第3話 2人の過去から現在




 前世の俺には1つ下の妹がいた。


 まあ、1歳差だから物心ついた時にはすでに存在し、妹を妹として認識出来るようになった時には、妹が可愛くて仕方がなかった。


 だから、俺は妹と常に一緒にいた・・・


 そしてめちゃくちゃ可愛がり、甘やかし・・・

 時には妹を守り・・・


 何よりも妹を優先してきた・・・


 その結果が・・・


「お兄ちゃ~ん!大好き~!」

「だから、今はお前の兄じゃねえっての!!」


 世を跨いでも超絶ブラコンぶりを発揮する、やばい妹になってしまったのだ・・・


 今世では、妹じゃなくて幼馴染だというのに・・・

 もうすでに高校生にもなっているというのに・・・


 更には、アリスはめちゃくちゃ美人に成長したし・・・


 色んな意味でやばいんだよ!!


 ・・・でも、あれ?


 今は血が繋がっていないんだよな・・・

 だからOK・・・なのか?


 ・・・いや、だから!

 外側が違っても、中身は実妹なんだって!


 いくらアリスと血が繋がっていなくても、中身は妹の陽奈なの!

 妹との恋愛はありえないだろう!?


 だから俺にとっては、妹であるアリスとの恋愛もあり得ないんだよ!


 そんな事を考えている俺に、今もしっかりと抱きついているアリス・・・


 ・・・


 ただ、こうして今世の俺にもラブラブなアリスとはいえ、最初からこうだったわけではない。


 なぜなら、出会った頃は互いに前世が兄弟だった事を知らなかったからだ。


 まあ、そりゃそうだ。

 普通は前世の記憶があるなんて思わないもんな。


 まあ、それはいいとして・・・


 俺達の家は向かい同士で同じ歳の子供を持つという事もあり、互いの両親は仲が良かった。

 そのため、俺とアリスも物心ついた頃には交流があった。


 だけどその当時のアリスは、俺が話しかけても「うん」とか「そうだね」など一言二言くらいしか交わさないようなそっけなさというか、寂し気な感じだったのを覚えている。


 しかも、同年代のキャッキャした子供達と比べると、どこか大人びているように見えた。


 幼稚園の年長に上がる頃くらいまではそんな感じだったから、仲良くなるのは難しいのかな?と思っていたのだが・・・


 俺はアリスを見ていて、ふとある事に気が付いた・・・

 気が付いてしまったのだ!


 それは・・・


 アリスがしていた仕草。

 それはかつての妹・陽奈がしていた癖を・・・


 そこで俺はつい呟いてしまった・・・


「・・・陽奈?」


 と・・・


 アリスがそれを聞いた瞬間、物凄い勢いで俺の方へ振り向き・・・


「えっ!?・・・まさか・・・智・・・ちゃん・・・なの?」


 と、俺の前世の名前を口にしたのである。


 俺は、マジかよ!と信じられない気持ちで一杯になった。


 俺だけでなく陽奈も生まれ変わった上、前世の記憶もあり、更には同じ歳の幼馴染として再び出会えるなんて・・・

 こんな奇跡的な事があるんだなって・・・


 間違いなくアリスは陽奈の生まれ変わりだと確信した俺は、そうだと頷いた。


 するとアリスは、俺に豪快なタックルをかまして押し倒してきたかと思うと、離れずに抱き着いたまま泣き喚いたのである。


 その光景を見たアリスの母親が、ビックリしながらも俺からアリスを引き離そうとしたのだが、どんなに離そうとしても離れる事はなく、その日はほぼ一日中抱き着いたままの状態だった。


 その時は、俺もまた妹に会えて嬉しかったから、そのままにさせておいた。


 ちなみにアリスが俺を“お兄ちゃん”ではなく“智ちゃん”と呼んだのは、本当に陽奈の兄・智樹なのかを確認するためである。


 それと・・・

 今世の幼い頃の俺にそっけない態度だったのは、アリス曰く・・・


「いくら生まれ変わったからって、お兄ちゃんと二度と会えないと思ったら寂しかったんだよ」


 という事らしい・・・


 まあそれはそれで、妹は俺以外の人にはこういう感じで接するんだな、と俺は優越感を感じたもんだ。


 しかし・・・


 今となっては、その時に呟いてしまった事が間違っていたと断言出来る。


 なぜなら・・・


「ムフ~、お兄ちゃん成分・・・充填中♪」

「だああああ!離れてくれええええ!」


 と、それ以来ずっと、会う度に俺から離れなくなってしまったからである・・・


「すーはー、すーはー・・・はぁ・・・お兄ちゃんの良い匂いが・・・」

「いや、どさくさに紛れてスーハ―すんな!何で匂い嗅いでんだよ!やめろ!やめてくれ~!」


 くそがっ!!

