第19話

 私が王宮へと出勤すると、昨日の祝賀会の参加者は軒並みぐったりとしていた。どうやら飲み過ぎた人が続出したようだ。


私は食事にもあり付けなかったというのに。


解せぬ。


カルサル師団長は皆の様子を見て、今日はモーラ医務官の所へ行くようにと指示が出た。



 医務室ではやはり頭痛薬を求めて騎士達が溢れている。モーラ医務官はやれやれと言いながら薬を渡しているわ。


「おはよう御座います。モーラ医務官、リア・ノーツ只今参りました」


助かったよと言わんばかりにモーラ医務官は迎え入れてくれる。私は早速治療を始めると騎士達からは女神様だーって声は聞こえてくるけど無視。どんどん治療を進めて気付けばお昼が過ぎてしまったわ。


休憩にしよう、とモーラ医務官と一緒に食堂へ向かった。やはり食堂は昼食の時間を過ぎたせいか人はまばらに座っており、私達同様に食事が遅くなった人や休憩に来た人達が来ているようだ。


「あ、リアちゃん!隣いいかな?」


話しかけてきたのはアベル・サウラン副団長。


「お久しぶりですサウラン副団長。今日は遅いお昼ですね」


「そうなんだ。昨日の祝賀会でみんな飲み過ぎて使えないから仕事の開始時間を遅らせたせいでこの通りさ。それにしてもリアちゃん、スタンピードでの活躍は凄かったね。後方で支援してくれるリアちゃんに勇気付けられたし、僕達とっても助かったよ」


「有難う御座います。でも、まだまだ魔法は改良の余地がありすぎて大変です。騎士の方々は水も滴るいい男になってしまいましたし」


サウラン副団長はニコニコしながら私の手を取ろうとしてモーラ医務官に叱られる。


「コラッ、アベル!リア君に触るんじゃない。穢れるではないか」


「えー。モーラ医務官、穢れるってなんだよー。俺、魔物じゃないよ。ね?リアちゃん」


「まぁ、魔物では無いですね」


「リアちゃん。俺とデートしてよ。まだ婚約者もいないんでしょ?」


わんこの尻尾がブンブンと振るような錯覚。サウラン副団長って前世わんこではないかしら。


「お誘いありがとう御座います。でも、ごめんなさい。生憎と休みは当分の間予定が詰まっていて」


耳と尻尾が見えるわ!ショボンとしている!でも断れない物以外は断りたい。彼と夫婦になる想像をするときっと絵に描いたような家庭になるのかなぁ。

まさかこんな感じで誰にでも気安く声を掛けているのかも知れない。幸せな家庭が欲しい!と意気込んではいるけれど、きっと私は前世の記憶と共に恋する心が擦り切れて臆病になっているのだと自分でも思う。


最近は特に見目麗しい方々を見ても素敵、カッコいいと思うけれど、それ以上どうこうしようという想いは不思議と全く起きないの。


「じゃあ、また今度デートしてね!」


「分かりました。機会があれば」


するとサウラン副団長は機嫌が戻ったようでニコニコで騎士団棟に戻って行った。モーラ医務官はやれやれと言いながら一緒に食事を摂り、午後の診察に取り掛かった。


 モーラ医務官的にはサウラン副団長は不合格らしい。剣の実力は折り紙付きだが、なんせあの通りに誰にでも気さくに声を掛けているんだとか。この間は王宮の侍女に声を掛けていたらしい。


 父親的立場からはやはり不合格なのかもしれない。


 翌日は次の日からの休みのための書類整理。休み明けに書類の山が出来ていないと願いたい。


「リア君、明後日は楽しみですね。リア君も何を見たいか考えておいて下さい」


「分かりました」


カルサル師団長の頭の中はそれしか無いですよね。分かっています。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る