日常のかけら

@OPIUM

 豪雨

 ある夏の日。中学校の帰り道。部活終わりの体操服姿で自転車をこいでいると、寂れた商店街に差し掛かる。


 不意に風が吹いた。生温かさの中にひんやりとした空気が混ざっている。夏らしいこの感じ。エベレストの様な入道雲が、天空の世界でそびえ立っている。

ポツリ―――


首すじに冷たい感触が伝わる。

 自転車をこぐのをやめ、空を見上げた瞬間、

ザーッ―――


世界を水で沈めてしまおうと、勢いよく雨が降ってきた。鞄の中の折りたたみ傘では、歯が立ちそうもない。急いで雨宿りできそうな場所を探す。


 近くのシャッターが閉まった店のひさしの下に入る。絶え間ない雨音を聞きながら雨が止むのを待つ。


――このまま雨が止まず、明日休校になればいいのに。

 

そんな考えが頭をよぎった。しかし、この後友達と遊ぶ約束をしていたのを思い出す。


 雨音が消える。空からいくつもの光の線が地上に降り注ぐ。ペダルをグッと力づよく踏み込んだ。


 自転車をこぐ少年の背中が、どんどんちいさくなってゆく。空に架かった七色のアーチの先へ、越えて行きそうな勢いで。

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