第30話 剣聖ノ閃滅[第2階層編]

 ブゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンン!!!!!



 辺り一体に響き渡る耳障りな羽音を聞きながら、

 隠していたサブ職業【剣聖】を開放したオレは【黒刀-月影-】を構える。



 オレ以外の全員が麻痺と猛毒の状態異常になっているため、みんなのHPはどんどん減っていく。



 1人でも欠けてしまえば、【世界クエスト】は失敗となってしまうため、時間をかけている場合ではなかった。




 ——職業【剣聖】が開放されたため、職業専用スキル【剣聖ノ閃滅】が使用可能になりました。




 ○【剣聖ノ閃滅けんせいのせんめつ

 →職業【剣聖】専用スキル。保有MPの全てを使用し、滅びの一撃を与える。ダメージ倍率は使用MP値の大きさで変化する。





 ——現在の残存MP値でスキルを使用した場合の倍率は "30倍" です。【剣聖ノ閃滅】を使用しますか?


《YES / NO》




「当然 "YES"だ。」



 全MP値が使用され、ものすごい閃光のエフェクトが【黒刀-月影-】の刃に集約されていく。



 MPポーションを口にして、MP値を少量だが回復させてから、オレは "OFF" にしていたスキル【神域ゾーン】を再度発動した。




 そんなオレの様子に危機を察知したのか "女王蜂" は空高く飛び上がり、近接どころか遠距離攻撃さえ当たらないところまで離れてしまっていた。




 正直なところ "女王蜂" が危機を察知するのも無理はなかった。




 ATK(物理攻撃力)3,300+2,000(黒刀-月影-の装備ボーナス値)=5,300


 5300×30(剣聖の閃滅の倍率)=159,000


 159,000×2(神域の効果)=318,000




 つまり今まさに放たんとしているオレの攻撃は[ATK値:318,000]のお化けステータスで攻撃するのと同じなのだ。





 ただ "女王蜂" はオレの攻撃は射程外なため確実に外れると踏んで、スキルを外した後の隙を狙って攻撃を仕掛けようと準備をしていた。



「離れてれば安心だって思ったんだろ?期待を裏切って悪かったな……【神速ソニックムーブ】。」



 オレはユニークスキル【神速ソニックムーブ】を使用し、一瞬ではるか上空の "女王蜂" の目の前へ移動した。



「じゃあな。……【剣聖ノ閃滅】!!!」



 そのまま閃光のエフェクトを纏った【黒刀-月影-】で専用スキル【剣聖ノ閃滅】を使用すると、周囲一帯に眩い閃光が広がり、もし地上で放っていたら地形が大きく変化してしまったのではないかと思うほどの、高威力の技で "女王蜂" は一撃で灰塵と化した。




 ——Congratulations!



 ——【緊急クエスト】並びに【世界クエスト】をパーフェクトクリアしました。


 ——レベルが上がりました。

 ——レベルが上がりました。

 ——レベルが上がりました。


 ——【黒刀-月影-】(C)のランクが上がりました。→【黒刀-星刃-】(B)。



 ——特別報酬により状態異常【成長加速レベルアッパー】が付与されました。


 ——第3階層が開放されました。


 ——ギルドシステムが開放されました。




 ♢


 まさかあんな攻撃を仕掛けてくるなんて……初心者の私にとっては予想外すぎた。



 なのでイザナくんが "キラービー" を全て倒した後に"女王蜂" から麻痺と猛毒を受けた瞬間は、正直もうダメかもしれない……っと思った。



 ただ先程のものすごい閃光が走った後、私を含めたプレイヤー全員の麻痺状態が解除され、身体の自由が利くようになったため、回復職が必死にヒールを行ったことで幸いなことに犠牲者は出なかった。



 そしてレイドボスの "女王蜂" がどこにも確認されず、クエストクリアの表示がされていたことから誰かによって討伐されたことに気付いた。



 ……そっか。これって、イザナくんが全部1人でやったんだ。



 麻痺と猛毒に苦しめられていたため、実際に確認した訳ではなかったが、私は確信していた。



「死ぬかと思ったっすよ。ってあれ? "女王蜂"は?」


「きっとイザナくんが……全部1人で終わらせちゃったの。」


「はは……。かなでちゃんそれまじっすか?」



 私の言葉を、ルイくんは信じきれないといった様子だったが "略奪のサド" との戦いを見ていた、ほむらちゃんとタケルくんも間違いないと確信している表情だった。



「これは俺たちの中で閉まっておこう。周りは誰も気付いてないだろうし。こんなの広まってしまったらイザナが大変なことに巻き込まれてしまう。」


 タケルくんがそう提案してくれる。



「ありがとう、みんな。イザナくんもきっとそうしてほしいと思うから、私からもお願いします。」


 私はみんなに念を押すかのように、再度お願いした。



「も〜。なんでかなでがお願いするのよ。こんなに想ってるんだから、早くイザナに気持ち伝えなきゃだよ。」


 ほむらちゃんから気持ちを伝えるという言葉が出てきて、急に気恥ずかしくなる。


「ええっと……気持ちを伝えるって?!」


「決まってるじゃない。告白よ。こ・く・は・く!」


 告白という言葉を聞いて、私の顔は真っ赤になってしまった。



「そそそ……そんなのむりだよ。イザナくんあんな素敵だからきっと彼女さんいると思うし。」


 イザナくんのことは、素直に言ってしまえば大好きだった。

 でも告白や付き合うということまでは考えていなかった。



「彼女がいるなんてイザナが言ってた訳じゃないんでしょ?悩むのも分かるけど、ちゃんと伝えることも大事だと思うよ。」


「う……うん。言えそうな機会があったら伝えてみようかな。」



 ほむらちゃんにはそう答えたが、まだまだみんなで一緒にいる時間はあるだろうし、その気になればいつでも伝えることができるので、あまり前向きには考えていなかった。



 そんなこんなを話している内に、イザナくんが戻ってきて、


「みんな無事でよかった。」


 と、私たちに話してきた。



 こうして私たちは第1階層の時と同様に、みんな揃って第3階層へ向かった。




 まさか第3階層であんなことが起こるなんて、夢にも思わないまま……。










 ——システムより、皆様へ新しい情報をお伝えします。



 ○【黒刀-星刃-】(B)

 →ランクが1つ上がり、強化された黒刀。装備時にATK(物理攻撃力)+2500 / AGI(素早さ)+1000の効果がある。



 ○【成長加速レベルアッパー】(状態異常)

 →この状態異常が付与されている限り、獲得できる経験値が大幅に上昇する。中々巡り会うことのできない激レアの状態。

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