すごいのでしょうか!』

『当たり前でしょ!?ジャンヌ様と私の活躍、そしてあのクソ男を始末するお話を描いたいわば神作!』

『もう時間がないですぅ!アニメ、ナイトナンバーアクセス!Blu-lay&DVD絶賛発売中ですっ!』

 ナイトナンバーアクセス、とは。

 最近のアニメでは、昔のアニメみたいな美少女アニメを作ろうと言う話が起きている。いわばアニメのルネッサンスだ。

 そんなアニメのルネッサンス期に起きた中で、このアニメはあろうことか富野由悠季の作品を美少女アニメ化しようとしたのである。ただでさえイデオンみたいな話を作ろうとした庵野のエヴァンゲリオンでさえ、売上は恐ろしく良けれど衝撃度はイデオンに届かずだったのに、あんな奴のアニメの美少女系なんて、それこそ膣を陳列するだけの暴挙に過ぎない。

 そもそもが、今の声優は人形でしかない。それがリアルを求めるロボアニメに合うか?無茶がある。

 ただ、それでも面白いと思う奴は面白いと言うわけで、仲間内で評論する時以外は基本は上っ面で褒めてる。

 しかし、それが現実に来て、おまけにクソだと思う日が来るとは思わなかった。



   ◇



 事の初めは、俺が自転車に乗っている時だった。

 目の前で黒いホールが出来たかと思えば、何かが高速で地面に当たって、地が砕ける。

「……あっ!?」

 自転車ごと吹っ飛ばされて、近くのビルにあたる。激しい土煙の中で満身創痍のまま伏せている。

 だが、かなり霞んでいる状態とは言え音が聞こえる。ビーム音、重厚な足音、それに風を切る音。

「どうなってんだこれ……!」

 身体の痛みはそのままだが立ち上がって、風の源に入る。目に入らないように片腕で両眼を隠して手探りに歩くと、触り慣れない金属が手に触れる。

「……ん」

 で、次は上に風切り。そのまま土砂は左右に散って、腕を退かして見てみたら、なんだが人型の腕がある。

 そして上には、見覚えのある銀色のロボットの顔。上空に至っては、金色の機体と白色の機体が見え隠れする。

 ナイトナンバーアクセスのボス機体か。しかし、ここから帰ってもらわないと、他の人の命どころか自分の命すら危うい。

「手探りで……確かナイトナンバーシリーズは胸部がコクピット……あった!これだ!」

 目の前の銀色の機体は、確か脇役アーシェラ・バーンの機体だったかな。コクピットを開ければ、確かにアーシェラと思わしき人物が人形のように倒れている。

「ごめんよ兄さん……!」

 と近くのビルにアーシェラを置いて戻ってくる。そして、コクピットに乗り込んで操縦桿の確認をする。

「レバー二つにペダル二つ、ボタン数十個…アニメ通りか。起動しよう!」

 ハッチを閉めて起動すると、360°のフルスクリーン。こいつはいいや、と思って立ち上がる。その時には既に、相方と思わしき機体は倒れている。大地に立つは、敵の金色だけだ。

『アーシェラ一族の末裔もこの始末か!』

「でやああああ!」

 ナイトナンバーの標準装備である、レーザーソード(曲がらないビームサーベルみたいなもの)で後ろから斬りかかる。ただし相手はボス機体、切り払われる。

『バーン、貴様生きていたのか!』

『バーンお兄様っ!』

「はあっ!」

『!?』

 今回は切り払われないが、鍔迫り合いになってしまった。ただ相手がすごく踏み込んでくる。

『答えてみろバーン!貴様がファーレン王国を没落させたのか!貴様が、貴様が私の故郷をぉぉぉぉぉーッ!』

「何のことだ、アルカナ・ヴェール・ナッシュバード!』

 ボスの名前を口にする。そしてこっちも負けじと踏み込む。

『……ん!?貴様、誰なんだ!』

『バーンお兄様では無い声……!?』

「それがどうした!?このぉ!」

 すかさずレーザーソードをもう一本取り出して、相手に突き出す。それを感知されて早めにバックされるが、それでも左腰の装甲の一部は溶けている。

『貴様!アーシェラ・バーンでは無いな!?一体誰なんだ、貴様は!』

「てりゃあ!」

『くっ!』

 二撃めで、相手の腕を斬り落とす。相手の、パニックに近い声が聞こえる。

『さてはバーン、人間界に落ち変異し、騎士道も捨てたか外道め!』

「騎士道を捨てた?違うね、元からそんなもの持っちゃいないんだ!」

 二刀流を思い切り振って、相手を攻撃する。レーザーを掠め続ければ、相手も動きが鈍ってくる。

『貴様、貴様ぁ……!』

「逃げるなら今のうちだぜ、ナッシュバード!」

『くっ……!』

 相手の機体は、ここまで来たら不味いと判断したか、左右もわからぬ世界でも、日を追うように逃げていった。



   ◇



 俺は銀色のナイトナンバーから降りた。向かい側には、主人公のアーシェラ・ジャンヌの姿が見える。

 緑色のロングで、蒼い目。真っ直ぐ俺を見ている。

「……」

「……」

 お互い、にらめっこを続けている。

「……お兄様は、何処」

「アーシェラ・バーンか」

「お兄様の名前を気安く呼ぶな!」

 ファーレンの拳銃が俺を見つめる。短気なお嬢さんにはお似合いの、乱暴な見た目だ。その時、後ろから声がする。

「ジャンヌ!ジャンヌ!」

「……お兄様っ!」

 男が1人寄ってきて、兄妹は抱き合う。少し砕けてしまったこの街と、空想だったはずの機械“ナイトナンバー”。そして俺の世界に元からあった夕暮れは、その日の終わりとは裏腹に、何か始まりを告げようとしていた。

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