ISEKAKU ~異世界格闘技に人類最強が参戦したら、どうなるのか?~

佐雲渡(さうんど)

第0話:プロローグ

ご閲覧ありがとうございます!

初めて書く小説です。

もしよければ、ご意見聴かせてください。

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――2021年 7月7日 16時――


 7月も初旬だというのに蒸し暑い。

 都内の気温は35℃を超え、今年一番の暑さとなった。

 せみの声が遠くからがなり立て、人々の気力を奪っていく。


 そんな夏の最中、一人の男がシャドー(ボクシング)を行っている。

 ここは東京ドームの控え室。今夜行われる「世紀の対戦」の目前。

 エアコンが完備されてさえ、見ている者まで暑くなりそうな気迫である。


「シュッ、シュッ、シュッ」


 この男の名は、東 敬吾(あずまけいご)32歳。

 これまで、数々の格闘技団体の王座を獲得した、人類最強と言われる男だ。

 そのほとんどを、1ラウンドでKOするという、異常なまでのハードパンチを有する怪物でもある。


 身長175cmとヘビー級では小柄ながら、体重95kgと、とにかく横幅がデカいのだ。

 それでいて、体脂肪率は8%を切っているから恐ろしい。


 肌は白く、鋭い切れ長の目、あごひげに、武骨な黒い短髪。

 こめかみには、稲妻のような形の傷跡がある。

 地味ながら、一目見ただけで只者でない雰囲気を醸しだす。


 敬吾はシャドーを終え、一息つくことにした。

 ひととおりの練習は済ませたが、物足りないといった表情だ。


 出番は、まだまだ先である。しかし、いつもこうしてトレーニングしていないと落ち着かないたちらしい。

 恵まれた肉体以上に努力を怠らない、非の打ちどころのない天才なのだ。



 ところ変わって、別の控室。

 先ほどの敬吾と対戦する、その男がエアロバイクを漕ぎ終わり、ペットボトルの水を飲みほしている。

 男の名は大橋 煌羅(おおはしきら)25歳。別名トリック・キラーとよばれ、意表を突く行動で相手を翻弄ほんろうする、もう一人の天才だ。


 身長182cm、体重91キロ。巨体の割に体脂肪が少なく、スラっとして見える。

 スポーツマンらしい小麦色の肌に、キラキラした大きな目が特徴のイケメンファイターでもあった。


 ショートヘアーの髪はオレンジ色に染められ、よく目立つ。

 右肩には死神のタトゥー、鼻や耳には金のピアスと、とにかく派手なボクサーだ。

 性格は明るく、よくしゃべり、少々「チャラい」印象を与える男である。


 一見、陽気そうな彼なのだが、実は敬吾とは深い因縁の間がらであった。

 さかのぼること5年前、場所は同じ東京ドーム。

 この地で、敬吾に人生初の負けを喫したのだ。

 その時、差し違えるように相手のこめかみにも、深い傷を負わせることになったのであるが……。

 1分32秒、失神KO。それまで、ケンカですら負けたことのない男が、格闘家として最大の恥辱ちじょくを味わった。


 それからというもの、人が変わったように猛特訓に励み、復讐の鬼と化していく。

 急こう配での坂道ダッシュを50kgを背負って毎日100本行い、動きの早い軽量級の選手達と寸止めスパーリングを何十ラウンドもこなす。

 打撃では、サンドバッグで物足りず、近所の大木をなぎ倒して練習に励んだのだ。


 特訓は熾烈しれつを極め、一日の消費カロリーは成人男性5~6人分に当たる12,000Kcalにも及んだという。

 積み重なるオーバーワークにより、食事が喉を通らない時も、吐きながら毎回決めた量を食べきった。

 結果、彼は人類を超越した肉体を手に入れることとなる。


 今回のトーナメントでも、予選から準決勝までの6試合を、全て数十秒以内に決着してしまう。

 初回から、人間技とは思えぬ俊敏さで相手に何もさせず、一方的に嵐のような斬撃を浴びせた。

