回想 これはウェディルの物語です

温かな日差しが肌に柔らかく当たる。


心地よい春風が気持ちよく、庭の草木が静かに揺れる。


「ディル!こっちよ、ディル!!」


13歳の私、ウェディル・リッツ・シュベールを呼ぶのはとても愛らしい少女だった。


少女の名はウェディー・リッツ・シューベル、10歳。


名前がよく似た血のつながらない私の妹だ。


とても綺麗で、ふわふわとパーマのかかった銀髪、そして無垢な瞳がとても愛らしい。


私は大好きな妹の頭にそっと手を乗せて妹をなでる。


妹は私が撫でるといつも嬉しそうに笑った。


「ねぇディル。花冠を作って、お願い!」


「あぁ、もちろんいいとも。我がプリンセスの望むままに。」


庭にある花たちで花冠を作ると妹のディーはひどく喜んだ。


あぁ、愛しい愛しい妹。


誰にも渡したくない私の妹。


でも、もうすぐ私たちは別れてしまう。


従兄弟のヴァレンタイン公爵の長男、ロナウドの元へ嫁ぐからだ。


(きっとこの子はとてもつらい思いをするだろう。ロナウドはひどく遊び人で、

家督を継ぐのは天使の力を持つ妹のリディ。ロナウドはとてもひどい男だと聞く。

何故、そんな男にディーを……。)


ディーが生まれた時に親が結んだ婚約だった。


そして、その婚約はいかなる場合でも決して解消できぬという約束を結んだため、

両親はすでに亡くなり、私は13歳という若さでこの公爵家の主となったが、

その婚約だけは解消できなかった。


愛しい妹を何故そんな非道な男に……。


そう思うけれど私の手では何もできなかった。


そして、妹はロナウドに嫁いだ。


それからすぐの事だった。


ロナウドが妹のリディと喧嘩をし、屋敷を追放される事となった。


リディは天使。


他の者にない力があるが故、勝つことなど不可能だった。


だが、ロナウドは追放を受け入れられず、永遠にリディを呪ってやるといってディーを殺し、両親を殺し、最後に自害をした。


しかし、残虐なリディがその行為に心を痛める事や恐れる事はなかった。


呪いなどあるはずがない。


そういうものは大抵、起きる不運を呪いと錯覚させることで起きるもの。


呪いなど点で信じないリディにとってはその行為はむなしく、ただの無駄死にに他ならない。


そしてそんな無駄死にに巻き込まれた妹。


……わかっている。


リディを恨むのは間違っている。


しかし、リディとロナウドの喧嘩にディーは巻き込まれ、殺された。


そう、ディーはヴァレンタイン公爵家に殺されたのだ。


それからというもの、私はこの世界中のありとあらゆるところを生まれながらになんでも見える目を使い、妹の魂を探した。


ディーはいい子だった。


きっとまたすぐに生まれ変わり、この地にいるだろう。


そして、生まれ変わりってさえいれば、姿かたちが変わっていようとも私であれば

すぐに見つけられるだろう。


そう思い、私は来る日も来る日も愛しい妹の魂を探し続けた。


けれど、この世界のどこにもディーの魂はなかった。


ディーがいなくなり、虚しく時が過ぎていく。


シュベール家はとても静かで、とても悲しい場所になっていた。


そんなある日、私は異世界召喚という本を見つけた。


そこに、異世界、「アルスラルム」という世界からたった一度だけ人を呼び寄せられることを知った。


そして、呼び寄せられる人間は脳裏に思い浮かべた姿に似たものであるという事を本の説明を読み知った私は、そのアルスラルムという世界をなんでも見える目の応用で鏡にアルスラルムという世界を映しだし、覗き始めた。


異世界。


そこにもしかすると私の愛しい妹の魂があるのではないか、と。


そして、2年という歳月をかけ、ようやく見つけたのがヒグレヒナタという人間だった。


そう、一目でわかった。いや、一瞬で感じた。


その姿を見た瞬間、私の妹だと。


アルスラルムは我々の世界より時の流れが速いらしく、7年前に死んだ妹は14歳ならしいと知った。


私はヒナタに関する情報を集めた。


あの子が突然こちらの世界に戻ってきても混乱が少なくて済むように。


身に着ける物も向こうの世界に近しいものが良いだろうと思い勉強した。


男として生まれ変わっているようだが、それでも元はレディだったのだ。


見えぬところ、下着にも気を使ってやらなければ。


しっかりと馴染みのある作りの物をたくさん用意してやらねばなるまい。


身にまとうものはすべて清潔にして、今度こそ病などにかかる事がないのは勿論、長生きできるように面倒を見てあげなければ。


美味しいものもたくさん食べさせてあげよう。


大好きな大好きな甘いお菓子だって。


もう、二度と失いはしない。


私の、たった一人の家族。


今度は何処にもやるものか。


私がこの手で、幸せにしてやるんだ。


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