 良い匂いなのはアリスだろが!!


 このアリスの匂い・・・

 俺の方が病みつきになりそうじゃねえかよ!!


 って、ちげえんだよ!

 病みつきになっちゃダメなんだよ!


 いや、ダメな事はないんだが、俺の気持ち的にはアウトなのだ。


 ・・・・・


 ・・・いいか!?

 誤解のないように言っておく!


 アリスは超絶美人だ!

 だからという訳じゃないが、俺はアリスが大好きだ!


 この状況が嬉しいか嬉しくないかで言えば・・・

 そりゃ嬉しいさ!!


 だからアリスがアリスだったら、俺も迷わずに付き合っていたはずさ!

 一生を遂げてもいいと思える程に・・・


 ただ・・・

 アリスが陽奈でさえなければ・・・


 いや、そこも誤解の無いように言っておく!


 俺は陽奈も大好きだ!

 愛していたと言っても過言ではない!


 しかし、それは家族としての愛だ!

 俺はそれ以上を求めてはいない!


 それなのに・・・

 外側がアリスで中身が陽奈なんて・・・


 究極のジレンマだよ・・・

 何?この究極の拷問・・・


 いくら血の繋がりのない幼馴染とはいえ、中身が実の妹との恋愛なんて出来るわけないじゃん・・・

 抵抗感満載だよ・・・


 っていうか・・・


「ちょっと、そろそろ離れてくれ!今は通学途中なんだから!」


 そう・・・

 俺達は今、学校へ向かっている。


 なのに、アリスは俺にぴったりと抱き着いて離れないのである。


「うるさい!お兄ちゃんは黙ってて!」

「ええ~!?」


 いきなり何!?怒られたんだけど!?

 黙れって言われちゃったんですけど!?


 俺、泣いちゃうよ?

 シクシク・・・


「今、お兄ちゃんに変な虫が寄り付かないように、アリスはマーキングしてるんだから!」


 ・・・・・


 いや、ちょっと!

 怒られたと思ったら、真面目な顔して何言ってんの!?何言っちゃってんの!?


 マーキングとか、意味わかんなすぎだろが!!

 アリスの匂いを俺に付けてるって事か!?


 あれか?

 女性は匂いに敏感だというから、本当にアリスの匂いが他の女性にわかるのか!?


 つーか・・・


「いや、マジでいい加減に離れてくれ!皆に見られるだろが!」


 他の通学生達がちらほら見られるから、もうすでに手遅れかもしれんが・・・


「ええ~?いいじゃん♪もっと皆に見せつけちゃおうよ♪」

「だあああああ!それだけは勘弁してくれええ!」


 アリス(中身が実妹)とは恋愛出来ないの!


 そして俺はね・・・


 普通に友達を作りたいし・・・

 何よりも、普通の恋愛がしたいの!


 それなのに、こんな状況じゃ誰もよりつかんだろが!


 うう・・・

 俺のバラ色の高校生活がぁ・・・


 もうすでに崩壊しかけている・・・


 とはいえ、高校に入ってすでに2カ月。

 だから俺にだって、仲の良い友人はいるのだ!


 ・・・

 1人、2人だけど・・・


 ・・・


 ・・・うっさい!


 同情すんな!

 同情するなら彼女くれ!


 そんな事を考えながらも、抱き着いて離れないアリスを無理矢理べりッと引き剥がす。


「あ~ん、お兄ちゃ~ん!」

「こらっ、さっきまでは見逃していたが、外で兄呼びは禁止だと言っただろう!?うちを出禁にしてもいいのか?」


「んぐっ・・・わかったよ~、蒼ちゃん」

「それも、人前では恥ずかしいんだけど・・・まあ、それで良しとするか」


 ・・・って、おい!そこ!

 蒼って誰だ!?って思っただろ!!


 俺の今世の名前!

 今世の名前が蒼太だっての!


 いくら、アリスが俺の名前を全然呼ばないからって忘れんなや!!


 と、誰に言っているのかわからない事を考えていると・・・


「ねえねえ、蒼ちゃん!抱き着くのがだめなら、これならいいよね♪」


 と、俺の身体から引き剥がしたはずのアリスが、今度は俺の腕にガッチリとしがみついてきた。


「まあ、それくらいならいっか・・・」


 何だかんだ言っても、アリスに甘い俺・・・


 抱き着かれたままよりはましかと、そのままの状態で学校に向かうのであった。


 結局の所、今世もアリス陽奈にも毒されていると気が付く事もないまま・・・


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