Dream pilot:11 運命の三つ辻
窓ガラスをたたいてしばらく待っていると、カーテンを開けて、トモローが顔を出した。目をこすり、眠たげな顔をしている。
「キョウ、どうしたの。こんな遅くに」
「なにも聞かずに、わたしと一緒にきて」
「どうしたの……って、何で窓の外?」
目が覚めたのだろう。トモローはおどろいていた。無理もない。トモローの家はマンションの五階にある。
わたしは窓を開けてと頼んだ。彼は開けてくれた。わたしの姿をみて、さらにおどろいていた。いまは時間がない。わたしは彼の手をつかむと空に飛び出した。
「お、落ちる!」
必死にわたしの手にしがみつくトモロー。
「大丈夫。手を離さないで」
落ちては困るので腰に手を回し、しっかり捕まえて空を飛んだ。
胸が強く高鳴っている。気持ちの高ぶりは満月に向かって上昇しているから、だけではなかった。
「どこへいくの?」
「満月。この世界の外にある本当の世界に帰るため」
かぐや姫みたいだねと、トモローはいった。
彼らしい発想に面白いねと応えた。
「トモロー、ちょっと聞いてくれる?」
「うん」
「あのね、わたし。本当はね、昔からトモローが好きだった」
満月が大きくみえる。でもそれは満月に見えてやはりちがっていた。
空間に大きな穴があいているみたいに、平面の月だった。
わたしはトモローと一緒に、中へと入った。
中は真っ白に輝いていた。どこに道でどこに出口があるのかもわからない。それでもわたしは、トモローと出口を目指して飛び続けた。
「ずっと好きだった。だから、カコの気持ちを聞いたときはおどろいた。告白の手伝いを頼まれたときも、めっちゃショックで。それでも告白の手伝いをしたのは、わたしたちは幼馴染だから。昔からの友達で、二人が仲よくするのは、きっといいことなんだって思って身をひいた……というより、争いたくなかった。けど、やっぱり嫌だった。ほんとに辛かった。好きなのに告白できないのは」
わたしはもう一度、彼の顔をみて「ずっと前から好きだった」と告げた。
トモローは黙っていた。
でも彼の顔はうれしそう。ずっと昔、幼い頃一緒にいたときみせてくれたうれしそうに笑っている彼の顔をみているだけで、わたしは気持ちがあたたかくなった。
白く光る世界が急にほそくなった。道のようにまっすぐ続いている。
わたしは彼を抱きしめながら飛んだ。どこまで飛べばいいのだろう、心細い思いがしはじめたとき、以前トモローが話してくれたことを思い出す。
『空を飛ぶ鳥に、人は自由をみる。鳥たちは本当に自由なのか。翼を持つがゆえに、羽根を休めたどり着ける場所を絶えず探さないといけない。自由とは、帰るところがあることなのかもしれない』
わたしは帰ろうとしている。羽根を休めたどり着ける場所、そこにわたしの自由があると信じて。もちろん、トモローの自由もそこにあると信じている。
道は急に行き止まりになった。わたしは飛ぶのをやめて降りた。行き止まり、と思ったけどちがう。道がわかれていた。
右の道か、左の道。
どちらにいけばいいのかだろう。
これがオーマのいっていた運だめしなんだ、きっと。
「どっちだと思う?」
わたしはトモローに聞いてみた。彼は何気なく左手の道を指差す。左が出口に通じているのだろうか、わたしはのぞき込む。すると向こうから誰かがやってくるのがみえる。しかも見覚えのある顔だった。
「あ、キョウじゃん。しかもトモローまで一緒なんて。なにしてるの?」
制服姿のカコだ。
なぜ彼女がここにいるのだろう。
わたしはぎこちなく、「奇遇ね」と挨拶した。
「キョウ、トモローはわたしの彼氏。勝手にどこへ連れて行こうとしてるのか、答えて」
カコはトモローの手を引っ張る。
離れていくトモローに、わたしは思わず手をつかんだ。
「離しなさいよ」
「いや! わたしはトモローと一緒に元の世界に帰る」
「なにわけのわからんことをっ。トモローが好きなのはカコで、キョウじゃない」
「そんなことない。トモローだって、わたしのことが好きなはず」
わたしは必死になって腕を引っ張り、負けじとカコも引っ張る。
トモローが耐え切れず、「痛い!」と声を張り上げた。
わたしは思わず手を離してしまった。
「これでトモローは、わたしのもの。キョウは独りで好きなところへ行ったらいい」
カコは彼を引っ張って、来た道を戻ろうとする。わたしも後を追いかけようと、呼びとめる。
「いかないで! わたしは好きなの。トモローもカコも」
わたしは走って追いかける。でもいきなり道が目の前で途切れてしまった。
二人との距離がどんどん遠くなる。
背中の翼を広げて、わたしは飛ぼうとする。でも飛べない。思うように翼が動いてくれない。それどころか荷物を背負っているみたいにズッシリと重さがのしかかってきた。
「待って! いかないで」
わたしの声に、二人はようやく振り返ってくれた。
「キョウ、さようなら」カコがいった。
「ぼくたちのこと、忘れないでね」トモローが手を振ふ。
立ち去っていく二人の姿は、左の道とともに、わたしの前から消えた。
わたしは残った右の道を、一人で歩き続けるしかなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます