〜2巡目終局〜 籠もった感情

ポ…ポ…ポ…ポ…ポ…ポ…ポ…ポ

怪しげに灯った白、青、赤、緑の灯火が薄暗い6畳間を照らしていた。


ここが、飲まずも食わずとも大丈夫だという事が今分かった気がする。スモークガラスの向こうに見える色が一切変わらないのだ。まるで時が止まったみたいに。


「ねえ、朝風。さっきの話はどういう事?全、然分からないんだけど!」

しかし僕達の時は動いている。さっきよりは落ち着いたものの、さくらは未だに怒り散らしていた。


「はは…。あの二つの話には共通する事があるのですよ。」

朝風は普段より落ち着いているように見えた。


「ただ胸糞悪いだけの話じゃない!どこがそうなの?」


「2つの話とも、一度立ち止まって考えれば悲劇を防ぐ事ができたという事ですよ。」

「『堰き止め鬼』では鬼と呼ばれていた方と村人が話し合う事が出来れば水害を防げましたし、『人斬り山』でも、十兵衛がいきなり斬りつけるような事はせず、事情を老人から聞けば、あのような惨事は回避できたと私は考えています。」


「…何が言いたいの?」


「トノさんに恨みをぶつけるのは間違いだと言いたいのです。考えてみて下さい。『百夢語』をやり始めたのは、謎の怪異『丹那桜花』ですよ。」


良かった。朝風も僕の事をかばってくれるみたいだ。全ての元凶にされるのはどうも納得いかなかったし、これで彼女が僕に持つ疑いも晴れるだろう。


「あんた達、グルなんでしょ?あたしとしょうちゃんをはめる為に仕組んだんだよね!」

彼女の叫びが狭い部屋の中を駆け巡った。

もう怒りが最高潮に高まってる。…こわい、怖いけど、自分から弁明しなければ彼女は納得してくれない。もう心は決めた、勇気を出そう!


「違う!僕が仕組んだ事じゃないです。」


「証拠は?どうせ無いんでしょ?」


「証拠はここにあります。僕自身です。僕は貴方の事を全く知りません。だから、誰とも手を組んでいないですし、あなた方をはめようとはしていないです。」

僕は感情を無にして、ありのままを話した。


「いや、SNS上の情報だけでもこうした計画を練るのは可能でしょ!それに、下木駅に集合した時、SNS上の名前を確認したよね?それで誰が仲間か判別したんでしょ!この嘘つきが!」


ありもしない暴論だ。もう、被害妄想に近いところまで来ている。


「落ち着いて聞いてほしい。」

見かねたナガノが、会話の波を止めた。

「君は、素性の知らない相手の願いを叶える為に命を捧げられますか?」


「何言ってるの?そんなの出来ないし、やる意味がないじゃ無い!」


「それと同じことを貴女は言っているんですよ!」

ナガノはその気迫で、さくらを圧倒した。

「その考察でいくと、トノさんの目的は『百夢語』を利用して自分の願いを叶える事ですよね?ただ、『百夢語』のルールには、・敗者は死亡する。・勝者は願いを一つだけ叶えられる。という物があります。つまり、トノさんを勝利させるなら、協力者の死は確実なものになりますよ。もう一度言います。それでも、素性の知らない相手の願いを叶える為に命を捧げられますか?」


「…それであたしが納得するとでも?『2つ願いを叶えられるようにしてください』って願えば全て解決するわ!」

もっと無茶苦茶な事を言い出した。彼女はこれでも自分の意見を曲げないみたいだ。


どうする?このままではさくらが僕を襲うかもしれない!このままじゃ桜花に殺される前に殺される!


ブウン

ブラウン管テレビを付けた時のような鈍い起動音が響く。彼女が来たんだ!


「やっほー!盛り上がってる?」

紅いモップのような髪を揺らし、彼女は画面の中にひょっこり現れた。


「邪魔しに来たの?やっぱり、タイミングが良すぎるんだけど!」


「違うよ。今回の脱落者を知らせに来たんだ」怒り狂うさくらに対して全く反応せず、桜花は明るく接した。


「ならさっさと言ってよ。大体分かってるけどさ!」


「急いては事を仕損じるよ。まあ、発表していこうか!」


「今回の脱落者は〜〜〜トノさんです。」


「僕が?…脱落?」

僕は全身の力が抜けその場に倒れ込んだ。嘘だ!創作怪談としてはかなり自信があったのに!


「今回はいい勝負だったから、誰も落としたくは無かったけどねー。でも、ルールは守らなきゃいけないから。バイバーイ!」


ズボォ!


テレビから伸びてきた真っ赤な腕が僕をガッチリ掴む。僕はテレビの中へ引き込まれた。


気がつくと、僕は小さな部屋にいた。4.5畳のワンルーム、壁一面に並べられたプラモデル、積み上げられた漫画の山、上に物が乗ってゴチャゴチャした机…ここは僕の家だ。


だけどおかしい。出口が無いのだ。


グギュルル…

な、なんだ?急に腹が減って喉が渇いてきた…あっ意識が…


〜〜〜

「うーん、2日しか持たなかったか。この部屋、クーラーも無いし仕方ないね★」


テレビ画面にはとあるアパートの一室が映し出され、その床に熱中症で死亡したトノの遺体が写っていた。この丹那桜花という怪異は想像以上にタチの悪い存在のようだ。


「そういえばタイトルコールしてなかったね。その名も『ヒキニートX』!」

ふざけてるのか真面目なのかは分からないが、殺戮を楽しんでいるのはよく分かった。


「それじゃ3巡目の順番を決めるよー。


緑→さくら

白→朝風

青→ナガノ


で行くよー。それじゃまたね!」


プツン…

丹那桜花は再び僕らの前から姿を消した。


「何よ…トノは関係無かったってこと?」

1番困惑していたのは桜花だった。黒幕だと思っていたトノが殺されたんだ。無理もない。


「最初からそう言ってますよ。」


「あなたは信用できないけど、その言葉、信じるわ。とにかく終わらせましょ。この馬鹿げた物語を。」

さくらはやっと理解してくれたようだ。だけど、朝風にも言える事だが裏切る可能性も十分ある。


人数的に後2回。気を抜かずに臨むとしよう。

全員が生きて帰る為にも…

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