戦略会議/丁歴938年10月18日

戦略会議/丁歴938年10月18日

会議用の長いテーブルの上座に俺は座っていた

対面には教団のトップである小日さんが書類をチェックしている

左を見るといわゆる議長席っていうような席に市井さんがお茶をマイペースに啜っている

右隣にはイカツイマッチョなスキンヘッドの中年男が腕を組んで座っている。たしか、雑賀信さん・・・だったかな

元傭兵とかいういかにも怖そうなみためだが、話すと意外と気さくで話しやすい・・・らしい。あんま話したこと無いから知らんけど

雑賀さんの対面には鳥越先生が眠そうにコーヒーがぶ飲みしており、そのたびにみちるにおかわりを要求している


「あれ、アタシ最後? 遅刻じゃないよね?」


最後に西口さんが入室した

言っていることとは裏腹にすこしも悪びれた感じがしない


「いえ、まだ少し時間がありますので大丈夫ですよ

少し早いですが、全員揃いましたので始めてもよろしいでしょうか」


小日さんがめくばせすると、市井さんが小さく頷いた


「かねてより計画しておりました、魔王召喚は無事成功を収め我々の計画も次の段階に進む時であると考えます

そこで、次の一手に関して話し合っていきたいと思います」


なんか、一瞬注目の的になって居心地が微妙に悪いけど、堂々としていよう

俺は魔王様だぞ! ・・・お飾りだけど


「次の段階において提案されているのは、

第一案が魔王様の御威光で信者を増やし力を蓄え、好機をひたすら待つ

第二案が瘴気を溜め込んだ火山を噴火させると同時に瘴気を大量に散布して一気に複数の都市を占拠する

第三案がジンフェンに亡命し、ジンフェンの軍勢と共に空都すくとに侵攻する

以上の3案になります。なにか意見があればお願いします」


ふむ、第一案は悠長すぎるかな? 魔王がここにいまーすって言ってるようなもんだし。あっという間に暗殺されそう

第二案は強硬策か。瘴気が少ないと最悪死んじゃうんだろ? どれだけ瘴気を確保できて、どれだけ迅速に瘴気を撒けるかがカギってことかな

第三案はジンフェンに居候して厚かましくお願いするってことか。ジンフェンがどれだけ人間に一物あるか、ってことだな

ちなみに、ジンフェンはあっちの世界で言うと樺太からロシアの東側から3分の1くらいまで、

空都すくとは日本と同じ位置だが、この世界では離島は人が住みにくいみたいで海の魔物の一部が暮らしているらしく国土には含まれていない


「第三案っていうのは、現状だと多分無理ね

ジンフェンの人たちはオピオン様が唯一の魔王で他は類似品ぐらいに思ってる人が多いから

それに、いくら人間どもがウザいからって全面戦争はリスクが高すぎるでしょうね

あんた達、碌な軍勢がいない雑魚軍団なわけだし」


ですよねー。突然行って僕と一緒に人間と全面戦争しようよって言っても頭がおかしいやつだよな


「第一案に関しても危険が高すぎるだろう」


雑賀さんが腕を組んだまま低い声を上げた


「急に信者を増やしては何かあると言っているようなものだろう

ただでさえ、公安にマークされているんだ

魔王が召喚されていると知られれば密かに消されるか特殊部隊が突入してくるの二択だろうな」


それって、苦しんで死ぬか惨たらしく死ぬかじゃん

もうコレ以上死にたくないんだけど


「では、消去法で第二案ということでよろしいでしょうか?

鳥越先生、魔王様の瘴気についての報告をお願いします」


多分、この前の健康診断で調べたんだろうな

俺の存在意義は瘴気製造機なわけだから、抽出しやすいといいんだけどな


「結論から言いますと、血液中に大量の瘴気が含まれていました

その他の体液にも含まれてはいますが血液に比べると微量です」


血液か・・・もしかして、これから毎日アレですか?血液循環させて濾過するやつ

えーと・・・人工透析だっけ?


「血液中に含まれる1mlあたり500μg程度という測定結果が得られました

人間が魔物化する瘴気は180μgと言われていますから0.36mlの血を与えれば1人魔物になる計算になります」


0.36mlって言われてもどのくらいか分からないけど

注射1本よりかは少なそうな気がする。まぁ、根拠はないけど


「さらに、試しに1リットルの水に瘴気5μgを加えた所、およそ57分で先程と同じ1mlあたり500μgまで増加していました」


つまり、1000mlだから5万? ってことは50mgってことか?

そこからさらに、薄めていけばねずみ講式に増えるってことじゃん。怖

マジでパンデミック製造機だな、人間からすると


「では、各支部で瘴気の増産にあたらせましょう

教団員への祝福は一段落ついてから、ということでよろしいでしょうか?」


小日さんがまとめるように言った

祝福って魔物になることか? あきらかに人間じゃないやつがウロウロしてたら目立つからしょうがないか


「それに関して意見具申したいのだが」


鳥越先生が小日さんを遮るように声を上げた


「教団には病気や障害を治したくて加わっているものも少なくないが、その中には余命幾ばくもない者が何人かいる

そいつらには瘴気の先行投与を許可して欲しい」


なるほど、そういえば肉体が再構成されるとかなんとか言ってたような気がするな


「それはもしかして、みちるも入ってるんですか?」


俺は嫌な予感がして鳥越先生を見た

徹底的に素肌を見せない服装に、たまに蹲って苦しそうにしてる

どう考えたって尋常ではない


「・・・そうだ、みちるは腹部打撲による内臓損傷と薬物依存による禁断症状が見られる

君の世話をさせているのは、君にみちるを監視してもらうため、そしてやりがいのある仕事を与えることで自殺に走らせないようにする目的もある」


鳥越先生がみちるの方は悲しそうな目で見てから俺の方に向き直り言った


「・・・みちるはどうしたい?」


俺は部屋の隅で俯いているみちるに歩み寄った


「昨日の夜、痛み止めが切れてしまって・・・お腹が痛くてたまらなかったんです

そうしてるうちに薬が欲しくなっちゃって・・・欲しくて欲しくてたまらなくって・・・

気づいたら包丁を握りしめていました・・・そんな時、先生に言われたのを思い出したんです

あの魔王様は一人じゃなにも出来ないから、誰かが世話してやらないとって・・・

だから、頑張ったんです・・・ご主人さまのお世話をしなくっちゃって・・・それに・・・」


一旦押し黙って、みちるは手袋を外し、メイド服とタイツを脱ぎだした

下着姿になったみちるの肌は自傷した跡であろう傷跡の他にタバコを押し付けたであろう爛れた肌、

全身の至るところに入れ墨が彫られており、よく見てみると何かの組織のエンブレムのようなものや通し番号のようなものが確認できる


「それに、私をこんな体にした奴らに仕返ししてやるまで、死にたくないんです・・・!」


みちるは復讐心でここまで頑張ってきたんだろう

少しためらってから、俺はみちるを抱きしめた


「わかった。みちるは俺が直接、魔物にする

はじめてだからうまく出来るかわからないけど、"祝福"を受け取ってくれるかい?」


みちるは他の人に泣き顔が見えないように俺の胸に顔を埋めた


「はい、とても嬉しいです、ご主人さま」


みちるは涙で濡れた顔で笑った

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る