最終章 2人が両思いになるまで

第44話:寝るまでが夏休みです

 夏休み最終日夜。


「わたし死んじゃうーーーーーー!!!!!!」


 夏休みは満喫したし、宿題はちゃーーーんとやってる。

 だが何故わたしはこんなことになっているのか。

 それはあの自称カミサマからの愛の告白であった。


『夏休みが終わるまでに、幸芽ちゃんからの『好き』をもらえなかったら、あなたは清木花奈へと戻る。面白いでしょ?』


 要するにわたしという存在が死んでしまうのだ。

 幸芽ちゃんから『好き』と言ってもらえていない以上、今日をもって、わたしは清木花奈へと戻ってしまうのだ。


「なんで好きって言ってくれなかったのーーーー!!!」


 駄々をこねる歳ではないにしろ、両腕両足をバタバタと動かして、子供特有の駄々こねフォームを繰り広げる。

 だが、止めるものは誰もいない。

 あるのは、多少のストレス発散とその後のむなしさだけだった。


「はぁ……幸芽ちゃん、絶対わたしのこと好きだよね……なんで」


 それだけは確信できた。

 あの日、二度目の告白の時から変わった態度。

 直接好きとは言わないまでも、それクラスの大好きの印をもらった言葉。

 花火の日。わたしに何かを言って、頬を赤らめる彼女。

 その言葉はドーンという爆発音で遮られたものの、確かにあの時愛を感じたんだ。


「幸芽ちゃんの意地っ張り……。そこまでしたら好きぐらい言ってよ……」


 わたしの生死に関わってくるんだから。

 嫌だな、幸芽ちゃんを置いていなくなっちゃうの

 元の花奈さんはわたしほど幸芽ちゃんを愛していない。

 元の花奈さんが好きなのは、涼介さんだ。


「裏切りと愛情と、バッドエンド……」


 それらしく単語を並べてみたものの、おそらくこのまま行けば、わたしにとってはバッドエンドだ。

 あれだけ愛してくれたのに。これだけ愛したのに、最後の結果がこれだなんて。


「わたしの本名だって、教えちゃったのに」


 お墓参りのとき、教えた名前が無駄になっちゃう。

 幸芽ちゃんはわたしをわたしとして受け入れてくれた。

 それがとっても嬉しくて。ここにいてもいいんだって思ったのに。


「夏休みが終わるまで……」


 このまま寝たら、二学期になる。

 二学期になったら学祭とか、期末試験とか。あとはわたし自身の誕生日とか。

 そんな楽しい行事がいくらでも待っている。


 ――なのに。


「嫌だ。嫌だよ……」


 膝を抱えて、顔をうずめる。

 胸が圧迫されて、ちょっと息苦しいけど、今はその息苦しさが生きているという実感を得られた。


「こんなに夏休みが終わってほしくないの、初めてかも」


 そりゃそうか。

 こんな生死をかけた夜は初めてなんだから。

 いや、初めてでもないか。花の芽ふーふーを始める時はだいたいこんな感じだった。

 翌日が休みだから、エナジードリンクがぶ飲みしてクリアしようって。

 ま、文字通り死んじゃったんだけど。


「……徹夜、か」


 ふと時計を見る。時刻は一時過ぎ。

 夏休みの終わりって、いつだろうか。

 カミサマは定義していなかった。

 例えば朝までとか。日付を跨いだら、とか。


「試して、みようかな」


 わたしは財布を持って、部屋から出て階段を下りる。

 目指すはコンビニ。出費はだいたい四百円ぐらいだろうか。

 他の人が見たら驚くだろうが、わたしは生きたいんだ。生きるためには、このぐらいやってみせよう!


「そう、徹夜を!」


 ◇


「おはよー……」

「あ、姉さんおは……なんでそんなにボロボロなんですか」


 翌日。いつものように夜桜家へと赴くと、初手でツッコミをされてしまった。

 涼介さんまでドン引きしてるし、そんなに変な顔をしてたかな。

 一応鏡は見てきたけど、化粧で誤魔化したし、そこまでは……。


「いや、幸芽ちゃんが好きって言ってくれないから」

「なんでそうなるんですか?!」


 しかし、若い身体でよかった。

 体力はなくても、意外と朝までならなんとかった。

 それに意識だって朦朧だけど、確かに自分のものだと確信している。

 あとは9時間前後ごとにエナジードリンクを飲めば、生き残れる。

 さぁ、延長戦の始まりだ!


「幸芽ちゃんが好きって言ってくれないから、眠れないんだもん」

「花奈が幸芽のことを好きなのはわかったが、どうしてそうなるんだよ」

「死んじゃうから!!」


 ここ、集中線ポイント。

 そうしないと死んじゃうから、しょがないよね。


「わたしには、今の姉さんが死にそうな顔をしているんですけど」

「大丈夫! 幸芽ちゃんの好き好きASMRで寝れるから!」

「なんでぇ?!」


 だんだん自分の発言が支離滅裂になりつつあるのは分かっている。

 けどさ、幸芽ちゃんが好きって言って――。


「あー、はいはい。好き! 好きですからちゃんと寝てください」

「……はえ?」


 今までの幸芽ちゃんのセリフにあってはならない二文字があった気がする。

 思わず涼介さんを見る。大変気持ち悪い顔をしている。

 あ、あはは。なんというかよかったぁ……。


 どさっとソファーに座り込み、ゆっくりと目を閉じる。

 やっとこれで寝れる……、安心して。


「って、姉さんこれから学校ですよ?! 姉さん!!」


 この後、めちゃくちゃ起こされた。

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