 時にそれは、猫科の大型動物が、たやすく人間を狩る姿にさえ見えたという。

 ただ敬吾を倒す為だけに費やした5年間が今、実ろうとしているのである。


「いけね、買い足してなかったっけ?」


 キラは、携帯していたゼリー食がなくなったことに気が付いた。

 火照ほてる身体を冷やすついでに、売店まで買いに行くことにする。

 コート掛けに吊るしてあるガウンを手に取ると、出口へと歩きだす。

 キラが控室のドアを開けると、プロモーターの貪 芹具(どんきんぐ)と鉢合った。


「大橋くん、ちょうどカットマン(止血士)の人が到着したところなんだ。挨拶してくれないか?」

 どんはそう言いながら、開きかかったドアを大きく開けて、キラを廊下に出るよう促す。


 そこには、緑の髪色をした全身タトゥーの白人女性が立っていた。

 風変りな容姿だが、透き通る白い肌とサファイアのような碧眼へきがんが美しい。

 その美貌びぼうに、思わず息を飲んだ。


「え? 白人さん? てか、女性でカットマンとかって、いたんだ!?」


 狼狽うろたえながらもキラの目は、彼女に釘付けである。

 どんな声をしているんだろうか? 緊張と興奮で胸が高まる。


――第一声はやっぱ、ハローとかかな? 俺、頭わりーから英語とかできねーよ……。


「はじめまして。鷹峰・グレース・麗奈(たかみね・ぐれーす・れな)と申します。長い名前ですので麗奈と呼んでください。見た目はアメリカ人に見えると思いますが、150年前の祖先は日本人でした」


 鈴を転がすような澄んだ声。しかも、外見とは全く違う、流暢りゅうちょうな日本語であった。

 目をつむっていれば、日本人が話しているようにしか聞こえないだろう。


「ハウドゥ・ドゥ・ドゥーだっけ? ちげーな、英語で言おうとしたけど、やっぱできねー。ははは。俺はキラ、はじめまして!」


 照れ笑いをするキラを見て、麗奈が笑った。


「大橋君は若いねぇ。僕なんて、この歳になると美人の前でも、ときめかなくなっちゃったからね。はははははは」


 貪が冗談を交えながら続ける。


「彼女はねぇ、とびきり優秀なカットマンで、アメリカで医師免許も持ってるんだ。あと、大手薬品メーカーのご令嬢で、女子ボクシングで世界3階級を制覇した、一流のプロボクサーでもあったんだ」


「どんだけ、盛沢山だよ! てか、ボクシングできるの? じゃあ、おれとスパー(スパーリング)してみる?」


 にやにやしながら、キラが麗奈に向かってファイティングポーズをとった。


「いいわよ、相手してあげるわ」


 初対面での無礼な態度に、麗奈は笑いながらも、腹立たしそうである。軽く見られたと思ったのであろう。


 キラは冗談めかしに、遠め目からジャブを浴びせた。

 しかし、麗奈の姿が一瞬で視界から消える。

 そう思った次の瞬間、彼女の両こぶしがキラの顔面スレスレまで突き出されていた。


 女性だからと油断してはいたのは確かだが、こんなに距離を詰め寄られていたことに面食らう。

 あわてた挙句、後ずさりまでさせられ、キラは全身から冷や汗が出た。


 よくみると、両手の指に文字タトゥーが刻まれている。


――NO ⌛ 4 SCUM !?


「NO TIME FOR SCUM」と読むのだろうか?

 キラがその意味を尋ねた。

 すると――


「相手するに値しない、クズに使う時間はないって意味よ。あなたは、どっちかしらね?」


 すこし勝ち誇った顔にみえた。

 大事件が起こる、ほんの5時間前の出来事である。


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最後までお付き合いいただきありがとうございます。

ドキドキするような作品にしていきますので、どうぞよろしくお願いします。


次号、運命の決勝戦!

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