第5話 それなりに忙しい日

 俺が空間トンネルを使わない理由は、有料である事と瞬時に移動した先になにがあるか分からないからだった。

 まだ俺の船が超光速航行が出来ない頃、空間トンネルを使わないと仕事にならないので、やむを得ず使った事があるが、何度となく他の船に衝突しそうになったり、散々な目にああったので、今はよほどの事がない限り使わない事にしていた。

 船の操舵室に入ると、他の全員が揃っていて、それぞれがそれぞれの仕事をしていた。

「よし、まずはガリバルディだ。通り道にあるし、急ぎの客が二名いるからな。その後はミスカインだ。航路設定をしてフライト許可をとれ。特にミスカインは救急隊を準備するように指示をだせ」

「分かった。ガリバルディ経由のミスカインだね」

 アイリーンが無線で管制塔と連絡をとり、許可がでたようで自動的にモニターに経路が表示された。

「許可取れたよ。ミスカインの宇宙港には救急車の群れが集まったみたい」

「分かった。乗客の方はどうなってるか……」

 俺は無線のチャンネルを船内に設定した。

「乗客の数はどうだ?」

「二十八名です。怪我人が多いので、急いで下さい」

 チーフパーサが冷静に答えてきた。

「操舵室も準備が出来た。すぐに出発する」

 俺はコンソールのボタンを叩き、ベルト着用のサインを出した。

「よし、行くぞ。ビスコッティ、頼んだ」

「はい、離床します」

 重力制御システムが微かに音を立てる中、俺の船は乗客を乗せて空に舞い上がった。

「メインエンジン使用可能まで百二十分」

 スコーンがコンソールのボタンを叩きながら、短く報告してきた。

「よし、あとはオートに任せよう」

 船の操舵をオートに切り替え、船は順調に航行を開始した。


 ガリバルディはこれといった特色ない星だったが、僅かながらも宝石が採れるということで、鉱山がいくつかあった。

 ここで、赤ジャケットと黒スーツの客を降ろし、俺たちはすぐに離床して再び宇宙へと向かって舞い上がった。

 残る客は負傷者なので、ゆっくりするわけにもいかず、メインエンジン使用可能線を越えると同時に、出力を100%にして一気に加速した。

「スコーン、エンジンのご機嫌は?」

「快調だよ。どのエンジンも異常なし」

 スコーンがすぐに声を上げた。

「では問題な。まもなく、超光速飛行に移る。揺れるぞ」

 船体がバタバタ揺れはじめ、周りにあった星々が消えて真っ暗になった。

「現在、超光速。光速の約二倍です」

 ビスコッティが報告した。

「光速度まで落として下さい。ミスカインを通り越してしまいます」

 パステルが報告してきた。

 俺はスロットルレバーを操作して、エンジンの出力を絞った。

 すぐに星空が戻り、正面に青い惑星が見えた。

 このままでは減速しても間に合わないので、メインエンジン使用可能線まで最大限の逆噴射して速度を殺し、後はサブエンジンとブレーキ用のスラスタに任せた。

 それでも大気圏突入には速すぎたので、ミスカインの周回軌道を何回か回ったあと、十分に減速してから、港からの誘導に合わせて大気圏内に突入した。

「この船、ちょっと速すぎますよ」

 ビスコッティが笑った。

「俺は遅い船は嫌いだ。さて、着いたら救急隊に任せよう。俺たちがやれることは、CAチームを動かすだけだ」

 俺は小さく笑みを浮かべた。


 救急隊員によって、客室から全ての負傷者が運び出され、集まっていた救急車によって病院に搬送されていくと、俺はホッとした。

「さて、コンフリへ帰るぞ。パステルとラパト。最短の航路を設定してくれ」

 俺は笑みを浮かべた。

「はい、分かりました。少し検討します」

 パステルとラパトが話し合いをはじめ、スコーンは仕切りにコンソールのボタンを叩いていた。

「スコーン、どうした。なにかあったか?」

「なにもないよ。ただ、機関士と調整してるだけ。非常時のリミッタを400%にするかエンジン設計ギリギリの500%にしようか、打ち合わせ中だよ」

 スコーンが笑みを浮かべた。

「ギリギリはいかんな。多少遊びを作ってくれ」

「分かった!!」

 スコーンが元気に答えた。

「アイリーン、なにか情報はあるか?」

「コンフリの大型客船の事故ばかりだね。元々機関不良っで着陸しようとしていたみたいだよ。生存者がいただけ奇跡だって」

 アイリーンが苦笑した。

「そうか、それであんなちっぽけな田舎宇宙港に着陸を試みていたのか。仮に上手くいっても、港が全壊する大きさだったな。無傷とはいくまい」

 俺はため息を吐いた。

「お待たせしました。検討の結果、一番近い航路を設定しました」

 パステルの声が聞こえ、俺はディスプレイに線で表示された航路を確認した。

「よし、問題ない。これなら、三時間で着くな。ビスコッティ、いくぞ」

「はい、離床許可は出ています。行きましょう」

 ビスコッティが笑みを浮かべ、船はゆっくりと強化コンクリート製のポッドを離れ、ゆっくりと空に上っていった。

 特にトラブルもなく宇宙に出た船は、オートパイロットで設定した航路を進み、メインエンジンを全開にして進んでいった。


 オートで操舵出来ないという理由もあるが、コンフリ名物小惑星帯は俺のちょうどいい遊び場だった。

 岩の間を高速で駆け抜けるスリルを味わったあと、コンフリ宇宙港の誘導波に乗ればあとはフルオートモードで、自動的に着陸する。

 フルオートモードは解除できないので、退屈そのものだった。

 コンフリの大気圏に入ると、俺はシートの背もたれに身を預けた。

「スコーン、メインエンジンは眠らせたか。安全装置を作動させておかないと、それだけで罰金だからな」

「うん、全エンジンシャットダウンして、ロックも掛けておいた。今動いてるのは、サブエンジンとスラスタだけ」

 スコーンが元気よく答えた。

「うむ、ならばいい。チェックリストはもう済んだが、やってやり過ぎる事はないだろう」

 俺は笑みを浮かべた。

「コンフリから。気象条件がよくないよ。港に砂嵐接近中。入港を継続するかゴーアラウンドするか聞いてきてる」

 アイリーンの声が、インカム越しに聞こえてきた。

「分かった。気象データを出してくれ」

 アイリーンがコンソールのスイッチを弾き、傍受した気象データを俺とビスコッティのディスプレイに映し出した。

「船長、タッチダウン限界風力です」

 ビスコッティが告げた。

「タッチダウンまで三十五秒。今からやり直す方がリスクが高い。このままいくぞ」

 俺は念のため、操縦桿を握った。

 風で時々バランスを崩しながらも、俺の船は管制の指示通り、三十一番スポットに着陸した。

「よし、チェックリストやるぞ」

 俺が声を上げ、総員で着陸後チェックリストをおこなった。

「総員チェックを終わりました」

 ビスコッティが告げた。

「うむ、では休もうか。今は砂嵐が接近中だ。船内に留まった方がいいだろう」

 俺はシートベルトを外し、ビスコッティは様子をみにやってきたチーフパーサに酒を注文した。

「まあ、今日も忙しかったな。いつもこうあって欲しいものだ」

 俺は自家製のまたたび酒をシートサイドのポケットから瓶を取りだし、栓を開けて器に注ぎ、一杯引っかけたのだった。

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