美少女を道連れに異世界転生しようとしたら俺だけ生き残ってハッピーエンドになった話

神庭

第1話 山田優市と美少女

 山田優市やまだゆういち、三十五歳無職。


 最終学歴中卒。職歴・特技ともになし。

 恋愛経験ゼロ、中学生のとき告った女子に殴られる。もちろん童貞。


 趣味はネットサーフィン、読書(ラノベ)、映画&アニメ鑑賞。

 いかにもって感じだが、ヲタクではない。


 むしろそうなりたかった。

 好きなものを好きだと叫んで情熱を注げるヤツらはカッコイイ。


 俺にはそんなもの、なかった。

 パソコンやスマホがイカれたら寝るだけだし。

 本棚と段ボールにギチギチに詰まったラノベをババアに売られても気にしない。

 映画は金曜の夜にやってるロードショーで充分だし、アニメを見逃しても全然悔しくないどころか、主人公の名前すら忘れてる。


 クソみたいな経歴からわかるように、俺には昔から夢中になれるものがなにひとつとしてなかった。

 なんでもそつなくこなすようなヤツならそれでも問題なかったんだろうが、俺はなにをやってもダメだった。


 運動も勉強も遊びも恋愛も、ぜんぶぜんぶ人並み以下だ。


 そんな俺をバカにして、散々イジメたクラスのヤツら。

 俺なんか視界にも入らない、人生謳歌してるリア充ども。

 俺に失望して、叱ることすらしなくなった俺の両親。


 全員が憎くてたまらなかった。不幸になれと思った。

 俺みたいに惨めな思いをすればいい。

 せいぜい苦しんで死ね。


 人間なんて大ッ嫌いだ。


 だが例外はいた。


「ゆーうーくんっ、遊びましょ!」


 古臭い誘い文句。

 ガタつく引き戸をこじ開け、そこからのぞく小さな白い顔。


「お前、また勝手に……」


「勝手にじゃないもん。おばさまが入れてくれたんだもん」


 鈴を転がしたような声が反論する。


 コイツの名前は莉々りり


 ウチの近所に住んでる女子高生だ。

 学年は忘れたが、俺が手を出したら百パー捕まる年齢であることは間違いない。


 おまけに、アイドル顔負けの美少女だ。


「あのババア正気かよ……」


 俺みたいなゴクツブシは、とっとと警察に捕まっちまえってことか。


 莉々はいつシーツを替えたかもわからん俺のベッドに腰掛け、勝手に本棚から引っ張り出した文庫本を読み始めた。


 それはたしか俺が中学の頃、読書家面したくて買った純文学書だ。


 ババアめ、勝手に部屋のモノ捨てるくせに、こういうのは処分しないんだからよ。


「お前、なんでいっつも俺のトコなんか来るんだよ」


「んー」


「んー、じゃねえよ。高校生にもなって、こんな無職のオッサンの部屋に入り浸ってたら親が悲しむぞ」


 親を悲しませてるのは、どっちかというと俺のほうなんだが。


「優くんのそばって落ち着くんだもん」


「落ち着くって、お前……」


 いい歳のオッサンとは言え、一応まだ男としての機能は残っている。

 俺は男だと思われていないのか?

 異性として意識するとかそういう意味じゃなくて、襲われるかもっていう危機感はないのかよ。


 だとしたら、コイツほんとに危ねえな。


「おい、今日送ってくから」


 学校帰りにウチに寄り、コイツが帰って行くのは大体夜の九時過ぎ。


 今まであまり気にしてなかったが、夜道をひとりで歩かせるのが怖くなってきた。

 コイツ、無防備なくせに出るとこ出てるし……。


「えっ、いいの!?」


 莉々が突然こちらに身を乗り出してきた。


 近い。


 俺は思わず後退る。

 身体が反応しそうなんで咄嗟に息を止めたが、莉々からはめちゃくちゃいい匂いがした。


「な、なんだよ」


「だって優くん、外出るの嫌いでしょ」


「別に、近くだし……」


 見上げてくる大きな瞳はキラキラしている。

 純粋な輝きは、俺の中にどす黒く渦巻く欲望をも、遠慮なしに照らし出す。

 いたたまれなくなって、俺は莉々から目を逸らした。


「えへへ、嬉しい。優くん、ありがとう!」


「……なんだよ」


 なんでそんな喜ぶんだよ……。


<つづく>

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