第3話 新たな仲間、あと謎の力の新たな可能性


オークらは困窮していた。

住処としていた山を追われ、撤退の際に多くの戦士を失い、逃げ遅れた雌や子供の多くもその場で人間に殺された。


オークは強靭な身体能力を持っているが大飯喰らい故に、持ち出せた食糧では心許ない。


群れのリーダーをやつれた仲間たちが縋るように見る。

やめてくれ、そんな目で俺を見ないでくれ。

これからする事は仕方の無い事になんだ、どうか俺だけに罪を被せないでくれ。


リーダーはそんな言葉を飲み込み、歩を進める。


「リーダー、そろそろゴブリンの縄張りブヒ。これ以上は……」


「分かっている、分かっていてそこを目指しているんだブヒ」


「ッ! ……では、ゴブリンの巣を、縄張りを」


「……奪うブヒ、手段は選んでいられないブヒ」


ゴブリンらの縄張りではオークの群れが食っていける程の獲物は期待出来ない。

それでも、この場は凌げる。

いつか砕けると確信しているその場限りの希望に縋るため、オークらはゴブリンの縄張りへと足を踏み入れた。







「嗚呼……ここはそのままかブヒ」


懐かしい戦場跡、廃村に差し掛かった。


目を閉じれば40年前の人魔戦争が、まるで昨日の事のように浮かび上がる。

ここも、戦場であった。


本当に懐かしい。


剣1本携えあちこちの戦場を駆け巡り、多くの仲間を失い、同じだけ仲間を得た。


目を閉じれば燃え盛る炎がチラつき、耳を澄ませば仲間の怒号や剣閃の音が聞こえてくる。


古い記憶だ、過ぎ去った過去だ。


「……」


今日襲撃するゴブリンはかつての仲間だった。

共に戦場を駆けた、助けられた事も助けてやった事もある。


己はなんと恩知らずなのだろう、なんと不甲斐なく、情けない雄なのだろう。


飢えた一族を守ることも出来ずおめおめと逃げ出し、今度はかつての仲間と縄張りを争うと言うのだ。

人間が憎くないと言えば嘘になる、しかしそれは戦った結果なのだ、負けたから今我らは苦渋の選択を強いられている。


いっそあの戦争で死にたかった。


しかし振り返れば守るべき一族がいる、僅かに残った彼らだけでも守らなければならない。


「……皆の者、これよりゴブリンを」


「待たれよ! 待たれよ! 鉄の猪殿とお見受け致す! 待たれよ! 」


「むっ」


山を駆け下りてくる年老いたゴブリンが見えた。

記憶にあるよりもずっと皺が深くなり、痩せ衰えてはいるが、間違いない!


