〜2巡目〜 人斬山

かつて日本に姨捨山おばすてやまという習慣があったのはご存知でしょうか?

齢60を超える老人を山に捨てていたのです。

伝わっている話だと長野県の物が有名ですが、これは別に怖い話ではありません。

これから私が話すのは、別の姨捨山の物語です。


〜〜〜

その地方では齢60を超える老人を山に捨てる習慣がありました。老人は不幸を連れてくるという伝承があった故のことです。


今日も1人、老婆を背負い姨捨山を登る男の姿がありました。男の名は十兵衛じゅうべえと言い、齢32ながらも多くの弟子を持つ剣豪でした。


「母上、本当に申し訳ない。強く生きてくれ。」


「ここまで送ってくれてありがとねえ…十兵衛、あなたは立派だよ。」

十兵衛の母は大粒の涙を流していました。


「うう…母さん…」

十兵衛は泣きながら山を降りました。『山に置いてきた後は決して振り返ってはいけない』そんなしきたりがあったからです。


十兵衛は来る日も来る日も母の事を思っていました。とにかく不安で仕方が無かったのです。


ある日の夜、十兵衛は刀を携えて姨捨山を登りました。母の様子を一目見たかったからです。

山を登っていきますが、その山はとても険しく、十兵衛はどんどん疲弊していきました。疲れ果てた頃、一軒の灯りのついた家が見えました。家の中からは大勢の老人の声が聞こえてきました。


もしや?と思い、家を覗くと多くの老人達が集まっているではないか。老人達は麻の頭巾を被り、その手元にくわや鎌などの農具を置いていた。


「時はきた…おら達を追放した領主に夜襲を仕掛けるぞ!」


「おー!」


なんと、追放された老人達は領主に復讐しようと夜襲を企てていたのだ。


十兵衛はこれはいけないと思いました。十兵衛はその領主に使えていたのです。


老人達の死角から家に飛び込むと、ばっさばっさと切っていきました。不意打ちから逃れた老人もいましたが、老人が剣豪相手に勝てるはずがありません。


「覚悟!」

十兵衛は障子紙を切るように最後の1人を切り捨てました。


その瞬間十兵衛の頭に怨のこもった声が響きました。


「このドラ息子がぁ!」

そう、切り捨てた子は実の母親だったのです。

辺りは暗く、母親も顔を隠していたので十兵衛は分からなかったのです。


「お前の事はクソ領主に仕えた時から憎んでいたよ!だから最低の呪いをかけてやる!」


そういうと声は消えていきました。


「母さん…本当にすまない…すまなかった。」

十兵衛は母の亡骸に手を合わせた。


「おい、お前がこれを…やったのか?」


近くに住む男が訪ねてきました。この騒ぎを聞きつけたのです。


「ああ。そうだが」

ザンッ!


返答する間も無く男は十兵衛に切り捨てられてしまったのです。


「手が勝手に…これが呪いか!うわぁぁ!」


そう、十兵衛は呪いによって目に入った人を切るようになってしまったのだ。


それ以来姨捨山は人斬山と呼ばれるようになりました。今でも刀を持った男が目撃されるそうです。


ポッ…

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