第17話

 翌日、お兄様と王宮へ出勤するとカルサル師団長が何だか不機嫌だ。どうやら帰る時に顔を出してから帰って欲しかったようだ。モーラ医務官から帰りなさいと言われたからといって・・・とブツブツ文句を言われた。


 私は機嫌を直して貰おうとポケットからそっと出してカルサル師団長の手を取り、包む様にそれを渡す。


「カルサル師団長、お土産です」


カルサル師団長はなんだ?と渡された物を見て目を見開き大興奮となった。


「こ、これはドラゴンの爪とドラゴンハートと呼ばれる魔石じゃないですか!?リア君。あの場にドラゴンが居たのですか?」


「ええ。多分居たと思います。魔石に込めた浄化魔法で戦わずして魔石となったようですよ?帰る間際にこっそり拾いに行って、怒られるかとドキドキしたんですからね」


浄化の魔法なら魔石しか残らないのだが、ちょうど術範囲の外に足が出ていたのだと思う。片脚は綺麗に残っていたから。でも、さすがに片脚を担いではバレてしまうので泣く泣く爪を持って帰ってきたのだ。


自分用には小さなオレンジの魔石。後で加工して指輪にして貰おうとポケットに入れてきた。


 スタンピード後の魔物は貴重な素材を沢山確保出来る場であるため、貴重な物の持ち帰りは叱られるのだ。叱られるだけだが。つまり、私の小さな魔石はOKでカルサル師団長のお土産はNG。王宮魔導師でも貴重な素材を手に入れる事は難しい場合も多いのだとか。


ドラゴンマニアのカルサル師団長はこれで数日は機嫌が良くなるだろう。


「リア君、私は非常に感動してます!!」


とっても上機嫌だ。涙を流さんばかりに感動してくれている様子。上機嫌で書類もやっつけてくれたので私はのんびりとお茶を飲む事が出来た。


「そういえば、リア君。ウェスター・ラストールを知っていますか?」


カルサル師団長が口を開いたかと思うと、ラストール!びっくりしてお茶を吹いてしまったわ。


「カルサル師団長、突然どうしたのですか?ラストール公爵は知っていますが、ラストール家はマリーナ様しか居なかったはずです」


「ああ、そうですね。マリーナは2年前に君に喧嘩を売って修道院送りにされた。そしてラストール家の跡継ぎとして従兄弟のウェスターが養子となったんですよ。そのウェスター君が君に面会を求めて来ていましたよ」


「カルサル師団長、私はウェスター・ラストール様に興味の欠片も無いので面会は拒否します」


絶対嫌。何、一族揃って私に嫌がらせしてるとしか思えないわ。関わりたく無いの。カルサル師団長はそれ以上は何も言わなかったし、聞こうともしなかった。




 祝賀会当日、私やモーラ医務官、討伐に出た騎士達は陛下から有難きお言葉を頂き、立食ながらもパーティーが始まった。パーティーといえば礼服にドレス!私は渋々朝早くから起きた。メイジーは髪を結い上げてドレスの準備までしてくれたおかげで可愛く仕上げてくれたわ。


殿下はどうやら約束を守ってくれたらしく、お肉が沢山積まれてあった。私が群がる騎士達を掻き分けて肉にありつこうと手を伸ばした時、その手はしっかりと繋がれてしまった。肉!私の肉!誰だ、邪魔した奴!掴まれた手から視線を上げるとそこにはファルセットお兄様が微笑んでいる。


「お兄様・・・」


「なんだい?リア。まずは兄とダンスを踊ってくれるよね?」 


「お兄様、私、に、にく「陛下に挨拶を済ませて、ファーストダンスを踊ってからにしようね」」


お兄様は有無は言わさないぞ、と微笑まれる。そうよね。未成年とはいえ、魔導師とはいえ、侯爵令嬢ではあるからね。お兄様に連行され陛下の元へ挨拶する。


舞踏会とは違い、祝賀会では爵位を持たない者もいるため陛下への挨拶はしなくても良いのだけれど、どうやら連れて来る様にとお達しがあったらしい。


「ファルセット・ノーツ、及びリア・ノーツ参りました」


陛下に礼をすると陛下は上機嫌な様子で


「君が光魔法の使い手のリア侯爵令嬢だね。今回のスタンピードでの活躍、報告を受けた。息子達が構いたくなる理由は分かるな。ワシは息子達からの良い報告を待つ事にするかな。ファルセット君、ライアンの事を頼んだよ」


私とお兄様は挨拶を終え、そのままファーストダンスを踊る。やはりお兄様はダンスが上手いわ。こうしてお兄様とダンスを踊りながら見回してみると祝賀会は男の人が多い。騎士達は1名のみ同伴を許されている。今日参加している同伴者の大半は婚約者か夫人達と思われる。残念ながら私の1人行動は目立ってしまうわ。


「リア、狼達の群れに1人仔羊としているのだから誘われるダンスが終わったらすぐに僕の所に来て僕から離れないようにね」


「分かりました。お兄様」


 お兄様とのダンスが終わると待っていたかのようにライアン殿下が手を差し出す。


「姫、踊ってくれませんか」


私は殿下の手を取りダンスを始める。


「リア嬢、君と会って2年が経つけれど、益々綺麗になっていく。今日も一段と美しくて連れ去ってしまいたいよ」


「ふふっ。ライアン殿下、有難う御座います。そう言って頂けるのはライアン殿下位ですわ。ですが今日もお兄様から離れないように言われておりますの。


ほらっ、あちらに可憐な花達がライアン殿下をお待ちですわ。ライアン殿下の独占はいけませんね。ダンスを誘って頂き有難う御座いました」


曲が終わると同時にライアン殿下は令嬢達にあっという間に囲まれた。令嬢達の勢いを見て若干引いていたのは内緒。王族目当てで同伴者の家族が来る事もあるのね。


一つ勉強になったわ。


すると、後ろから声が掛かる。


「さぁ、リア君、踊りますよ」

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