第4話 億の脅威

「カエル顔の、トカゲサイズの生物を……あたしも見たな」

「なんだ、幻覚じゃなかったのか」


「おい、貴重な情報を思い込みで断捨離すんじゃねえよ」


「冗談だ。ただなあ、俺はまだ見ていないんだよ……、

 見てねえもんを信じることはできねえなあ」


「じゃあ、幽霊も信じないタイプか?」

「否定はしねえ。いると信じるわけでもねえが。ただ、いてもいいだろ、とは思っているが」


 話が脱線した。事故現場で言うことではないかもしれないが。


「脱線事故以外にも、連続して事故が多発しているようだけど……」


「乗用車のタイヤのパンクにレストランで出された料理に異物混入、スーパーの生野菜の腐食や各家庭のコンセントのショートからの火災報告が上がっている……、まあ異常だな。これまで、ここまで連続することはなかった」


 一つ一つの事故はよく起こることだ。パトカーや救急車のサイレンが鳴らなかった日はないくらい、どこかで必ずなにかが起きている……、それが一気にまとまってやってきたみたいなものだろうか……。別に、これまでが平和だったわけでもないのに。


「繋がっていると思うのか?」

「まあな。トカゲサイズのあの生物も、気になる」


「その……、トカゲ? が、事件を起こし、回っていると? それにしては数が多いな」

「一匹じゃねえんじゃねえの?」


 一匹いれば二十匹はいるのでは?


 たとえば巣穴から出てきた蟻の大群の一匹一匹が事件を起こしていたのだとすれば、事件の多さも納得できる。規模が小さいのも、それが彼らにとって限界の大きさの規模だから。

 そして蟻で例えたが、単体で見れば貧弱でも、集まれば強さを発揮するタイプの生物は、まとまってこそ真価が発揮される。


「……昨日、巨大怪獣が出たよな……」

「ああ。ご存じの通り、パージミックスが撃退してくれたはずだが――」


「倒し切れていなかったら?」


 怪獣は、弱点である心臓の位置を、再生するごとに移動させてしまう……、つまり一撃必殺を狙わない限り、完全に仕留めることはできないのだ。

 昨日、巨大怪獣をパージミックスが撃退したと言ったが……、本当に? 一撃必殺で、心臓を特定し、潰すことができたのか? 

 急に巨大怪獣が現れたことで、シンドロームズの協力もないまま、レッドとピンクのみで出撃したはずだ……、不足を踏まえて、完璧か? 

 満足な情報もなくぶっつけ本番で未知の敵を木っ端微塵に吹っ飛ばしただけで、じゃあこれでお終いだと自信を持って言えるのか?


 残りカスに心臓が宿っていた場合、再生をした怪獣はまだ地球にいるはずだ。

 大きさこそ巨大ではないだけで、今も身の回りに潜んでいるかもしれないのに――。


 カエル顔のトカゲサイズの生物……間違いない。


 あれは、怪獣だ。

 パージミックスが仕留め損なった、散った怪獣の一体なのでは!?


「ちっ……テキトーな仕事をしやがって!」


 みにいが悪態をつく。

 怪獣だと分かれば事故の原因も予想がつく。


「同時多発の事故と多く寄せられた目撃証言を考えれば、手の平サイズの怪獣は一匹だけじゃない。千や万の話でもねえな、億はいるだろ……そう考えても損はねえよ」


「その、怪獣が、事故を引き起こしていると?」


「ああ、食品腐食やコンセントのショートによる火災、タイヤのパンクなんかは単体でもできるだろ。心臓を持っていなければ再生できるんだから、死ぬつもりで特攻しても事故は引き起こせる。脱線事故だってそうだ」


「できるか? 手の平サイズなんだろう? 轢き殺されて終わりだろう」


「手の平サイズだろうと、数十匹が固まって丸まれば、車輪が乗り上がるための異物にはなるだろ」


 だが、耐えられるほどの強度はない。そして、それでいいのだ。轢き殺されても奴らはすぐに再生する。その後で、その場から離れれば、脱線させた原因は現場に残らない。


「……納得はした。だが、奴らの目的は、なんだ……?」


「そんなの決まってる。一体いつから、あいつらが地球を攻めてきてると思ってんだ、ずっと、最初からあいつらは宣言していたはずだろ――」


 侵略行為である、と。


 そして今回のこれも例外ではない。やり方こそこれまでになかった、巨大化した上で都市を破壊し、力で上から押し潰すようなパワープレイではなく、じわじわと一本ずつ支柱を引き抜き、人間という城を倒壊させるような策――。


 怪獣らしくない。

 裏に人間がいるのか、それとも。


 怪獣もまた、学んでいるのか。


「怪獣は体をでかくして暴れることしかできない脳みそ筋肉のバカというのも、人間側の偏見だったってわけか?」


 賢い怪獣だって、いたっていいだろう。

 大きな人間がいるように、小さな人間だっているのだから。


「ふむ……だとしたらどうする。パージミックスに伝えるか?」


「動くかよ、あいつらは最後の最後、良いところしか持っていかねえ。あたしらシンドロームズで『あとはパージミックスの一撃で倒せますよ』って状況を整えてやらないと重い腰さえ上げねえんだからな。言い合いするだけ無駄だ。……とにかく、怪獣を見つけ出し、追い詰め、巨大化させる。そして今度こそ、パージミックスに責任を持って最後まで働かせるしかねえな」


「具体的な方法は?」

「これから考える。とりあえず人の目は多いんだ、怪獣が隠れていそうな場所を探して発見された、って体験を敵に植え付けるしかねえな」


 隠れても見つかる、という状況を繰り返せば、怪獣も焦って次のステップに移行するはず。

 とにかく今の状況だと怪獣相手にできることはほとんどないのだ、直接、叩けないのがもどかしいが、ストレスを溜めることでミスを誘う、がまん合戦を仕掛けるしかない。


「分かった、俺から職員に伝えておこう。……君の得意分野じゃないか」


「……なにが」


「その小さな体を活かす時がきたってことさ、ミニマムヒーロー」

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