Episode:03 夢先案内人

Dream pilot:01 天使と悪魔

 目が覚めると、おどろきで目を見張った。

 布団から抜け出るも、ベッドがやけにおおきく見える。

 おかしなことは他にもある。目覚まし時計をみると、もう朝を迎えている時間なのに辺りは暗い。だったら夜なのかと思えば、なんだか明るくみえる。夜なら真っ暗なはずなのに、世界が灰色がかっているだけで、どこになにがあるのかはっきり見て取れた。

 おかしなことはまだある。なんと、背中に翼が生えているのだ。これこそありえない。まさか、本当に天使になったとかいわないよね?

 おまけにもうひとつ。な、なんと、しっぽが生えているのだ。思うとおりに、右へ左へと、くねらすこともできる。天使じゃなくて悪魔になったなんて、ありえない。


 わたしは、あわてて姿見鏡の前へと急いだ。

 鏡に映る自分の姿をみて、あまりの変貌に目を見開いた。

 鏡の前にはなんと、青い眼をした毛むくじゃらの、小さくてかわいい白い猫が一匹、ちょこんと座っているではないか。


 これが……わたし?


 どうやら猫になってしまったらしい。おどろいてはみたものの、どうしていいのかわからない。そもそも、猫に翼なんてないから。だとすると、どういうことだろう。

 背中に翼の生えた四足の生き物なんていただろうか……。

 気づくとわたしは、ペロペロと自分の手や足を必要以上になめていた。猫としての本能が働いているみたいだ。

 やれやれ。ため息をついて部屋を見渡す。

 星柄のカーテンが揺れている。気になって、窓辺にひょいとのぼると、カーテンの隙間から月明かりが見えた。


 満月。

 窓が開いていたから、カーテンが揺れていた。わたしは冷静に考えようとするのに、目は空に浮かぶ大きな満月を捉えてはなれない。

 猫は丸いものが好きと聞くけれど、そのせいなのか、無性に月に飛びつきたい気持ちでいっぱいだった。

 いやいや、さすがに飛べるわけないって。

 月は地球の衛星軌道状を周回しているのだ。

 宇宙空間まで行けるはずがないとわかっているのに、体は勝手に飛び出していた。


 家の二階の窓から、そのまま地面に落ちる。激突する寸前、体を器用にくるりとまわって見事に着地。オリンピックに出たら金メダル間違いなしだろう。


 わたしは月にむかって走った。

 いくら四本脚で走ったところで、空に浮かぶ月にたどり着けるわけがない。

 頭ではわかっているのに、猫の体はいうことを聞いてくれない。

 背中に翼がついていても、動かなければただの飾りだ。鳥は空を飛ぶために学校は通わない。どうしたら飛べるのだろう、走りながらそれだけを考えていた。


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