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「わしは子どもではない! 年を経た魔物じゃ! 魔界では、地位と教養があり尊敬を集める長老魔物だったんじゃ!」

「でも魔界のことはなにもおぼえてないんだろ」

「おぼえてはないが、そうであったことは知っておる!」


 そう言ってゴエモンはぷいと背を向けて出ていきました。カイはルルちゃんを見ます。ルルちゃんも怒った顔をしてそっぽを向いていました。


 カイはこの気まずい空気の部屋にいたくありませんでした。そこでカイもだまって、部屋を出ていきました。


 それからルルちゃんともゴエモンとも口をききませんでした。夕ごはんのあと、居間にいると、ナミが話しかけてきました。ちょうど、どちらの魔物も近くにいませんでした。


「ゴエモンが怒ってるんだけど」

「……うん。けんかしたんだ」

「ルルちゃんとも?」

「そう」

「なにがあったのよ」


 カイは話したくありませんでした。カイは別のことを口にしました。


「……ゴエモンのこと、好き?」

「好きよ」


 ナミはすぐに答えました。それが当然、とでも言うように。


「でも、最初はいやだったんだろ」


 カイはナミとゴエモンの最初の出会いを思い出します。12歳の誕生日の朝です。ナミは泣き、ゴエモンはおこっていました。最悪な出会い方をした一人と一匹だったのです。


 ナミは素直にうなずきます。


「うん。だって、わたしは虹色のたてがみをしたユニコーンが相棒になればいいなって思ってたんだもの。それが小さな白いネズミで……ううん、ネズミはかわいいと思う。でも、あんなお年寄りみたいにしゃべるネズミとは思わなかった」

「ぼくも、ドラゴンがよかったんだ」


 カイは小さくため息をつきました。


「ルルちゃんいいじゃない。かわいいじゃない。それにすごくよい子」


 カイがなにも言わないので、ナミは続けて言いました。


「ゴエモンもまあ……よい子といえなくも……そんなに悪くはない、とは思うんだけど……」


 ルルちゃんがよい魔物であることはカイもよくわかっています。ナミに言われずとも、ちゃんと知っているのです。




――――




 シズクちゃんの誕生日になりました。


 教室に入ると、シズクちゃんの周りに女の子たちの輪ができています。シズクちゃんがなにかをしゃべっています。きっと、今朝やってきた魔物のことをしゃべっているのでしょう。


 カイはその光景をちらりと見ただけで、近づかず、他の友だちに声をかけました。


 その日は一日、シズクちゃんとは話をしませんでした。そういえば今日は、まだ、ルルちゃんとゴエモンとも口をきいていません。気分の重い、いやな日でした。


 係りの仕事があったために、カイの下校は少しおくれました。家までもう少しの距離になったときです。昨日と同じようにまたばったりと、シズクちゃんに出くわしました。


 けれども昨日とは違います。シズクちゃんはすでにいったん家に戻ったようで、かばんを持っていません。それにシズクちゃんは一人ではありませんでした。


 なんと、魔物をつれていたのです!


 カイはあっけにとられてその魔物を見つめました。これがきっと、今日やってきたシズクちゃんの相棒でしょう。


 それはシカでした。大きな、美しいシカだったのです。


 からだの色は少し灰色をおびた白でした。細く長い足がすらりとして優雅な胴体をささえていました。立派なつのもついていました。曲線を描き、枝分かれした、オパールのような乳白色のつのでした。ルルちゃんのつのとは違いました。


 カイは足を止めました。シズクちゃんもカイに気づきました。そして恥ずかしそうな顔をしました。


「……それ、今日きた魔物?」


 カイがたずねます。シズクちゃんはうなずきました。


「そうなの」


 魔物が、シズクちゃんとともにカイの近くにやってきます。宝石のような黒い目が、じっとカイを見つめました。おだやかでかしこそうな目でした。


「……なんていう名前なの?」

「ライカ」


 シズクちゃんが短く答えました。ライカはカイに言います。


「はじめまして」


 若い男性的な声でした。深みがあり、目と同じく、おだやかでかしこそうでした。ちょっとのことでは動じなさそうな、落ち着きのある声でした。


「すてきな……魔物だね」


 カイは言いました。シズクちゃんはますます恥ずかしそうになりました。


「そうかな」

「うん。とてもすてきだよ。なんていうか……好きだな」

「えっ」


 シズクちゃんがおどろいた顔をしてカイを見つめます。カイは早口に、ややぶっきらぼうに言いました。


「こういう魔物、好き」

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