5

「それ、ルル持ってるかも! ちょっと待ってね!」


 そう言って、ルルちゃんは飛んで部屋に戻ります。そして、ふたたび庭にやってきて、あの謎の黒いものを生き物に差し出しました。


「おお! これだよ、これ!」


 生き物はよろこびのあまり叫び、立ち上がりました。二本足で立ち上がったのです。そして四本のうでで、差し出されたものを受け取りました。


 生き物は(生き物は透明なマントのようなものをはおっていました。うっすらと緑がかっていて、まるで虫の羽のようでした)それを抱えて、球体へと運びます。球体にそれを押し付けます。謎の黒いものは溶けるように消えてなくなりました。


 球体が、強くかがやきました! 一瞬辺りが白くなるほどでした! でもたちまち収まります。ただ、球体は、さらにいっそう光が増したように見えました。


 生き物はルルちゃんに言いました。


「これで故郷の星に戻れるよ。本当に助かった。とてもありがたい。そうそう、運のよいことに世界と世界をつなぐ回廊にはびこっていたやっかいなものも消えてしまってね。今日はとても良い日だよ」

「回廊?」

「トンネルのようなものだよ。そこに植物のようなものがはびこって、植物ではないのだが……」


 ルルちゃんはまたしてもはっとしました。トンネルのようなところなら、つい先ほどまでいた場所のことかもしれません。植物のようなものもありました。生き物は話を続けます。


「白い実のようなものがなってね。これがまったくやっかい……」

「それ、食べちゃった」


 ルルちゃんは言いました。生き物がおどろいて声を上げました。


「えっ! 食べた!?」


「……うん」生き物があんまりおどろくので、ルルちゃんは恥ずかしくなりました。いじきたないと思われてないか心配になったのです。「……食べちゃった……と思う……。たぶんね」


 生き物は笑い出しました。(笑うクワガタムシなんていませんよね。だからやっぱりクワガタムシではないのでしょう)


「いやまったくきみは――! なんてすばらしいんだ! きみはまったく、すごく、立派な――……ええっと、なんだ?」


 クワガタムシは「立派な」の後に、種の名前を続けるつもりだったのです。たとえば、もし、ルルちゃんが人間なら、「立派な人間」と言ったことでしょう。でもルルちゃんは人間ではありませんし、ルルちゃんがなんという種なのか、その生き物は知りませんでした。


 なので、ルルちゃんにたずねました。


「きみはいったい、なんというのだね?」


 ルルちゃんは答えました。


「ルルだよ」


 そこで生き物は言いました。「きみはまったく、立派なルルだ!」


 ルルちゃんは照れくさくなりました。なにを言ったらよいかわからなくなり、とりあえず、より立派に見えるよう、堂々とていねいにおじぎをしました。


「さて、わたしは帰るとしよう。では、さようなら。いろいろありがとう」


 そう言って生き物は背を向けると、球体に向かって歩き出します。そしてそのまま吸い込まれるように中に消えてしまいました。


 球体はするすると空に上がり、とつぜん消えてしまいました。


 ルルちゃんはしばらく、ぼうっと立っていました。なにが起こったのやら、やっぱりよくわかりません。とにかく部屋に戻ろう、とルルちゃんは思いました。


 そして部屋に戻って、いつものねどこで寝るのです。




――――




 朝になりました。いつもの朝です。とりたてて変わったところはありません。


 ルルちゃんは昨夜のことを思い出そうとしました。けれども記憶はあいまいです。クワガタムシみたいな生き物にあったことは覚えています。あれはすべて夢だったのでしょうか。


 けれどもルルちゃんのおもちゃ箱にあった謎の黒いものは消えていました。夢じゃなかったのかもしれません。


 それから何日かして、ルルちゃんは一つのメロディを、一つのフレーズを口ずさんでいました。それをウララちゃんが耳にします。そしてたずねました。


「なんていう曲なの?」


 ルルちゃんは答えようとしましたが、わかりません。ひょっこりと、ふいに、口から出てきたのです。ルルちゃんは正直に言いました。


「わかんない」

「ルルちゃんがつくったの?」


 ルルちゃんは首を横にふります。


「ううん。たぶん――ウララちゃんが教えてくれたんじゃないの? えっと、たしか、お星さまが出てくる歌でね」


 ウララちゃんはけげんな顔をしました。


「わたしは教えてないわ」


 ルルちゃんもキツネにつままれたような気持ちになりました。


 ウララちゃんが、ルルちゃんが口にしたフレーズを、自分も続けて口にします。そして何度かくりかえした後、ほほえんで言いました。


「いい曲ね」


 いったいこの曲がどこからやってきたのかよくわかりませんが――ルルちゃんはうれしくなりました。そして、ウララちゃんに近づいて、「うん」と言ってうなずきました。




――――




 不思議なお話はこれでおしまいです。次は――クリスマスのお話です!


 クリスマスですので、ルルちゃんはサンタさんにプレゼントを頼みます。いったいなにを頼むのでしょう。そして、事件も起こります。ウララちゃんに関する、重大な事件です。


 それでは次回もお楽しみに。

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