「お、おお……お主は緑の刃殿……」


40年振りに再会するかつての戦友がいた。


目頭が熱くなる、しかし今は敵なのだ、敵になりに来たのだ。

情は捨てねばならない。


「ッ! ……許せとは言わんブヒ! 緑の刃! お覚悟ブヒ! 」


腰に下げた剣を抜き、かつてゴブリン族最強の名を欲しいままにした緑の刃に切っ先を向ける。


「待たれよと申しておろう! 」


「ええぃ! 言葉は不要……ブヒ? 」


先駆けとなり我らオークを襲撃しに来たかと思えば様子がおかしい。

武器を持っておらず、戦意も感じられない。


「命乞いブヒか! 堕ちたブヒな緑の刃! 」


長く続いた困窮に戦うことすら忘れたか、せめて我が手で楽にしてやろう。


「違う! 戦う必要はござらん! 食い物の心配も、居場所の心配も要らぬ! 王が! 」


「ブヒ? 」


「王が帰ってきたのだ! 刃を収められよ! 」


「ば、馬鹿な! 王が!? 」


血相を変えて息を切らし、オークの前に辿り着いた緑の刃は鉄の猪の横に並び、その場に跪いた。


「王が来られる、頭が高い! 」


「ぶ、ブヒ!……皆の者、膝をつくブヒ」


半信半疑のまま勢いに押されて武器を収め、その場に全員が跪く。


微かにどんちゃんと楽器を鳴らす音が聞こえてきた。

嗚呼……戦場の賑やかし者と懐かしいゴブリン音楽隊の鳴らす打楽器の音に違いない。


そして、このリズムは王の出陣でしか奏でられぬはずの……


「フーはっはっはっ!!! 平伏せーい! ふははは!ッゲホッゲホコッウェッちょっ、ゴホッ」


ゴブリンらの担ぐ玉座に王が座していた。


姿形は40年前と随分変わっておられるが、この肌に突き刺さるような濃密で莫大な魔力。

強大で、しかし優しく魔物らを照らす偉大なる王が。


「か、帰ってきた……王が……」


「あぁ、鉄の猪殿。帰ってこられたのだ、来るぞ、また我らの時代が」







なんかブヒブヒ鳴いてる。


爺やに神輿の上に座らされ、とりあえず着いてこいと言われて担ぎ手のゴブリンらと共に来たのだが、和也は魔物達の言葉が分からないのでとりあえず偉そうにしておいた。


「ふーっはっはっは! 」


「ブヒー!!!!! 」


「グギャガ!!!! 」


ざっとみて30匹前後くらいのオークが爺やと一緒になって和也に跪いている。

何故かオークらは瞳から大粒の涙を流しながら感極まったように叫び、ゴブリンらもうんうんと頷き、まるで状況が分からない。


「爺や、これどうなったの? もう仲間になってんの? 仲間になりたそうな目でこちらを見てんの? 」


「ミナ、オウニ、シタガッテオリマス」


「あ、そうなんだ。じゃあとりあえず帰ろっか。なんかあっさりだなー、あそう言えばみんな腹減ってんだよね。とりあえず巣の備蓄を分けてやろう、飯だ飯! 俺も焼肉食うぞー! 」


「ハハッ」




オークらはその顔こそ豚だが、体付きはまるでゴリラだ。

最低限服みたいなのを着てるが、どちらかと言うとボロ布で体格もあり原始人に見える。


その体格に見合うだけ飯を食うもんだから備蓄はあっという間に無くなり食糧危機となってしまった。


「よく、食うなー」


「カレラ、ヨクタベ、ヨクハタラキマス」


「ふーん……流石に狩猟だけじゃ食糧賄いきれないねこれ、おかしいでしょどんだけ喰うのあいつら」


明らかに体の体積より多い量を食っている。

どんな胃袋をしているんだ、筋肉で出来てて無理矢理圧縮してるのだろうか。


「農耕の経験があるゴブリンとかオークは? 」


「ノウコウ、ワタシ、アリマス」


「お! やるじゃーん爺や! ん、なんで今までして来なかったんだ? あ、種が無いとか? 種無し? 爺や種無しなの? 」


「イエ、タネアリマス」


「ごめん」


「? ミテイタダケレバ、ワカリマス」


食い疲れ、騒ぎ疲れたオークらを置いて爺やと廃村へと降り立った。


「ココ、ハタケアッタ」


「あった? 」


「センソウ、ハタケアレタ、モウミノラナイ」


「あー、成程? というか戦争あったのね? まずそこからなんだけど」


「? オウ、センソウシラナイ? 」


爺やが怪訝そうな顔で和也を見た。


「意味とか、どういう物っては知ってるよ? でもここでどんな戦争があったのかは知らないのだ、悪いね」


爺やと一緒に畑跡へとやってきた。

確かに、素人目に見ても荒れている。

雑草程度なら生えているがどれも萎れて生気がない。


異常な程に荒れた土地だ、よく見れば森も土地の規模に対して木々が少なく思える。


「オオキナマホウ、マナ、アラス、トチ、アレル」


「戦争の爪痕が今も残ってるってやつか、マナ? とか言うのが悪くなると土地がこんな風になる……回復にはどのくらいかかる? 」


「センソウ、40ネンマエ、アト、60ネン」


「100年もかかんの!? バカじゃん!なんでそんなの村で使ったんだよ! 」


「メンボク、ナイデス、アノトキ、ソウスルシカナカッタ」


「しかもそれやったの爺やの陣営かよ! どーすんだよー、60年も狩猟じゃ絶対食いつなげないじゃん、移住とかも考えないとねー」


何となしに和也が荒れた土に触れた。

ガサガサとヒビ割れまるでケアを怠ったお肌のようだ、ちなみに和也のお肌はプルンプルンである、まるでゆで卵だ。


「ギャ!? 」


「ん? どうした爺や……ぎゃぁ!? 」


和也触れた大地が負傷したゴブリンらに触れた時と同じように輝き始めた。

光は和也の触れた所から徐々に広がっていき、やがて村全体を包み込む。


「うわー!! なんか始まった! なんか始まった! 爺や! なんか始まった! 」


「オウ、コレハ……」


光が収まった。

眩んだ目が元の明かりに慣れるのを待ち、そっと目を開ける。


「……あ? なんか土地が……」


言葉では言い表せ無いが、なんと言うか瑞々しくなった気がする。

恐る恐る土を触ると今度は少し湿り気を含んだ、畑などでよく見る肥えた土に変化していた。


「……うーん」


「爺や、なんか治った」

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