第6話

 けれどその想いは無情にも打ち砕かれる。放課後になり、侍女のメイジーと帰ろうとしていると声が掛けられた。


「リア様、少しお時間宜しいかしら?」


嫌な予感をビシビシと感じてしまう。メイジーにそっと視線を送るとメイジーと目が合う。やはり私の侍女。分かってくれたみたい。


「ラストール公爵令嬢様、どうされましたか?」


私は何事も無いようにマリーナ様に答える。クラスの人々は帰る準備に忙しく、騒がしいせいか私達をあまり気にも止めていない様子。マリーナ様は周りを気にせずツカツカと私の前に歩み寄る。


「今日のお昼、ライアン殿下と食事をしたそうね?それがどういう事かお分かりなのかしら?私、ライアン殿下の王子妃筆頭候補なの。私の許可無くして殿下とご一緒するのは止めて欲しいの」


マリーナ様の話す声のせいか、雰囲気を察したのか周りはシンと静まる。


「王子妃筆頭候補者のラストール公爵令嬢様の許可をと言われますが、私は殿下から直接受けたお願いを拒否できる身分ではございませんわ」


 マリーナ様は苛立っている様子。マリーナ様の周囲から魔力がジワジワと漏れ始めている。下手に私が口を開けば漏れ出ている魔法で攻撃されかねない。さて、どうしたものかしら。私はどうしようかと考えを回らせる。


「おやおや、マリーナ嬢、魔力が漏れ出ているよ。嫉妬とは美しく無いな」


 声のした方に視線を向けると、そこには万人を魅了するような笑顔のライアン殿下と顰めっ面のお兄様がいた。メイジーが魔法ですぐにお兄様を呼んでくれたみたい。マリーナ様はライアン殿下を見るなり、笑顔でライアン殿下に歩み寄る。


「ライアン様。嫉妬だなんて。いつもリア様とは仲良くしていますし、他の候補者様の事も考えてお話していただけですわ。ね?皆様?リア様?」


マリーナ様は私やクラスメイトに向けて視線を送る。


候補者達の女の戦いに巻き込まれたく無いわ。私は無害な令嬢、勝手に絡んできたのはそっち。これ以上巻き込まないでー。


私は口から溢れそうになる言葉を飲み込み、マリーナ様に向けて作り笑いを返し、少し頷く。周りのクラスメイトも一様に口を閉し、視線を逸らしながらも頷く。きっと、クラスの皆様は私と同じ気持ちだと思うわ。


「ライアン殿下。このままお帰りになるのでしたら王宮でお茶をしましょう?いつものように私、殿下とあの中庭でまた2人きりでお話がしたいわ」


 マリーナ様ってこんな人だったのね。なんと言うか・・・。男に甘える仕草、やはり親子なのだと感心してしまうわ。マリーナ様は殿下と仲睦まじい様子を私に見せたいのね。


「マリーナ嬢、残念だけど、妃候補者達とは会う日や場所が決まっているよね。私はいつも妃候補者達とのお茶会を楽しみにしているよ。それとマリーナ嬢、リディス嬢の事を知っているのかい?


知らないのであれば公爵に聞くといい。光属性の魔法が使えるリア嬢と仲良くするようにね。リア嬢、今度ファルセットと王宮においで、お茶でもしよう」


ライアン殿下から恐ろしい言葉が聞こえた気がするわ!


「有難う御座います。殿下。兄と相談した上でお伺いさせて頂きます」


礼をすると殿下は去って行った。残った兄は私をエスコートし、私達も微妙な雰囲気のクラスを離れる。馬車に乗り込み動き始めるまで私もお兄様もメイジーも無言だった。


「メイジー、お兄様を呼んでくれて有難う。助かったわ。まさか殿下も来るとは思っていなかったけれど」


「リア、大丈夫だったかい?メイジーから蝶が飛んで来た時、間が悪く殿下も隣に居たんだ。やっぱり醜い女の戦いにリアを巻き込みたく無いな。しかも、ラストール公爵令嬢がリアに絡んでくるなんて最悪だな。何とかしておくからリアは心配しないで」


 そしてその日は帰宅後すぐに兄は父に今日の出来事を報告し、話し合っていた。因みにお兄様達がすぐ駆けつけてくれた理由はクラスが近い為である。Sクラスは基本的に上位貴族や王族が占めており、平民でも優秀な者しか入れない。


警備の観点からか特別扱いなのかは分からないがSクラスは1年生から3年生まで同じ棟の同じフロアに集まっている。AクラスからCクラスは別の棟で1年生は1階、2年生は2階、3年生は3階となっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る