血のような赤い恋をした

無機千代子

血のような赤い恋をした

食む、歯を立てたまま顔を手から離すと

ゴリゴリという音と共に少しの痛さが

神経から伝わってくる

この行為をするのは何度目だろうか、

5度目を越えた時から数える事は無駄だと

悟り、もう、数えていない。

唯、手が変色していることだけはわかる。

心に虚しく遺るのは異形化した

尊敬だけである。

鈍く痛む斑模様

袖を伸ばし隠し通すファッション

自己否定のヘドニズム 自己満足のエゴイズム

アタシに土曜と日曜は来なくてもいい。

ただ、貴方に逢いたいだけだから。


貴方の笑顔を見せて欲しいから。


脳に響くのは声によく似た聴き心地の良い音何気ない会話ですら

甘美な言葉に聴こえるのはきっと、

貴方に酔ってしまったからなのであろう。

貴方の白い肌にポツリと出来た

蚊に刺され跡でさえ

心が引きちぎれそうなくらい、

嫉妬してしまうのは恐らく

病気なのだろう

そうでしょう。


でもそれは違うって教えてくれる

貴方が好き。

だから、貴方の教えてくれた言葉を

かき集めたラブレタァを書いたの、

アタシは数十人の1部にしか、

ならないのでしょうけれども、アタシ、

こんなにも、とっても、勇気を出して、

書き綴っているのに大勢の1部なんて

罪深いじゃない。

心配の言葉ですら

ただの雑談の1部ですらないのはなに?

自分の癌よりも貴方の腰痛の方が怖いのよ。

自分の余命宣告よりも貴方の病欠の方が

恐ろしく体の震えが

こんなにも止まらないのよ

「いつ死んだっていい」のなら、

アタシに頂戴な。

アタシこんなに想い焦がれて、

求めているのにフェアじゃあないじゃあない


貴方が毎日雑に扱うその黒い糸でさえ、

アタシには絹の糸に観じるのよ

狂っているのは理解ってるけれども、

アタシは貴方がアタシの元へ来るって

理解っているのよ


だから今日も、黒い花嫁衣装を着ているの。ブラウス・ベスト・スカート・ブレザー

未だにたどたどしくリボンを結んで。


なあ、ねえ、先生、同級生のアノコは貴方をヒーローだなんて云うのよ、

面白いでしょう?

ヒーローは大勢の為に自分を投げ出す

質の良い奴隷なんですもの、

貴方には似合う筈ないじゃあないの、

ねえ。

それは違うだなんて貴方も

疲れていらっしゃいますこと


愛おしそうに他生徒の事を口に出す

貴方の顔は大嫌いなのよ。

アタシだけを見つめて、じっと、もっと。

要らないのはアイツらで、アタシじゃない。運命の真ァ赤な糸は、

きっとアタシ達に絡まりすぎて

きっと1つの紐になっているのよ、

それくらいの運命なの


なのに、誕生日ですら祝福してくれないのは何かしらアタシの誕生日なのに、


行事を優先するのね。


他の先生の言葉なんか要らないのよ、あぁ、不快。

貴方に踊らされる阿呆のアタシとそれを見る阿呆のアノコ


どっちが距離が近いのかしら。

皆赤子の頃はダァダァ言うだけの

阿呆だけれんども

それを愛おしいというカテゴライズに

入れられるのは

なんともまぁ憎たらしいことでしょう。

弁論大会の一文に貴方の御言葉を

借りようと思うのよ。

嬉しそうね、それはそうねえ、

アタシだもんねえ。


ええまた、教室で。


教室は先生が居ない時は地獄の猿園なのよ。教室の阿呆共は今日もどんちゃん騒ぎ

流れ行く俳優やドラマ、アニメ。どれもにわかじゃないか。


私の好きな人は先生だし、好きな曲も先生の聴いてる洋楽。


私だけが沢山知ってるのよ、

先生のことを沢山。何も知らない醜女に、


取られてたまるものか。


私の嫉妬心は炎よりも熱く、

溶岩よりもねばっこいんだ


派手過ぎない塩顔、口元の黒子、

歯を見せない笑い方

よく似合ってる赤いTシャツ、

高すぎない身長、

低くも高くもない程よい声、

常に組んでる足

その全てが心を踊らせてやまないのよ。


何ヶ月も、何日も、何秒も、

待ち焦がれていたけれど

貴方から1度も愛の言葉が無いなんて、

おかしいじゃないの。ねえ、

どういうことなのかしら。


春に惚れ夏に焦がれ秋に泣き冬に喚き、


また、春に枯れる。


ネクタイを締めている貴方のそのお姿に惚れました

愛おしい、と感じました。

桜が舞い散る新しい季節に新たな花が

咲きました。それはとても可憐でした

美しい世界に愛を、尊ぶべき貴方に恋を、

捧げましょう、捧げましょう。

なにをやったって失敗ばかりの私に

笑いかけてくれたのは貴方だけなのです。

そうなのです。

歌を聞いたって校長のご高説を聞いたって


目で追うのは


貴方だけでした、


貴方のその笑顔を何度も見ていたい、

そう願った。

担任は貴方だったことが幸せだった



それだけで、充分だったの。


入学式から卒業式の日まで、ずぅっと、

ずぅっと、愛しておりました。

また酷く殺したくなっておりました。

近くの海はとても綺麗で

貴方を沈めるにはちょうど良かったのです。

先生 ずっと、慕っておりました。

アタシの愛を受け取って、享受して、


嗚呼、困惑したようなその顔が、1番見たかったのかもしれない。


嗚呼、好きだったその顔が嫌悪に染まる。

嫌いだったのね。アタシ、騙されたのね。


そうね、教師なんて嘘をおつきになるのね

お月様のように嘘をついていらっしゃったね

月は綺麗なんかじゃないのね。

その光は貴方の物じゃないのね、嘘なのね。

嘘の月になんてまどわされちゃってアタシ、なんて、不幸なのかしら

アタシの恋は月のように満ちて、満ちて、


欠けた。


恋なんて素晴らしいものなんかじゃないの。

恋は命を一方的に捧げる自己犠牲の献身なの

自由に責任はあるけれど、こんな仕打ち、アタシには重すぎて病んなっちゃう

嗚呼、私の命を貴方の物にして欲しかった。アタシ、もう命なんて要らないわ。


アナタの読めない言語で書いてあげるわ

ラブレター。


破いて渡すわ。


この恋に始まりなんてないの。終わりが無いものに始まりをつけるだなんて

世の中のレディは馬鹿みたい。


アタシ、ほんっとこんなクソな恋初めてだった。


ほんの少しだけの強がりをして、


胸元の造られた花々はフルリと、濡れていた

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る